第66話 作戦会議

 私はキャンピングカーとバスのリミッターを解除して、空を飛んでノゾミ女王国に帰還した。

 途中でドラゴンライダー部隊と戦闘になったが、何とか撃退して逃げ切れることができた。


 事の顛末はネットワークのトップページに載せるだけでなく、メールに記載して関係各所に伝えておいたので、王都に到着する頃には全国民が知ることになったのだった。




 キャンピングカーとバスを王城の中庭に降下させて、あとのメンテナンスを専門の職人に任せる。

 その後、シャワーを浴びて自室で簡単に身なりを整えた。


 次は真っ直ぐ謁見の間へと向かうが、現在の政務はホームページの告知やノートパソコンにメールを送れば済むため、わざわざ各関係者を呼び集める必要はない。


 しかし今回はノゾミ女王国の一大事で、直接顔を合わせての緊急会議を行わなければいけなかった。


 きちんと事前に告知したおかげか、自分が入室する頃には既に全員が揃っていた。

 最後に到着した私は奥の玉座に歩いて行き、柔らかいクッションの上にゆっくりとお尻を乗せた。


「まずは緊急招集に応えてくれた皆さんに、女王である私から感謝を」

「女王陛下のお呼びとあらば、当然のことです!」

「さよう! たとえ火の中水の中であろうと、駆けつけましょう!」


 流石に火の中や水の中に呼び出すことはないが、臣下たちの忠誠心が高いのは良いことだと納得した。

 まあ少し過剰とも言えるけれど、低くてすぐ裏切るよりは良いだろう。


 そして帝国で何があったかは、全国民が知っている。

 情報が開示された瞬間から、臣下たちいつ呼び出されても良いように準備をしていたのだ。


 なので私は一から詳しく説明することはせずに、簡潔に話していく。


「帝国で何があったかは、ご存知かと思いますが──」


 そこで私は玉座に深くもたれて、大きな息を吐いた。


「最初は帝国と、友好関係を築こうとしました。

 ですが残念ながら、その試みは失敗に終わりました」


 途中までは、それなりに上手く行っていた。

 しかし、いくら思考加速で時間の流れを停止させられて未来を予測できるとはいえ、起きてしまった事件をなかったことにはできない。


 あとは情報が足りずに先が読めなければ、転んで大惨事になるのが良くわかった。

 今回は殆ど関わりがない帝国なので割りとどうでもよいが、自国だけは同じ轍を踏まないように気をつけようと思いながら、話を先に進める。


「しかし皇帝は、私に帝国を任せると遺言を残しています」


 私はレベッカに視線を送ると、彼女は前に出て例の手紙をこの場の皆に見せる。

 さらに空中にウインドウを表示して拡大することで、謁見の間に集まった者たちを大いにどよめかせた。


「皇家の封蝋ふうろうだ!」

「これは間違いないぞ!」

「ああ、恐らく本物だろう!」


 皇家の封蝋は知っている人も多いのか、遺言状が本物だと信じてくれたようだ。

 ここで私は、最近明らかになった新事実を堂々と伝える。


「そして今回の暗殺事件の首謀者ですが、次期皇帝のケヴィン。

 さらには彼の派閥に属する者たちを使ったのは間違いはありません」


 またもや謁見の間に、どよめきが広がる。

 一体どうやって犯人をなどの、疑問の声が聞こえてきた。

 しかしそれを説明しだすと密かに監視していることは気づいていても、実際の手の内までをバラすことになるので黙っておく。




 それに今は帝国への対応を考えるほうが重要だし、私が答えるつもりがないと理解したのか、やがて謁見の間の皆は落ち着いて静かになる。


 私は気を取り直してコホンを咳払いをし、続きを話していく。


「彼は前皇帝の国葬が終わり次第、残りの後継者を秘密裏に葬るつもりです」


 皇帝の継承権を持つ者が生きていれば担がれて国が割れる可能性があるため、万が一に備えて処分するのは間違ってはいない。

 ただしあまり褒められた行いではないし、自分だったら親兄弟と殺し合うのは嫌である。


 なので私は今の帝国の情勢を、逆に利用することにした。


「そこで私は、帝都に奇襲をかけてモニカとパトリックを確保し、ノゾミ女王国に亡命してらもうことにしました」

「「「えっ!?」」」


 謁見の間に集まった人たちが、一斉に驚きの声を口に出する。

 発想が飛躍しすぎてついて行けないようなので、取りあえず順番に説明していく。


「ケヴィンは皇帝だけでなく私の捕獲や殺害を画策し、実行に移しました。

 この時点で、ノゾミ女王国と帝国は敵対関係になります」


 隣国の女王を殺さなくても、濡れ衣を着せて逮捕すれば間違いなく関係が悪化する。

 場合によっては戦争に発展してもおかしくないため、この状況で仲良くしようなど寝言は寝てから言えだ。


