第37話 勇者vs巨大ロボット

 次の試合はフランクと魔法使いで、双方が武舞台の上に立つ。

 レベッカ開始を告げると、接近されたら終わりなので事前に詠唱を済ませていた初手大魔法で、一気に吹き飛ばそうとした。


 結果はフランクが装備性能で耐えきり、急接近して鞘での殴打を浴びせる。

 元々肉弾戦は得意ではないため、あっさり昏倒させられて勝負がついた。


 そして次の試合は、ミスリルゴーレムと女騎士だ。

 向こうの装備も実力も決して弱くはなく、人間にしては相当やると思っている。


 だがナンバーズと呼ばれる九体のミスリルゴーレムは五メートルの巨人で、大剣を軽々と振り回すのだ。

 しかも私と同じようにデータベースと常時リンクしていることもあり、斬撃は極限まで最適化された動作で繰り出される。


 超スピードとパワーも合わさった達人の連撃を、まともに受け止めるのは人間には不可能だった。


 女騎士は最初は盾で防いだが、粉々に砕けちる。

 さらに鎧を着て重くなっているはずの体が軽々と吹き飛ばされて、物凄い速さで場外まで飛んでいく。


 そして観客を守るために張られている障壁に勢い良く激突し、ずり落ちるように地面に落ちた。

 死んではいないが、完全に気絶している。


「あれは仕方ない。俺以外じゃ、勝負にもならねえわ」


 現代日本から召喚された勇者も、ミスリルゴーレムの戦闘能力を認めるほどだ。

 そのあとは彼が回復魔法を使い、女騎士の傷を癒やす。


 すると時刻が昼になったので食事をするために一度休憩を挟んで、最終試合が始まるのだった。







 私は準備に少し時間がかかるので、天原には先に武舞台に上がってもらった。

 相手はフル装備で、戦い慣れているようだ。

 しかし自分の場合は、試験運用はしたが実戦で使うのは初めてだった。


 戦闘のプロである勇者に勝てるか不安が残るが、負けても死ぬわけではない。

 やるだけやってみるかと領主の館の地下にある格納庫に移動し、目の前にある機体のコックピットハッチを開けて、シートに座ってシートベルトをしながら起動シーケンスに入る。


