第13話 移民説明会
村人たちへの説得をどうしたものかと考えた私は、開拓村の広場でノゾミ女王国への移民について説明会を開くことを思いつく。
別に募集人数に制限はないし、人間の比率が多くなるほどゴーレムとの友好関係を主張できる。
ちなみにダルマストーブはあまり数がないので、火の魔石の術式を書き換えて代用することになった。
それと私の身長が低いので、木箱の乗って皆に良く見えるようにする。
前世は女子中学生で、今は立場だけなら女王だ。
しかし自分は身内ならともかく、このような大人数を前にプレゼンをした経験はない。
(ゴーレムたちなら、気楽に話せるんだけどなぁ)
気心の知れたゴーレムとは違って、人間は私を女王だと認識している。
威厳を保つために落ち着きがあり、威風堂々とした立ち振る舞いを心がけつつ、コイツは只者ではないと思わせるのだ。
人間たちに舐められたら侵略される危険性が高まるため、なるべく我が国が有利になるように交渉を進めないとけない。
(とにかく、頑張ろう)
木箱の上に乗った私は、少し緊張しながらコホンと咳払いをする。
そして、まずは当たり障りのない自己紹介を行ってから、移民の説明を始めた。
「今から、ノゾミ女王国への移民について説明します」
私は少しでもわかりやすくするために、空中にデータベースを投影する。
「ここを、こうして……っと」
さらに遠くの人が見やすいように拡大表示すると、多くの村民が驚きの声を出した。
続けて風の魔石に私の声を乗せて、最後列の人に確認を取る。
「あっ! はいっ! 聞こえます!」
「それは良かったです」
問題なく見えていることがわかったので、ここからが本番だ。
私は改めてデータベースに切り替ええつつ、説明会を始める。
「こちらが私が女王として治めている国です。
現在の人口は、約一万人程ですね」
ノゾミ女王国の首都が投影されたことで、村民たちがどよめく。
ちなみに何故かジェニファーは、得意気に胸を張っている。
一足早く第一国民になったので、そのせいかも知れない。
とにかく全員がゴーレムだと告げると、またもや驚かれたが無視して説明を続ける。
「私たちは自給自足の生活をしています。
外部の人間と接触したのは、今回が初めてですね」
私は一年以上にも渡る探索で明らかになった、上空から見たウルズ大森林の地図を映し出す。
首都を中心にして、蜘蛛の巣のような道ができている。
続いて初めて人間と出会った地点に、ペケ印をつけた。
「現在は首都から開拓村に向かって、道路を伸ばしています」
リアルタイム通信ができるので、現場のゴーレムたちに協力してもらう。
重機を使って工事している映像を流しつつ、少しでも移民に前向きになってもらえるように、初めてのプレゼンを頑張るのだった。
しばらく夢中で説明していたが、やがて喋るネタが尽きる。
台本のない行き当たりばったりなので仕方ないが、ここから先は質問タイムに切り替えることに決めた。
だが皆は驚きの連続で疲れているようだし、私も話の区切り的に一休みしたい。
なので村民には温かいココアと乾パンを振る舞うと、余程空腹だったのか食事に夢中になる。
質問どころではなくなったため、私はその様子を眺めながら木箱に座ってココアを飲んで思案する。
(取りあえず、チート能力に関してはトップシークレットだね)
自分が人間たちよりも優れているのは、特殊能力しかない。
それを知られるのは非常に不味く、今後の運営管理にも支障をきたす。
いつかはバレるだろうが、国が大きくなって周辺諸国も平和になり、民衆が事実を受け入れる準備が整ってからだ。
なお、それがいつ来るかはわからない。
ひょっとしたら墓まで持っていくことになるかも知れないが、その時はその時だ。
そんなことをぼんやりと考えていると、乾パンを食べ終わって一息ついたフランクが、おもむろに手を挙げた。
「女王様。質問よろしいでしょうか」
初めて質問で、何が出てくるのかと少し緊張する。
「どうぞ」
しかし表情には出さずに、彼の言葉を黙って待った。
「ノゾミ女王国については、わかりました。
では、移民した者の扱いはどうなるんでしょう?」
私は思わず言葉に詰まり、どう答えたものかと悩む。
何故なら現状はゴーレムだけでも、労働力は十分足りている。
マンパワーが増えるのは歓迎だが、移民者にやってもらう仕事は特にない。
しかし人間たちと仲良くやっていると主張するには、彼らとの共同作業が必要になる。
(国に貢献してくれれば良いけど、人間用の職業を新しく作らないとなぁ)
何らかの形で、国に貢献してくれれば良い。
けれど死なれたら困るため、職に就くまで衣食住の面倒はこっちで見ることになる。
若干脱線しているような気がするが、私があれこれ考えていると、フランクが続きを発言した。