 歩み寄りは大切だが、一気に距離を詰めることはもうできない。

 手探りで一歩ずつ進んでいくしかなく、当分の間は中立ではなく仮想敵国のままだ。


 そして私はこの場の全員に、改めて事実を伝える。


「しかしモニカとパトリックは、実の兄が皇帝を殺害したことを知りません。

 薄々感づいていたのでしょうが、止めようがないでしょう。

 つまりケヴィンに近い立場であっても、加害者でなく被害者ですね」


 皇帝が一番の被害者だが時間は巻き戻らないし、彼の遺言状のおかげで帝国を併合へいごうする大義名分ができたのだ。


 我ながら酷いことを考えているとは思うが、歩みを止めるつもりはない。

 なので自己満足だろうと、せめて彼の息子と娘だけは助けてあげるのだ。


「ケヴィンが消えても、すんなり併合へいごうとはいかないでしょう。

 ゆえにモニカとパトリックを味方につけて、各国の代表を説得してもらいます」


 二人共小さいが派閥が作られているので、味方になれば役に立つ。

 帝国はノゾミ女王国を上回る版図であり、前世のEUのように表向きは各国が独立しているのだ。


 今後は皇帝の代わりに私が上に立つと宣言しても、素直に従うかは怪しかった。

 なので自分一人で反乱分子をちまちま潰していくよりは、二人が協力してくれればより早く、効率良く併合できる。

 無駄な犠牲は、出ないに越したことはないのだ。



 そのように説明すれば、謁見の間に集まっている人たちは色々思うところはあるようだが、一応は納得してくれた。

 元々女王のワンマンで成り立っているのもあるが、好きにやらせてくれるのはありがたい。


 少しだけ間をおいて、宰相のブライアンが真面目な顔で質問してくる。


「それで、いつ決行するのですか?」


 もっともな疑問だが、そのことは私の中で既に結論は出ていた。


「国葬が終わるまで、もうあまり時間はありません。

 二人の救出作戦は、今すぐ実行するべきです」


 国葬中に相次いで亡くなれば、たとえ架空の証拠や偽の犯人を用意しても疑いがかけられるのは間違いない。

 あまりにも都合が良すぎると、国民は彼を親兄弟を手にかけた男として噂するだろうし、少しでも冷却期間を置いたほうが良い。


 なので地方に飛ばして、道中で賊や魔物に襲われたと見せかけて密かに殺すのだ。

 しばらく隠して判明するのはずっと先にしたほうが、事実関係が曖昧になってなお良しである。


 とにかく帝国に贈ったマジックアイテムの殆どは土に帰ってしまったけれど、極小数だけはまだ稼働していた。


「そして二人を新たな帝国の旗頭としてノゾミ女王国が支援し、父親を殺した皇帝ケヴィンに仇討ちします」


 監視によると向こうもやる気満々なので、もはや戦争は避けられない。

 ならばノゾミ女王国の大義を、より確固たるものしたほうが良い。

 戦後処理も考えると、モニカとパトリックはやはりいてくれたほうがいいだろう。


「やりましょう! 女王陛下!」

「帝国はもう駄目です! ならば我々の手で、引導を渡すのです!」

「もはや開戦は避けられない以上、迎え撃つしかありません!」


 反対意見は出ずにやる気十分なようだが、元はと言えば女王が濡れ衣を着せられて殺されかけたのだ。

 誠に遺憾であると返答するには限度を越えおり、戦争になっても致し方なしと割り切るしかない。


 謁見の間から、どちらかが滅びるまでトコトン殺り合おうぜという雰囲気が、ヒシヒシと伝わってくる。


 何にせよ時間はあまりないので、急ぎ二人の救出作戦を進めるのだった。







 帝都に乗り込むために、高速飛行が可能な輸送機を使うことにした。

 いつでも離陸や着陸ができて、大人数が乗れる高性能機だ。

 燃費は悪いが動力が複数あって使われている魔石の質も良いので、通常飛行ならエネルギー切れの心配はない。


 だがその分とても高価なワンオフモデルで、ノゾミ女王国でも一機しかなかった。

 ただまあミスリルジャイアントのほうが金も時間も桁違いで浪漫の塊なので、そっちと比べればまだ実用的でお財布にも優しいと思う。


 とにかく今回の作戦は、時間との勝負だ。

 高速移動が可能な輸送機とミスリルジャイアント。さらには飛行ユニットに乗った守護騎士四人で、帝都を強襲する作戦だ。


 今の両国関係は一触即発なため、もはや戦争は避けられない。

 なので敵国の準備が整う前に、雲の上を一直線に突っ切る。

 領空侵犯なんて関係ねえと言わんばかりに、帝都の空を我が物顔で飛ぶのだった。

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