第4話 ゴーレムの性能
私の肉体はゴーレムで、心は人間だ。
さらに神様が調整を施したのか、様々な機能を使うことができる。
かつでの魔法使いは、主従関係で繋がった魔力の糸を使い、ゴーレムたちを己の手足のように操ったらしい。
これは契約時に付与される機能のため、私でも問題なく扱うことができた。
おかげで遠く離れていても、リアルタイムで現場の状況を知ることができる。
別に体を乗っ取るつもりはないが彼らと同じモノを見て、何か問題が起きればそのつど指示を出せるのは便利だ。
今はミスリルゴーレムに木材や瓦礫などを使って、掘っ立て小屋を建ててもらっている。
ちなみにミスリル銀はこの世界では二番目に高価で貴重な素材で、戦闘や護衛などあらゆる状況に対応できるように開発された高性能機だ。
私が上書きしたことで様々な機能が追加され、さらにできるようになったな状態である。
しかし、そんなゴーレムたちに大工の真似事をやらせるのも、我ながらどうかと思う。
けれど今は非常時なので、仕方がないのだ。
才能の無駄遣いな気がするけれど、彼らは人工知能を持っている。
命令しなくてもそれぞれが独自の判断で行動し、幅広い仕事を行えて経験も蓄積され、今後のためにもなるはずだ。
「今の彼らを例えるなら、ミスリルゴーレム改。もしくはマークⅡと言ったところかな?」
しかも彼らは、自分と同じで情報を共有している。
私の脳内データーベースから、いつでも自由に引き出せるのだ。
それに魔力のラインを通じて以心伝心が容易なので、その点でも便利である。
私はプライバシーの侵害と恥ずかしがるほど、純情な乙女ではない。
前世で過ごしていた田舎は、他者との境界が薄くて色々慣れてしまった。
「けどパーソナルスペースがないわけじゃないから、拠点が必要なんだけど」
三大欲求が薄くなったとはいえ、全くゼロではない。たとえ趣味レベルになっても、多少は興味がある。
「あとでデータベースの設定を変更して、進入禁止エリアを作っておいたほうが良いかも」
私は瓦礫を腰かけて、空を見上げて伸びをする。
続いて一生懸命働いてくれているゴーレムたちを眺めつつ、ぼんやりと呟く。
「仕事ぶりは正確無比で、効率重視だね」
高性能人工知能のおかげか、人間のように臨機応変に動きつつ、機械のような精密さを発揮している。両方の良いとこ取りをしているようだ。
それに表向きは真面目に仕事をしながら、仲間同士でリアルタイム通信を頻繁に行っている。
おかげで一糸乱れぬ完璧な連携を行えて、建築作業を滞りなく進められていた。
「私を中継点にして仲間同士で念話をするとは、……やりおる」
旧型は主人とゴーレムしか不可能だった。
しかし今の彼らは情報を共有可能で、自分を中継点になっている。
例えるなら私が掲示板の管理人を務めて、仲間同士で色んなことを書き込んでいるのだ。
「何か一つでも、役に立てて良かったかな」
幼女並みの力しか出せずに、頭が悪く頼りない主人である。
けれどたった一つでも、仲間の役に立てたのだ。少しだけ気が楽になった。
この先もゴーレムが増え続ければデータベースへのアクセスで負荷がかかるかも知れないが、その時はその時である。
「神様からの授かり物だし、大丈夫だと思いたいけど」
瓦礫の上に座る私は、大きく息を吐いた。
そして建築作業をしているゴーレムたちを観察する。
彼らは腕の形状を鋭利な刃物に変えて、大木を伐採していた。
「凄い便利そう」
さらに正確な目盛りがなくても、寸分の乱れもなく板や柱に切り分けていた。
人間には到底不可能な芸当を、当然のようにこなしている。
一方で私は、そんなことはできずに手伝うと邪魔になる。
ただ遠くから眺めているだけで、正直何もできない。
試しに気合を入れて彼らのように自分の体を変化させようとしたが、残念ながら精神的に疲れただけだった。
なので現時点では、リアルタイム通信の中継機でしかない。
立場的には皆の主人ではあるが、実際には部屋の隅にポツンと置かれているインターネットのルーターだ。
そんな後ろ向きな考えが、脳裏にチラついた。
あとは昔の指示待ちゴーレムなら、定期的に命令が必要になる。
けれど今は彼ら自身の意志で頑張って仕事に励んでくれており、ぶっちゃけ上司である自分よりも優秀で、出る幕がない。
なので私は管理職に徹して、肉体労働は部下に任せてどっしり構えるのだ。
「それじゃ、私の務めを果たしますか」
しかし何もしないわけではなく、ちゃんと仕事はある。
気持ちを切り替えて大きく息を吸い、目の前に横たわっているゴーレムたちを観察した。
たった今、地下倉庫から掘り出されてきたばかりだ。
少し離れた場所には土砂が山になっており、すぐ隣には良くわからない素材が分類別に積まれていた。
それらを横目で見ながら、私は大きく息を吐く。
「さて、状態はどうかな」
体が木でできているゴーレムに近づいて注意深く観察すると、やはり経年劣化や土砂に押し潰されたのか、破損が目立った。
中には手足や頭部がもげていたり、魔石の核も傷がついている個体もある。
安価な量産品だからか、私たちのように専用の容器に入っていなかったのだ。
それに木製は金属と違い、耐久力があまりないので壊れても不思議ではなかった。
「私も、もう少しでこうなっていたんだよね」
いくら自己修復機能があるとはいえ、土砂に埋もれて無事に済むとは思えない。
私は、間一髪で脱出できて良かったと思いながら、次のゴーレムに視線を向ける。
「やっぱり、鉱石系は頑丈だね」
たった今運ばれてきたばかりのアイアンゴーレムも、体はあちこちが傷ついている。
しかし核は無事で、木製よりも軽症に思えた。
それでも、ミスリルゴーレムもより保存状態は悪い。
けれど術式を上書きすれば、何とか起動できそうだ。
「じゃあ、まずは鉱石系からやっていこうか」
目覚める可能性が高い、鉱石で作られたゴーレムから再起動を行うことに決めた。
なので私はアイアンゴーレムの胸元に手をかざし、データベースのマニュアルや数値を見ながら、上書き処理を進めていく。
ちなみに鉱石系で一番多かったのは、ストーンだ。
シルバーやゴールドも居るかもと思ったが、今のところは見つかっていない。
そして貴重な素材ほど大型になるようで、ウッドが約二メートル。
ストーンが三メートルで、アイアンが四メートルにもなっている。
ミスリルゴーレムに至っては五メートルの巨人だが、立場的に一番偉い私がもっとも小さい。
戦闘能力も最底辺であり、本当に役に立たないなと溜息を吐きたくなってしまう。
だがまあそれはともかくとして、アイアンゴーレムの起動には無事成功した。
老朽化と損傷を自己修復するために、しばらくは待機する必要があるが、それでも異世界で生き延びるための戦力や労働力の確保を、少しずつ進めていくのだった。
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