海で〇〇〇する二見さん


 夏休みに入り、私は近場の海へとやってきた。コミュ障ぼっちのくせに海に行くのかよとツッコまれそうだが、私だって来たくてきたんじゃない。

 実は今日、二見さんたちが海に行くということを知っていたのだ。そして海といえば……あれだ、ポロリだ。

 水着がズレて見えちゃいけないものが見えてしまう。イベントの定番みたいなものだし、抜けてる二見さんであれば間違いなくポロリしちゃうだろう。

 ラッキースケベ拝ませてたまるか! と、意気込んでここにいる。


 にしても、眩しい……。太陽がじゃない、二見さんの水着がだ。

 ビキニタイプのそれは彼女のおっぱいを包み込み、美しさと丸みを際立たせている。中学校のときに着てたスク水の私とは雲泥の差だ。

 日傘をさしながら、岩場の陰に隠れ、二見さんたちの様子をこっそり眺める。


 「よーし、んじゃ日焼け止め塗り合いっこしよっか」

 「賛成! ほら環、後ろ向いて」


 みんな楽しそうだ。友達いない私には一生経験できないものだし、こうして目に焼き付けることしかできない。

 などとちょっぴり物悲しくなってる間に、日焼け止めを塗り終わった三人が、海へと向かっていく。

 あ、でもナンパされてる! 助けなきゃ!


 私は気配を消し、持っていた氷(小さく砕いたやつ)を指で弾き飛ばす。


 「うおっ!? な、なんだ!」

 「いてぇしつめてぇ! 逃げるぞ!」

 

 よしよし、邪魔者はいなくなったぞ。他愛のないやつらめ。

 内心でほくそ笑みながら、二見さんたちの入水を見守る。


 「っ!」


 と、今度は前方に二見さんをスマホで撮影しようとしてるやつ発見! 許すまじ!

 そいつにも氷のつぶてをお見舞いしてやる。


 「ぐわぁっ! 冷たい! ど、どこから――痛いっ!」


 ビシビシとぶつけ続けていたら、涙目になって去っていった。さっきのナンパ男たちよりもしぶとかったな。執念のようなものを感じる。

 額にかいた汗をぬぐいながら、キョロキョロと辺りを見回す。

 二見さんたちはもう海に入っていて、楽しそうにしていた。

 

 私もこっそり浸かり、離れたところから観察させてもらう。

 そういえば水着は無事だろうか? ポロってないだろうか? 気になったので少しだけ近づき、海に顔をつけてみる。


 「っ!」


 結論から言おう。二見さんの水着はズレてた。

 海の中で激しめに上下してるからだろう、下乳の辺りが露わになってしまっている。かろうじて、さくらんぼ(隠語)に引っかかってる状態らしく、周りを囲う色濃い部分はほぼ見えちゃってた。

 でも、二見さんは気づいてない様子だ。このままじゃ大変なことになる。

 海から上がった二見さんを、群衆が目にした瞬間、


 『オー! ハレンチガール! ベリーベリーナイスですねー!』

 『うおおおっ! 美人のおっぱいポロリキタコレ!』

 『おい邪魔だどけ! あのおっぱいをもっと近くで見せろ!』

 

 ――と、真夏の太陽にも負けないぐらいの熱い戦いが勃発するに違いない。渦中の二見さんは視線の集まり具合でそのことに気付き、恥ずかしい思いをしてしまう。

 そんなことさせるか! 二見さんのハプニングは私が阻止する!


 一度砂浜に戻り、カバンからあるものを取り出す。

 テッテレー(脳内音声)サポートアイテムその9、魚の形をしたマジックハンド(自作)~!


 コイツを使って、ズレた部分を元通りにしてやるのだ。

 さっそく海に潜り、気配を消しながら二見さんに近づく。彼女は友達たちと楽しくおしゃべりをしてるので、こちらには気づいてない。いけそうだ。

 ゆっくりと、でも着実に魚を近づけていき、口の部分が水着を掴んだ。このまま思いっきり下げてやる。


 「!?」


 二見さんが驚いたのか、海の中を覗き込んでくる。

 だけどそこにいるのはただの魚、抜けてる彼女には感づかれないはず! それっぽい動きをしての誤魔化しも忘れない。


 すると、私の想定通り、二見さんは顔を上げた。よしよし、バレなかったぞ。


 「がぼ……っ!」


 そろそろ息が続かなくなってきたな。

 二見さんの完璧になったお姿を脳裏に刻んでから、私は戻ることにした。

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