「やはり、奴隷として扱われるのでしょうか」
「えっ? いや、何でそうなるんです?」
労働を行うには、健康状態に気を配る必要もある。
奴隷のように酷使したり、虐げる気は一切なかった。
だがフランクは白銀色の全身鎧を装着しているミスリルゴーレムに視線を向けて、はっきりと発言する。
「女王様と部下の方々と我々には、大きな差があります」
能力か身分か種族かはわからない。
けれど彼は、ノゾミ女王国で人間の立場は低いと考えているようだ。
だがそれを聞いた私は、すぐに彼の言葉を否定する。
「うちの国では、就ける仕事は個人の能力によって変わります。
それでも女王以外は皆が平民で、奴隷階級はありませんよ」
同意を求めるようにミスリルゴーレムに顔を向けると、一号も静かに頷いてくれた。
ついでに他の仲間も同意を示したので、フランクや他の村民も安堵したようだ。
「私は移民者を決して虐げたりはしませんが、厳守すべき法律があります」
ちなみに考えたのは今、この瞬間だ。
けれど私は女王としての演技を崩さずに、それを順番に口にしていく。
「まずは、法律を守り、犯罪を起こさないこと。
次に、日本語などの義務教育を受けて、最低限の学力を身につけること。
最後は、定職に就いて国に貢献し、税金を納めること。……以上となります」
犯罪行為はうちの道具を外部に持ち出したり、国民に危害を加えないなどだ。
全体的に大雑把で、まだ決まりきっていない。
けれど、この三つを主軸にやっていくつもりだ。
「法律に関しては、後ほど詳しく説明します」
うちにある施設やマジックアイテムは全て日本語表記なので、前世のような読み書きができなければ事故の発生率が高まる。
それに、働かざる者食うべからずだ。
名ばかり女王である私でさえ毎日頑張って仕事しているので、動ける限りは国ために尽くしてもらいたい。
「法律が守れない国民には罰を与え、それでも改善が見込めない場合は国外追放します」
犯罪者には罰を与えるのは前世でも同じだが、国外追放は次に顔を見たらお前を殺すの最終宣告だ。
ただしそこまでは説明せずに、私はコホンと咳払いをして話題を変える。
「本日は移民を希望される方々のために、贈り物を用意してきました」
交渉材料として持ってきた大型トロッコの出番だ。
ウッドゴーレムには私の前まで運んできてもらい、被せていたカバーを勢い良く取っ払った。
すると隠していたものが明らかになり、色とりどりの食料が村民たちの前に現れる。
「一人一袋ずつ! 食料を差し上げます!」
移民すれば衣食住を提供するので食料なんていらないが、それを口にしてもすぐには信用を得られない。
なのでまずは現物を見せることで、心を揺さぶるのだ。
「さらには今回に限り! 村長にも、希望者一人につき一袋提供します!」
私の説明を聞いて村民が沸き立つが、それ程までに食糧不足は深刻だったようだ。
「村長に提供した食料は、お好きにどうぞ!
あとで皆さんで分け合っても良いですね!」
「「「おおー!!!」」」
内心では異世界やべえなと思いはしたが、物で釣ったお陰で移民に対して前向きに検討してもらえた。
どれだけ村長のポケットに入るかは不明ではあるけれど、誰も損をしてないのでとにかく良しなのだった。
話は変わるが、この樹海は周辺諸国はウルズ大森林と呼称され、とても恐れている。
そしてどの国も自領であると主張し、何度も軍隊を送り込んだ。
しかし、無事に帰って来られたことは一度もない。
入り口ならまだしも、奥に行くほど魔物が凶暴になって危険度が跳ね上がるのだ。
ベテラン冒険者でも生きて帰るのは難しく、中心部には大昔に滅んだ幻の都があると伝えられてはいる。
だが結局見つからずに、ほうほうの体で逃げ帰るのが精一杯だ。
ゆえに、未だに前人未到の未開の地である。
それでも貴重な素材が採れるため、他国に渡すには惜しい。
なので失っても惜しくない開拓者を募り、中継地点となる開拓村を築くように命じるのだ。
だがやって来た者たちは、生き残るだけで精一杯だった。
ウルズ大森林の入り口周辺にある村々は、一応国の管理下で領主が投資ししている。
しかし、一度としてまともに利益を得られたことがない。
毎回赤字になるため最低限の支援しかせずに、最初からないものとして扱っていた。
村の運営が軌道に乗って採算が取れるようになれば、他の町村と同じように取り立てられる。
けれど派遣された役人は、あまりにも悲惨な状況に目を背けてしまう。
そして領主の元に戻り、今回も税を払えない赤字だと報告するのだ。
それが今まで続いてきた流れだった。
だがここに来てゴーレムの女王が現れて、大きな変化を見せ始めるのだった。
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