〇〇がついてる二見さん


 「…………」


 二見さんの後に続いて教室へとやってきた私は、顔面蒼白になっていた。視線の先にはもちろん二見さんがいるのだが、言いたいのはそうじゃない。

 彼女の髪、正確には後ろ髪の辺りがちょこんと跳ねてるのだ。つまるところ寝癖である。

 よくよく見なければ気づけないぐらいわずかなもの。そのせいで二見さん本人も気づけてない。いつものように周りに笑顔を振りまいてらっしゃる。


 だけど私にとっては一大事。二見さんの今後の人生を左右してしまうと思ってるからだ。

 あんな状態のまま、みんなにじろじろ見られ続けたら、いずれ気づかれ、


 『ねぇ見て、二見さんたら寝癖ついてるわ。ちゃんと乾かしてないのかしら? そういえば、なーんか生臭いわねぇ』

 『きっと寝相が悪いのよ。起きたら枕に足が乗ってる日常を送ってるんだわ』

 『髪は女の命って言葉教えておいてあげようかしら。博識な二見さんにマウント取れるいい機会だわ』

 『おーっほっほっほ! マヌケな二見さ~ん!』


 ――と、バカにされるに違いない! 以降、みんなに笑われ続ける生活が待ってるに決まってる。

 髪だけじゃなく、心まで痛んで不登校になりかねない。そんなことさせるか!


 私はふんすと鼻息を鳴らし、カバンからあるものを取り出す。

 テッテレー(脳内音声)サポートアイテムその5&6、小型の水鉄砲(水は満タン)とホッカイロ~!

 今回は二つ使わないといけないぐらいの難敵だ。気を引き締めよう。


 いつも以上に気配を消し、小型の水鉄砲を構える。

 狙う箇所はあの跳ねた部分。距離、よし……誤差、なし……。


 呼吸を整え、引き金を引く。ガンマン顔負けのテクニックで狙い通り、寝癖にヒット! よし、ちょっと湿った。

 あとはホッカイロで櫛を包み込んで、温める。

 充分に温まったところで、私はこっそり立ち上がる。

 

 気配を消しに消した私はいま、亡霊みたいなものなので誰にも感知できない。

 そんな状態で二見さんに近づき、通り過ぎるタイミングで櫛をサッと、寝癖に沿わせた。


 「……」


 教室の外からじーっと、二見さんの寝癖があった部分を見てみれば、ちゃんと直っていた。髪を梳かすことに成功だ!

 いつもの完璧すぎる二見さんが戻ってきた。涙が出そうになるほど嬉しい。


 「ふぅ……」


 大仕事をやってのけた私は、額にかいた汗を拭った。

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