第74話 巨大蝗vs巨大ロボット

 ノゾミ女王国の北部で蝗害こうがいが発生し、おまけに大気中の魔素濃度も急激に低下した。

 予測では、エルフ連合国が光の女神様から授かった召喚魔法陣に何かをしたようだ。


 直接確認するまでは不明ではあるが、とにかく今は過去最大級の蝗害こうがいへの対処が先である。


 私は新機体のデウス・エクス・マキナに搭乗し、さらに二機の輸送機も引き連れて現地に向かう。


 すると空一面が黒い靄になるほどのいなごの群れを発見して、シールドを展開した状態で真正面から突っ込んだ。


「デウス・エクス・マキナ! シールド展開!」

「こっちも結界を張るぞ!」

「言わなくても!!」


 魔物ではないので攻撃力は低いが、大量の昆虫が機体内部に侵入すれば不具合が起きるかも知れない。

 そこで安全に戦うためにも、念のために結界を張っておく。


 ついでにいなごを弾きつつ駆除を行う必要があるのは輸送機も同じで、武装は申し訳程度しか積んでいないが、敵の攻撃を弾く結界発生装置は標準装備だ。


「駆除が終わるまで保ってくださいよ!」


 デウス・エクス・マキナは、本来ならフェザー兵器によるシールド展開が主だった。

 なので自前で結界を張ることはできないため、出撃前に追加武装を搭載した。

 時間がなくし無理やり取り付けたので、いつエラーが出るかわからないのが怖いところだ。


 ちなみに魔素濃度は低下するが、ミスリルゴーレムたちも同行している。

 飛行ユニットはシールド機能がないため、地上に近づいていく輸送機に同行していた。


 そして地面との距離が近くなると、次々と飛び降りていく。

 人間や獣人やエルフの歩兵部隊は、無理をせずにゆっくりと降下するのを見守っていると、近くに複数の町村があることに気づいた。


「まだエルフ連合の交易都市は遠いのに、恐ろしい速さで被害が拡大しているようですね」


 広域結界が張られているので、街や農地には入ってこられない。

 しかし永久に続くものではないため、効果が切れる前に早めに駆除すべきだ。


 これ以上の被害の拡大を避けたい私は、手早く片付けるために大きな声で叫ぶ。


「フェザー展開! オールレンジ攻撃開始!」


 地上に当たればクレーターだらけになるので、ちゃんと射線に気をつけ、空中のイナゴのみに攻撃を行う。

 ガンフェザーからは、青白い光線が休むことなく放たれる。


 ソードも鋭利な刃物ではなくビームサーベルのような形状に変えて、攻撃が当たる面積を増やし、叩き潰したり高熱で焼き切ることに重点を置く。


 そしてシールドタイプはいなごの群れを囲んで逃げ場を封じて、巨大な空間を丸ごと圧縮して駆除を進めていく。


「他の皆は──」


 少し戦っただけでも、こちらの火力や運動性能が段違いに向上しているのがわかる。

 操作も問題はないため、あとはろくに試験運用をしなかったので不具合が起きないことを切に願う。




 なお魔物ではなく虫なので特に苦戦することもなく、黙々と駆除を進めていく。

 安定したので、私は輸送機のほうに視線を向ける。


 全員無事に地上に下り、な結界内からマジックマスケット銃で火球を撃ち出していた。

 縦横無尽に飛び回るいなごの群れを、爆発で吹き飛ばしていく。


「こいつら! 無駄に数だけは多いな!」

「落ち着いて狙え! 空の奴らは女王陛下が倒してくださる!」


 他にも火炎放射器で近くのいなごをまとめて焼き払っていたりするが、テンションが上ったのか大声で絶叫している。


「ヒャッハー! いなごは消毒だぁ!」


 彼は別にモヒカンではないが、火炎放射器はいなごを効率良く駆除できるので持ってきたのだ。

 実際に効果はあり、周囲にには焼け焦げて煙をあげる昆虫が大量に積み重なっていた。


 そしてミスリルゴーレムたちは、省エネを心がけている。