 この巨人は全長二十メートルほどあり、普段はミスリルらしく白銀色だ。

 しかし稼働すると巨大ロボットアニメのような色調に変わって、ついでに両目が光る。


 やがて全てのプロセスが終了したので、地下格納庫の隔壁を開いてリフトを上昇させた。

 地上に出ると各部を固定しているロックが解除され、自由になる。


「ミスリルジャイアント! 出ます!」


 取りあえずリフトから数歩前進したあとに、久しぶりなので念のために手足を軽く動かす。

 すると全システムがオンライン状態で問題がないことがわかると、両腕を組んで風の魔石を発動して空を飛ぶ。

 そのまま一直線に試合会場へと向かうのだった。




 開始時間にはギリギリ間に合ったが、天原は既に武舞台に上がっていた。

 なので外部スピーカーをオンにして、空から話しかける。


「お待たせして、申し訳ありませんでした」


 全長二十メートルの巨人は、相変わらず腕を組んだままゆっくりと着地した。

 動きを止めたあとに胸部コックピットを開いて、私が乗っていることを彼に見せる。


 見た目は有名ロボットアニメにシリーズに登場する機体に近く、ゴーレムもサブカルチャー好きなので、僕の考えた格好いいオリジナル機体のような外見だった。


 そして全身がミスリル銀によって構成されているが、鉱山から発掘したわけではない。


 すぐ近くに現物があるので徹底解析して、魔法で人工的に作り出したのだ。

 前世でも科学でやっていたし、錬金術が存在するので手間と時間をかければ何とかなる。


 だがまあ流石に、二十メートルの巨人の体を構成するだけの量を確保するのは大変だった。


 ちなみに白銀の巨人は起動時に色調が変わる処理が施されているが、それに何の意味があるのかと聞かれれば格好良いからだ。

 無駄に角張ってゴテゴテした構造だし左手に盾、右手にライフルを持っている。


 何かもう色々とそれっぽすぎだが、天原や周りの人々は大興奮だ


「おいおいおい! 巨大ロボットかよ!」


 ルールでは私と勇者が戦う最終決戦で勝敗決めるのだが、別に違反はしていない。

 この巨人は全身鎧扱いなので、何の問題もないのだ。


「私個人の戦闘能力は低いので、勇者と戦うためにマジックアイテムを使わせてもらいます」


 魔力が桁違いに高くても攻撃魔法は使えず、見た目通りで幼女のように非力なのだ。

 マジックアイテムに頼らなければ、勇者どころか仲間にも勝てずに一方的にボコボコにされる。


「ううむ、だが流石にコレはなぁ」


 渋い顔をしていた天原だったが、やがて諦めたのか大きな溜息を吐いた。


「まあいい。認めよう。

 道具を使うなというルールはないしな」

「ありがとうございます」


 対戦相手が承諾してくれたので、私はお礼を言って奥に引っ込む。

 そして胸部のコックピットハッチを閉めた。


 ちなみに、高速機動や着地やダメージ等をまともに受けては、パイロットの体が保たない。

 なので内部は常に下方向に1Gになるよう重力制御を行い、衝撃を緩和していた。


 だが全てのダメージを吸収できるわけではないため、今も安全のためにシートベルトを着用している。

 ついでに万が一に備えてエアバッグ機能もついているが、使わないに越したことはなかった。


(さて、あとは試合開始を待つだけだね)


