第12話 フランク

<フランク>

 俺の名はフランク、昔はそれなりに名の売れた冒険者だった。

 今はレベッカと結婚して開拓村に移り住んで娘もでき、村の巡回や魔物退治を生業にしている。


 しかし妻が重い病に冒されてからは、近くの街まで買いに出かけることも多くなった。

 娘のジェニファーには留守を任せていたのだが、何故か危険なウルズ大森林に薬草を取りに行っていたのだ。


 帰ってきてその話を聞いた俺は、肝が冷えて青い顔になるの仕方ないだろう。


 幸い同行した村の者たちも含めて全員が無事に帰ってきたし、薬草以外にも貴重な素材や食料を採取できた。


 結果だけを見れば悪くはないし、娘も母を思ってのことだ。


 最初に少し叱ったあとは、強く抱きしめた。

 そしてジェニファーに話を聞くと、ゴーレムが怪我を治したり魔物から守ってくれたらしい。


 だが冒険者時代に俺が見てきたゴーレムは、人間を見ると問答無用で襲いかかってくる。

 娘や同行した村人たちの言葉を信じたい気持ちはあるが、どう考えても嘘っぽくて半信半疑が良いところなのだった。




 そしてウルズ大森林の希少素材や食料が手に入っても、まだまだ厳しい状況だ。

 レベッカも病状を抑えるのが精一杯で、徐々にやつれて体は枯れ木のように痩せ細っている。

 村の医者の話では、今年の冬は越せないらしい。


 村の者たちは正面からは言ってこないが、もう治療は諦めてレベッカを切り捨てるべきだと影で話している。


 残酷ではあっても彼らなりの優しさで、妻を助けようとして俺と娘まで道連れで死んでは本末転倒だ。


 しかし、愛する者を犠牲にはできない。

 俺はきっと、最後の時が訪れるまで決断できないだろう。

 そんな不安な気持ちを抑えながら、正門の警備を行っていた。


 ウルズ大森林の入り口に魔物は滅多にやって来ないし、辺鄙な開拓村に訪れる者など皆無だ。


 なので今日も異常なしのはずなのだが何故か少々騒がしく、相方が声をかけてくる。


「村が騒がしくないか?」

「ああ、確かにそうだな」


 冬場は出歩く者はあまり居ないので、この時期の開拓村はいつも静かだ。

 しかし今日は多くの者が屋外に出ており、何やら興奮気味に話している。


 すると顔見知りの村人が、慌てた様子でこちらに駆けてきた。


「大変だ! フランク! お前の家に、ゴーレムの群れが!

 ジェニファーちゃんとレベッカさんが!」

「何だと!?」


 ウルズ大森林のゴーレムは敵ではないと娘から聞いているが、やはり信用はできない。

 どうして妻と娘を狙っているのかわからないが、俺は大きな声で叫ぶ。


「くそっ! どうして二人を!」


 続いて同僚に顔を向けて、堂々と発言した。


「すまんが! 行かせてもらう!」

「ああ! ここは任せておけ!」


 相方の門番は、快く承諾してくれた。

 俺は感謝しつつ、急いで自分の家へと向かうのだった。




 全力疾走で息を切らしながらも自宅に辿り着くと、周りには人集りができていた。

 おまけに村長や裏門を警備していた者までいて、明らかにただ事ではないのは一目瞭然だ。


 何よりも奇妙なのが、大剣を担いだ全身鎧の白銀の騎士が、我が家の扉を塞ぐように堂々と立っていることだった。


 それは離れた場所からでもわかるほどの巨体だ。

 一目見た瞬間に、アレはヤバいと本能で理解する。

 自分が決死の覚悟で挑んでも、一撃で斬り殺されてしまう。


(しかも、伝説級の装備だと!? 見るのは初めてだが、何と神々しい!)


 魔石を加工して装備に組み込むことで特殊な効果を付与できるが、複数組み込むのは難易度が高い。

 それが可能な技術者は、大国でも数えるほどしか居なかった。


 太古の遺跡から伝説級の武具を発見するのも容易ではなく、魔石が一つはめ込まれた装備が見つかれば良い方だ。


 とにかく加工を行える者は貴重で作成は困難極まるため、貴重な装備で身を固めた巨人族の騎士は、まさに伝説上の存在と言える。


 そんな彼はゴーレムたちを従え、車輪のない荷車を守らせていた。

 常識外れの光景を見た俺は言葉を失ってしばらく立ち竦んでいたが、すぐに妻と娘に危機が迫っていることを思い出す。


 なので慌てて人集りをかき分けて、白銀の巨人に近づいていく。


 やがて目の前まで来たが、やはり大きい。

 恐怖に震えそうになっても、何とか一歩踏み出して真剣な表情で彼に話しかける。


「俺はこの家の主人だ! 妻と娘の無事を確認したい!

 どうか通して欲しい!」


 しかし騎士は相変わらず微動だにせず、黙ってその場に立っているだけだ。


 それでも顔だけはこちらに向けたことから、聞こえてはいるのだろう。


 だが、やがて彼は扉の前から少しだけ横に移動した。


「通してくれるのか?」


 相変わらず無言である。

 けれど言葉は通じているようで、静かに頷いた。


「自分の家に入るのに、礼を言うのもおかしな話だが。……感謝する」


 伝説級の装備をした巨人の騎士のほうが、俺よりも格上なのは間違いない。

 なので、通り抜ける前に礼を言っておく。


 何故かその際に、村長と門番が勝手に同行してきた。

 だが今は気にしている余裕はないので、扉を開けて家の中に飛び込むのだった。




 そこから先は色々あって、情報の整理が追いつかない。

 とにかくまるで神話を見ているようで、それぐらい神秘的で素晴らしい体験をした。


 ノゾミ女王様のおかげでレベッカの病は完治して、俺たち家族は移民することなることになる。


 だがまだ、開拓村の村民には伝えていない。

 急な決断をどうやって皆に納得させたものかと悩み、女王様に相談するのだった。

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