〇〇がいい二見さん
二見さんはとてもいい匂いがする。
それはこの世界の常識であり、男女ともに共通の認識でもあった。
なぜ急にこんなことを語っているのかといわれたら、
「……なぁおい、二見の匂い嗅ぎに行こうぜ」
「まあ待て。直に嗅ぐのもいいが、周りの目もある。ここは残り香を胸いっぱい吸い込むとしよう」
「お、それいいな。くそー、早く席から移動してくれねーかな」
私の横でそんな雑談をしてる男子たち(確か、五味くんと加須くんという名前だったと思う)がいるからである。二人ともまじめな顔、のわりに話してる内容は聞くに堪えないものだ。
私がコミュ障でなきゃ文句のひとつでもガツンと言ってやりたいとこだけど、残念なことにコミュ障。ついでにぼっち。
というかこの二人、私の存在に気付いてないのでは? 一応こう見えても女子なんですが……もしや空気として数えられてるのか。
などとちょっぴり悲嘆に暮れてると、自席で本を読んでた二見さんが席を立った。トイレにでも行くのかもしれない。
瞬間、横で歓喜の声が飛んでいるのが分かる。マズいこのままでは、
『すぅぅ……あぁ、めっちゃいい匂いするなぁ……。さわやかさの中に、ほんのりと甘さが混じってる』
『この匂いはあの制汗剤……いやそれだけじゃなく、あのボディーソープも』
『おいっ、みんな聞いてくれよー! 二見は〇〇の制汗剤と○○のボディーソープを使ってるみたいだぜ!』
『うおおぉっマジか!』
『俺も今度からそれ買おう!』
――などと教室中に触れ回り、周りにいた女子たちが二見さんに伝え、遠回しに恥ずかしい思いをしてしまうに違いない! そんなことさせるか!
私は静かに闘志を燃やし、男子たちを潰すことにした。
とはいっても別に拳で語り合うわけじゃない。力じゃ男には敵わないし、そもそも声すらかけられないもの。
そこで私はこれを使うことにする。
テッテレー!(脳内音声)サポートアイテムその1、大量の線香~!
ふっふっふ、この束になった線香に、ライターで火をつけて、お焚き上げをする。
あとはこの煙が、二見さんの席に向かうようにこっそり、下敷きで扇いで。
ニヤニヤしながら二見さんの席に向かっていた男子たちが、身体を跳ねさせた。
「ん……? なんか煙臭くね? 二見っておばあちゃんちの匂いがするのか?」
「いや待て。この匂いの発生源、この席じゃないぞ」
「え、あ、ほんとだわ。つーか、なにやってんだアイツ……」
やばいよやばいよっ! 男子に見られてる! 心臓がバクバクし過ぎて死にそうだ!
私はそれでも二見さんの笑顔を守りたい。
その一心で、震える口をどうにか動かした。
「……ね、猫の、た、たまきちよ……安らかに……」
「なんだよ、飼い猫が死んだのか。邪魔されたのかと思ったぜ」
「あれでは残り香もくそもないな。今日のところは引き上げるとしよう」
よかった、なんとか男子たちを追い払うことに成功した。
二見さんを守ることができて、私は嬉しい。
「……?」
直後に戻ってきた二見さんは、首を傾げてたけど。
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