 五メートルほどある大剣に炎をまとわせ、振り回すことでいなごを焼却処分していた。


 作戦通り、周辺への被害を心がけて戦ってくれている。

 おかげで空や地上を覆う黒い霧は、少しずつ面積を減らしていた。


「このまま駆除させてもらいますね!」


 しかし安心するのはまだ早く、被害はここだけではない。

 エルフ連合国と隣接する全ての国々なうえに、今なお急速に拡大を続けているのだ。


 敵が多い地域から駆除していくのは基本だが、あまり時間を賭けるわけにはいかない。


「既に各町村も駆除を始めているので、連携して一気に片付けますよ!」

「「「了解!!!」」」


 リアルタイム通信で連携はバッチリだし、誰だってやられっぱなしは嫌だ。

 ゆえに安全な結界内から攻撃して、少しずつだろうといなごの数を減らすのであった。




 各国からいなご駆除部隊が次々と駆けつけて、ノゾミ女王国の北部の害虫を容赦なく焼き尽くしていく。

 最初はどうなるかと戦々恐々していたが、数日も過ぎると国民も落ち着きを取り戻してルーチンワークになってくる。


 所詮は数だけ多いいなごで北部以外には一匹たりとも通していないし、確実に被害は減っていた。

 あと何日か続ければ、ノゾミ女王国内だけなら元に戻るはずだ。


 そんなことを考えながらデウス・エクス・マキナで空を飛ぶ害虫を駆除していると、全天周囲モニターが何かを捉えたので、すぐに拡大表示する。


「はて? あんな山、ありましたっけ?」


 国境を越えた先にあるエルフ連合国の首都付近に、何故か黒い山ができていたのだ。

 おまけに微かに動いているように見えたので、嫌な予感がした私は情報を得るために警戒しながら、地上から飛び立ったばかりの二機の輸送機も引き連れて近づいていく。


 もし未来予測通りだとしたら事態は急を要するため、領空侵犯なんて知ったこっちゃないのだ。

 実際に嫌な予感は正しく、正体を知った私は珍しく慌てる。


「いっ、いなごおっ!?」


 精神耐性のある私でも、これには驚いた。

 一先ず情報を共有するために映像をホームページにもアップすると、輸送機からすぐに反応が返ってくる。


「山のように巨大ないなごだと!?」

「おいおいおい! とんでもねえな!?」


 無線からの声は驚きが大半を占めていて、山のように巨大ないなごが大森林をムシャムシャと食べている光景は、見る者の正気を疑うには十分であった。



 今のところは食事に夢中なのか、こちらの存在には気づいてはいない。

 けれど蝗害こうがいの被害の拡大を防ぐには、避けては通れなかった。


 早急に何とかしなければいけないため、私はノゾミ女王国の最高統治者として決断を下す。


「エルフ連合国の問題だとしても、放っておくわけにはいきません!

 これより! 武力介入を開始します!」


 山ほどもある巨体なのも大概だが、周囲にも無数のいなごが飛び回っている。

 後手に回ったので最初は被害を受けたが、今は問題なく駆除できているノゾミ女王国はともかく、周辺諸国が深刻な食糧危機に陥るのは目に見えていた。


 なので私はたとえ外交問題になっても、この場でアレを倒すことに決める。


「現時点で巨大蝗と戦えるのは、デウス・エクス・マキナぐらいです!

 他の者は国境付近に防衛線を敷いて、これ以上の蝗害こうがいが広がるのを防いでください!」

「「「了解!!!」」」


 小さないなごとは明らかにサイズが違うため、まともに戦えるのはデウス・エクス・マキナぐらいだ。

 それでも敵はとんでもなくデカいが、もし駄目ならその時はその時である。


 情報さえ集まれば未来予測の精度が上がり、奴の弱点がわかるかも知れない。

 なので高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するのが、一番早く山のように大きないなごを倒す早道なのだ。


