〇〇されてる二見さん


 六月に入り、衣替えの季節がやってきた。男子たちの眼差しが鋭くなってるように感じるのはきっと、気のせいじゃない。

 衣替えということはつまり、ブレザーを脱ぎ、ブラウス一枚になるということ。

 それは、より身体のラインが浮き出るということだ。

 私は影が薄いので見られる心配がないのだが、人気者の二見さんは違う。


 「やば、二見のやつエッロ。たまんねぇなおい」

 「おっぱい主張し過ぎだろ。隙間からブラ見えそう……」

 「背中越しのブラ紐、絶景なり」


 と、あんな風に目立ってしまっていた。

 男子たちが血眼になりながら、二見さんを視線で辱めている。ひとり二人ならまだいいもののクラスの男子ほぼ全員というありさま。

 さすがにこれは守り切れない。こうなったらもう、男子たちの視界を奪ってやろうか……。


 などと物騒なことを考えていると、二見さんのいる前の方に許すことのできない悪事を働く男子たち発見。五味加須コンビだ。

 あいつらはあろうことか、二見さんの姿を写真に収めようとしていたのだ。

 はたからみればスマホを弄ってるようにしか見えないだろう。けど私の目には、やつらが口元を緩ませながら、スマホのレンズを二見さんに向けてるのが分かる。

 このままでは二見さんのお姿が、あますことなくやつらに激写されて、


 『うひょーっ、最高のオカズゲット!』

 『あっ、ずるいぞ! 俺にもよこせ!』

 『俺は自分で撮るから。ほいパシャっと』

 『俺のベストショット共有してやるから。欲しいやつ来い!』

 『欲しい~!』

 

 ――と、なるに違いない。撮影させてたまるか!


 許すまじ男子の精神を掲げた私は、五味加須コンビがシャッターを押すタイミングに合わせ、消しカスを飛ばしてやる。

 これでレンズ越しに映るのは消しカスって寸法よ。


 「ん? なんだこれ。暗くてよく見えないぞ」

 「もう一回撮ってみたらどうだ? ……またダメだな。どうなってんだ」


 何度やっても無駄だぞ。消しカスで邪魔してやる。

 とはいえ、そんなことを繰り返すほど、やつらもバカじゃない。今度は連写機能を使うとか言い出してる。なんでそんなに執念深いんだ。

 

 連写なんてされたら困る。防ぎようがない。

 もはやこれまでかと諦めかけていると、男子たちの先にいた女子がなぜか突っかかりだした。


 「ちょっとあんたたち! 人の机に消しカス飛ばさないでよ!」

 「は? いや、なんの話」

 「とぼけんじゃないわよ! このろくでなしども!」

 「ひぃぃっ!? すみませんでしたぁ――!」


 女子の形相にビビった五味加須コンビは、その場を逃げ出していく。どうやら危機は去ったらしい。

 私は安堵の息を吐きながら、その女子に両手を合わせていた。おお、救いの女神よ……。

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