第36話 対決

 魔王討伐に来た勇者パーティーと話し合ったが、最終的には戦って決着をつけることになった。

 サンドウ王国も彼も私を利用したがっているし、自分はこっちの世界では女王で誰かの下に付いて働くのは嫌である。


 前世の死因が色々アレだったこともあり、気に触ったり用済みになればサクッと殺される可能性が高い以上は、私が上になって管理運営しないと不安なのだ。




 そんな事情はともかくとして激しい戦闘が予想され、屋敷を壊したくないので場所を変えさせてもらう。

 天原あまはらも承諾し、コッポラの街から少し離れた平野にやってきた。


 私はフランクとロジャーという人間の護衛と、フル装備のミスリルゴーレムたちを引き連れている。

 勇者はと言うと、騎士と魔法使いと神官の四人組だ。


 平野で互いが向かい合って一触即発の中で、天原が口を開く。


「少し見物人が多くねえか?」

「危険なので近寄らないようにとは、言ったのですがね」


 激戦が繰り広げられて、場合によっては平野のあちこちが吹き飛ぶ。

 なので避難勧告は出しておいたのだが、何故か見物人が大勢居て遠巻きに眺めているのだ。


「勇者の名声が上がるから、構わないけどよ」


 確かに勇者が私を倒したことを領民に知らしめる、絶好の機会と言える。


「殺さないでくださいね」

「善処はするが、約束はできねえな」


 勇者が勝ったあとには、サンドウ王国民に戻るのだ。

 なので好き好んで殺す気はないが、邪魔だったら躊躇せずに吹き飛ばすつもりらしい。


(勝たなきゃ始まらないし、仕方ないか)


 彼の世界征服は私を倒すことから始まるため、勝利が絶対条件なのだ。

 そし領民に関しては自己責任を言いたいが、今はまだノゾミ女王国民なので放っておくことはできない。


「ちょっと待ってください!」


 なので思考加速で色々と考えた私は、大きな声で天原に呼びかける。


「何だ。命乞いか?」

「そうではありません!

 勝負のルールを決めましょう!」


 そう言って私は、空中に半透明のウインドウを大きく表示する。

 次にたった今考えた勝負のルールを、彼によくわかるように見せた。


「やっぱりお前、戦闘向きじゃねえが便利だわ」


 感心したような発言をして順番に目を通して天原であるが、私は念話で各所に指示を出して忙しいので適当に流す。


「まあ、いいんじゃねえの?」

「ありがとうございます」


 彼のパーティーは勇者の一存で決まるのだが、他の三人からも反対意見は出なかった。

 流石にノゾミ女王国に四人で挑むと、光の女神様の御加護がある天原は無事ても彼女たちは死ぬ可能性がある。

 いくらお家のためとはいえ、まだ若いので渋々従ってはいても覚悟完了しているわけではなかった。


 とにかく双方が合意したので、勝負のルールの詳しい説明に入る。


「勝負は三十メートル四方の石の武舞台で行われます」


 私は空中に表示したウインドウを拡大させて、この場の全員にわかるように話していく。


「場外に出たり参ったと言うか、ダウンして十数えても起き上がれなければ失格です。

 そして一人ずつ順番に戦っていき、全部で四試合行います」


 一見すると先に三勝したほうが勝ちだと思われるが、私も天原も自分が負けない限りは敗北を認めない性格である。

 つまり最後の大将戦で、全ての勝敗が決まるのだ。


 それでもわざわざ三人の部下が先に戦うのは、そっちのほうが盛り上がるからである。

 別に三人娘がやるだけやったと、お家に対して言い訳がつくようではない。


 私も天原も割りと自分勝手で衝動的に行動するので、理屈ではなく自分が面白いと感じるほうを選ぶことが良くある。


 そのような事情もあって、私は急いで試合場を整えるのだった。




 やがて少しだけ時間がって武舞台が完成し、私は女王として大会の開始を宣言する。

 恨みっこなしの四回勝負で、双方一人目の選手が前に出てきた。


 私のチームからはロジャーで堂々とした歩みだが、勇者パーティーからは神官でビクビクしている。


「ロジャー、頑張ってください」

「おうよ! 女王様の前で、恥ずかしい姿は見せられないからな!」


 ちなみに何故か私は、勇者パーティーと隣り合うように観客席に座っていた。

 今はお茶とお菓子をいただきながら選手を応援しているが、自分でもどうしてこの配置なのかは良くわからない。


(場外乱闘になったら止められるのは自分だけだし、別にいいかな)

 

 あとは仲良くできるに越したことはないし、近くの方が情報が集まりやすい。

 最終試合の勝率を上げるには、勇者のことをもっと良く知っておくに越したことはなかった。

 もちろん恋愛的な意味ではなく、戦闘能力についてである。


「お前も負けんじゃねえぞ! 勇者の看板に傷がつくからな!」


 今も神官の子に、罵倒なのか激励なのか良くわからない言葉をかけている。


「うう~! どうしてこんなことにぃ!」


 女性陣は天原のことを勇者のネームバリューとしか見ていないが、彼は三人組の裏の事情は知らない。

 少なくとも安易に切り捨てない程には、気に入っているようだ。


(何にせよ、私も負けるつもりはないけどね)