「さあ! 行きますよ!」


 私は敵が食事に夢中になっているうちに、一気に勝負を決めにいく。

 高速で奴に近づき、射程距離内に入った瞬間に大声で叫んだ。


「フルバースト!」


 最高出力でのフェザー兵器を使った一斉攻撃だ。

 ミスリルとオリハルコンの合金により、従来よりも出力は上がっている。


 凄まじい閃光が、山のように巨大ないなごに殺到した。

 ついでに私から絶えず魔力が供給されることにより、怒涛の攻撃は止む気配がない。


「ギギギイイイイッ!?」


 周囲に歯をすり合わせるような不快な音が響き渡った。

 これは巨大蝗の悲鳴だと容易に予想がつき、倒せてはいないが一応の効果はあるようだ。


「これ以上は無理そうですね」


 いくら無尽蔵に撃てるとはいえ、今回は敵を倒すより先にフェザー兵器がオーバーヒート寸前になってしまう。

 これ以上の使用は難しく、しばしの冷却が必要になるためデウス・エクス・マキナに手早く戻した。


 だが、巨大蝗がその隙を逃すわけがない。

 奴が羽を広げると立ち込めていた煙幕がたちまち吹き飛び、さらに高速で羽ばたかせることで突風が巻き起こる。


 周囲の木々を薙ぎ倒しながら、遥か大空に飛びあがった。


「やはり、ここに来ますか!」


 こういう場合は逃げるか戦うかの二択になるが、巨大蝗は私を敵と認識したようだ。

 凄まじい勢いで、こっちに向かって飛んできく。


 相手は山のような大きさなので、たとえ正面衝突は避けても掠っただけでも危険である。

 慌てて緊急回避を行って何とか避けたが、それでもとんでもない強風に巻き込まれて姿勢制御に苦心した。


「当たり前ですが、逃してはくれませんよね!」


 やはり一度避けられただけでは、諦める気はないようだ。

 再度突進を仕掛けるために、通り過ぎたあとにこちらに向きを変える。


 しかし私も、黙ってやられる気はない。

 ライフルを構えて射撃を浴びせるだけでなく、冷却が終わったフェザー兵器でも散発的に攻撃する。


「落ちろ!」

「ギシャアアア!!!」


 今回はデウス・エクス・マキナの試験運用なので、リミッター解除をせずに地道に削っていく。

 もし巨大ロボットが壊れたら、誰も奴を止められないのだ。

 なのでたとえ1ダメージずつでも、損害を極力出さずに敵を弱らせていく作戦なのだった。




 戦いながら情報を集めていたので、少しずつ有効な対処法がわかってきた。

 私はもっとも防御が薄い翼を集中的に攻撃し、穴だらけにする。


 そのせいで飛行能力を失って地面に真っ逆さまに落下して、砂埃を盛大に巻き上げて巨大なクレーターができた。

 残念ながら圧死することはなかったが、大きなダメージを与えたのは間違いない。


「さてと、次は何処を狙いましょうか」

「ギヒイイッ!?」


 治癒するかは不明だが飛行能力を失ったことで、巨大蝗は私に勝てないと本能的に理解したようだ。


 慌てて跳躍して逃げようと両足に力を込めたので、ライフルを放り投げて代わりに腰から柄を引き抜き、青白い大剣を具現化させた。


「右足! もらいますよ!」


 地上に落下してヨロヨロと身を起こした時点で、隙だらけだった。

 おかげで容易に距離を詰められ、宣言通りに右足をバッサリと斬り捨てる。

 奴の構造は大体把握してきて、間接部門を的確に狙ったのだ。


「ギギャアアア!!!」


 悲鳴をあげながら、私に近寄らせまいと激しく暴れだした。

 なのですぐに遠くに離れ、放り投げたライフルを回収して無慈悲に狙い撃ちをする。




 ちなみにそこから先は、戦いと言えない一方的な嬲り殺しだ。

 あまり多くを語りたくはないし、巨大蝗は生命力が強いせいでなかなか死ななかった。


 しかし、だからと言って災害級の怪物を放置はできない。

 なので最後まできっちりと念入りにトドメを刺して、塵も残さずに焼却処分したのだった。

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