 私がシートに深く身を沈めて呼吸を落ち着けていると、全天周囲モニターに表示されている天原が、ミスリルジャイアントを見上げて喋り始めた。


「試合が終わったら、巨大ロボットに乗せて欲しいんだが!」

「いいですよ」


 外部スピーカーをオンにしているので、ちゃんと彼にも声が届く。

 天原もロマンを理解してくれたのが、ちょっとだけ嬉しい。


 ついでに領民もソワソワしながらこちらを見ていることに気づくが、このロボットは最新技術や機密情報の塊だ。

 外から見せるのはともかく、あまり大勢に搭乗させたくはなかった。

 なので彼以外は、申し訳ないがお断りだ。


 コックピット内には手動操作用のレバーやペダル、スイッチなどが設置されている。

 マニュアル操縦も可能だが、思考加速による遠隔操作のほうが得意な私が使うことないだろう。


 やがて双方の準備が整ったので、ジェニファーが試合開始の合図を大声で叫ぶ。


「それでは! 決勝戦! 開始です!」


 審判役が宣言した瞬間に、聖剣らしき武器を引き抜いた勇者の姿が消えた。

 予想はしていたが、目で追うのは難しいようだ。


 こっちもすぐに意識を仮想空間に移したので、何とかギリギリで対応が間に合った。


『やっぱり速いなぁ』


 仮想世界の自宅の玄関に転移した私は、取りあえずスリッパを履いて台所に向かう。

 ここなら時間の流れを戻す以外は自由にできるので、焦らず落ち着いて戦える。


 冷蔵庫を開けて何を飲もうかと悩みつつも、半透明のウインドウを空中に表示して思考による遠隔操作を行う。


 現実世界でマニュアルで忙しく動かすより、こっちのほうが全ての動作が速い。


『まともに戦えば、動きが全然見えないけど。想定通りではあるね』


 今は時間経過を遅くした仮想空間で、彼の動きを良く見て対処している。

 ただし、あっちの世界の私がガチでやっても勝てる気は全くしない。


 初撃はコックピットを狙い、聖剣で斬りつけてきた。

 なので動きを読んで盾を構え、真正面から受け止める。

 瞬時に巨人の前方に青白い障壁が展開されて、勇者の攻撃を完全に防いだ。


 一方で私は、冷蔵庫からオレンジジュースとお菓子を取り出す。

 そのまま居間に移動して、柔らかい座布団に腰を下ろした。


 そして仮想現実で時間の流れ調整しながら、有利に戦いを進めていく。


「ちいっ! 防がれたか!」

「いきなりコックピットを狙うのも、どうかと思いますよ」


 本体に攻撃されたことのことを想定し、護符などを持たせている。

 それにコックピットは特に頑丈に作られているので傷つくとは思えないが、もし仮に貫通したとしても肉体には届かずにノーダメージだろう。


 しかし、世の中には絶対はない。

 危険は避けるか防ぐかしたほうが良いのは、間違いなかった。


「この程度じゃ死にはしないだろ! 問題ねえよ!」


 外部スピーカーから抗議の言葉を伝えても、あっさり流されてしまう。

 これも予測通りなので別に良いが、気にせずに机の上に置いたオレンジジュースを飲む。


 そして武舞台の上では、動ける範囲が狭い。

 特に全長二十メートルもある巨大ロボットでは、いつうっかり場外負けになってもおかしくない。


 なので空中に逃れて、今度は私が勇者をライフルで狙い撃つ。


「当たりませんね」

「遅いんだよ!」


 天原も飛行魔法を使ったようでミスリルジャイアントを追跡してきて、今度は激しい空中戦が始まる。


 観客は全員空を見上げる必要があるため、長時間続けると首が痛くなるのは確実だ。


 そして勇者も強力な魔法を連射してきたので、互いに一進一退の遠距離戦に切り替わる。

 懐に入られるのは不味いため、こっちとしては距離を取って戦いたいところだ。


 しかし一発でも本体に直撃すれば、その瞬間に消し炭になるレベルで全く容赦がない。

 ミスリルの巨人は頑丈で常に1Gに保たれてはいるが、掠ったり当たったりすれば多少の振動は伝わるので、吐くものはないが本体の三半規管がダメージを受ける。


 ぶっちゃけ、一撃たりとも受けたくはなかった。


「ちいっ! 遠距離からじゃ、埒が明かねえな!」


 勇者は飛行魔法の速度を上げて何とか近づこうとしてくるが、こっちも彼の行動は予測していた。

 ゆえに対策は万全である。


「フェザー展開!」

「なにぃ!?」


 前に私が使ったモノよりも遥かに巨大なフェザー兵器が、バックパックから一斉に射出され、それは煌めく翼の形を取る。


 そして安易に距離を詰めてきた勇者に、牙を剥いた。


「くそっ! コイツは!」


 少しでも隙を作ろうと、巨大ロボットに向かって攻撃魔法を連発してくる。

 だが半透明な青い盾がそれら全てを防ぎきり、連携を取るように射撃と剣撃で全方位から攻め立てた。


 天原には、決して休む暇を与えない。


「ここですっ!」

「しっ、しまった!」


 必死に回避に専念する天原だったが、射撃と斬撃の袋小路に誘い込まれた。

 彼もそのことに気づいたけれど、時すでに遅しで逃げ場がなくなった勇者をライフルで撃ち抜く。


 こっちは長期性になるほど次の行動を予測するのが容易になり、二手、三手と疑似的な未来予知の精度が上がっていく。


 さらに常にデータベースと連動しているので、まるで高性能コンピュータのような精密射撃により、寸分違わずに青い光線が天原に直撃して大爆発が起きた。


「くっ! まだっ! まだだ!」

「ええ、この程度では倒せないでしょうね」


 未来予測では八十パーセント以上の確率で、爆煙に紛れて距離を詰めてくる。

 なので私は彼が現れる時間と場所に重なるように、正確に次の射撃を行う。


「やはり、そう来ましたか」

「何だと!?」


 どうやら予測は当たったようだ。

 ちょうど爆煙を抜けた天原に、第二射が直撃する。

 そして、またもや大きな爆発が起きた。


 だが未来を予測するのは絶対に当たるわけではなく、天気予報のように外れる可能性もある。

 何より前世のテレビゲームでは、数パーセントの確率でも不運になることが良くあった。


 なので全てのデータベースの計算に依存するのはとても危険で、当たればラッキーと考えるぐらいが良い。


 何にせよ、今度は障壁を張ることも攻撃魔法で相殺することもできなかったようだ。

 まともに攻撃を受けた天原は、飛行状態すら保つことが不可能になった。


 どうやら気を失っているようで、全身がボロボロになりながら地上に向かって真っ逆さまに落下していく。

 勇者は頑丈なので死にはしないだろうが、それも絶対とは言えない


「一応、助けましょうか」


 私はフェザー兵器のシールドを操作して、落下中の彼の体を優しく包み込むように展開する。

 そして場外に向けて天原をゆっくりと降下させ、審判の勝利宣言を聞くのだった。

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