 武舞台を囲むように大勢の観客が集まり、飲み物や食事の販売を行っている。

 自分も買わせてもらったが、盛り上がっているなら良いことだ。


 とにかく審判役に志願したジェニファーが、マイクを持って選手に近づく。

 そして互いに所定の位置についたとき、大声をあげる。


「それでは、第一試合! 開始!」


 先に動いたのはロジャーだ。

 見た目は重そうな装備でも、魔石で軽量化しているので普段通りに動ける。

 風のように速く突進し、一気に勝負をつけにきた。


「ほう、意外と速いな!」


 天原が感嘆の声を出すので、勇者から見てもかなり強いようだ。

 そして一定距離まで近づいたロジャーは、魔法剣を鞘に収めたまま振り抜く。


「これでぇ!」


 ちなみに魔法剣は、普段は封印されている。

 登録者以外には発動どころか、鞘から引き抜こともでない。

 なのでそれを逆手に取って、訓練や手加減したいときには抜かずに戦うのこともできるのだ。


「私だってぇ!」


 しかし、神官のほうもなかなかの武闘派だったようだ。

 杖やロッドではなくメイスで受け止めた。

 おまけに、身体強化魔法もかけているようだ。


「やるな!」


 なるべく怪我をさせないように手加減しているとはいえ、ベテラン冒険者のロジャーと互角に打ち合う。


 しかし戦闘経験の差もあるし、後方支援職に接近戦は難しいようだ。

 やがてスタミナが尽きたのかロジャーの攻撃を防ぎきれなくなり、彼女が手に持っていたメイスが弾き飛ばされて地面に転がった。


 誰もが勝負あったと思ったが、神官の子はまだ諦めていない。


「まだです!」


 神に祈るような姿勢を取って呪文を唱えると、半透明な壁が彼女を包み込む。

 あらゆる攻撃を防ぐ結界を展開したのだ。


 ただし魔法を維持している間はその場から動けないので、本当に後がない。


「コイツを破るのは骨が折れそうだ!」


 何度か結界を攻撃したあとに、ロジャーは封印状態で破れないと判断したようだ。

 

「それじゃ! 本気でいくぜ!」


 彼が魔法剣を引き抜こうと考えたことで、封印が自動的に解除された。


「炎よ!」

「これが! 魔法剣!」


 赤い炎が刃の形で固定され、ロジャーは剣を構えて呼吸を落ち着かせる。

 神官の女の子は驚きの表情で固まっているが、まだ結界は維持されていた。


「先に謝っておく! 悪いな!」

「えっ!?」


 彼が斬りつけると結界を真っ二つに両断し、激しい熱風を巻き起こす。

 観客席には障壁を形成しているので、そこまでは届かない。


 だが攻撃をモロに受けた神官は無事では済まずに、熱風に巻き込まれて場外まで吹き飛ばされた。

 受け身も取れず、地面に落下してしまう。


「ジェニファー!」

「はっ、はい! ベル選手の場外負けにより、第一試合はロジャー選手の勝利です!」


 私はすぐに、医療班による治療を行うとする。

 しかし天原が間に割って入り、それを止めた。


「必要ない。俺が回復魔法を使えば済むことだ」


 確かに、全てうちが管理ないといけないわけではない。

 勇者が回復魔法を使えるなら、任せればいい。


「では、お願いします」


 それに対戦相手の神官は、その気になれば自身も治療も可能だ。


「ベル。頑張ったな。見直したぜ」

「みっ、……光章みつあきさん」


 場外に倒れている神官の子に、天原が近づいて回復魔法を使う。

 するとみるみる傷が癒えていき、元通りの元気な姿に変わった。


 しかし打ち身と火傷は消えても、燃えた服はそのままだ。


「替えの服を至急用意させます」

「悪いな」

「お気になさらず」


 別にロジャーを責める気はないし、怪我をさせたのもやむを得ないと思っている。


 それでも女の子の服が燃えてしまったのだ。

 ちゃんと責任を取って弁償するべきだと考えて、私は念話で連絡して彼女の服を用意させる。


 すると天原は何を思ったのか、一息ついてこっちに声をかけてきた。


「やっぱりお前は、魔王じゃねえよ」

「私も、自分を魔王だと名乗ったことはありませんよ」


 魔王認定しているのは人間で、自分はそんなものになったつもりは全くない。

 そして天原は少しだけ考えて、私の顔をじっと見つめてくる。


「やはりお前は、正式に俺の部下になってもらう」


 勝負の結果次第では彼の部下になる可能性もあるが、今の発言から当初の立場よりも上方修正されたようだ。


「そんなことをすれば、世界を敵に回しますよ」


 魔物は基本的に駆除対象で、一朝一夕では仲良くすることはできない。

 勇者が打ち負かした魔王ならそういうこともあるで済ませられるが、絶対服従ではなく正式な部下として高待遇で召し抱えるなら、納得できない人も出てくるだろう。


「俺は勇者で、いずれは世界のリーダーになる男だぜ?」


 何とも自信満々であるが、私の答えは変わらない。


「せっかくですが、お断ります」

「だろうな」


 ベルの回復を終えた天原は立ち上がって、息を吐いて肩をすくめる。


「だから、負けたらは勝った奴の部下になるというのは、どうだ?」


 今までは勝った奴の言うことを聞くという、かなり曖昧なルールだった。

 それが明確になって天原も納得しているなら、やっぱりなしと覆されることはないだろう。


 あとでグチグチ揉めるよりは良いかと考え、私は頷く。


「私も構いませんよ」

「決まりだな」


 向こうもそうだろうが、私も負ける気はない。

 だがもしも敗北したら諦めて、天原の部下になるのも悪くないのではと、今ならそう思えた。


(私の最終目的は人間と友好関係を築くことだし、高待遇なら良いかな)


 自分だけでなく仲間のゴーレムも人間たちと仲良く暮らせれば、目的達成と言える。

 それに勇者のネームバリューは、色々便利に使えそうだ。


 問題は彼に主導権を握られっぱなしで良いように働かされ続けることだが、そこはまあ地道に交渉していくしかない。


 何にせよ、できれば勝ちたいが別に負けても良くなったのだ。

 私は割りと気楽に、次の試合を行うのだった。

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