Scene5

「で、なんで俺は今日こんなところにいるんだ?」

 その週の土曜日、恭一は葵に呼び出されていた。

「いいからいいから! こっちこっち!」


 少し高台にある公園。そこでは、中肉中背でくたびれたスーツ姿のしょぼくれた中年男性が、バインダー片手に色々と見回っていた。時折空を見上げている。

「お父さん!」

 葵が呼びかける。

「おお! 来たか葵!」

 近づいてきたその中年男性は屈託ない笑顔で恭一を見上げた。

「君が恭一くんだね。話は聞いてるよ。今回手伝ってくれるんだって?」

「こちらこそ葵さんにはお世話になってます。ん? 手伝うって?」

「今回の七夕イベントは僕一人で企画・実行を任されているからねぇ。助かるよ!」

 恭一は必死に横目でアイコンタクトをとろうとするが、葵は一切目を合わせようとしない。

「いやぁ昔僕の田舎で見た、天の川のものすごい綺麗な光景が忘れられなくてねぇ。子ども達も絶対感動するよ」

「ハ、ハハ……」

 恭一の愛想笑いが、寂しく響く。


       ***


「おい! 一体あれはどういうことだよ!」

 数時間後とあるカフェで、恭一は葵を問い詰めていた。

「え? 外堀から固めていこうと思って」

 葵は涼しい顔で、アイスコーヒーをストローで吸う。

「あんのっなぁ……! 大体何だよイベントの手伝いって! 仕事増えてんじゃねぇか!」

「しょうがないでしょ! 仮にこっちが成功したって、イベントそのものが破綻しかねないくらい貧弱な体制なんだから!」

「知らねぇよ!」

 葵は立ち上がって、ダン!っと勢いよく手をついた。

「良い? イベントそのものが成功しないと私達がやろうとしていることは全て無に帰すの。わかってる? 無駄骨になるのよ! むーだーぼーねに!」

「ちょっと待て! そもそも俺はやるなんて言ってない!」

 葵は、信じられないといった顔で恭一を見た。

「あの誰も見向きもしてくれない悲壮な中年男性を見て、まだそんなことが言えるっていうの!?」

「お前……自分の父親だよな……」

「いいよ! 協力してくれなくても、私は勝手にやるから。でも、良いのかなぁ。私だけだとコントロールがうまくいかなくて、真っ昼間に地表を焼き払っちゃうかも」

「ぐぬぬ……全人類を人質に取りやがった」

「じゃあね! そういうことで!」

 葵は席を立とうとする。

「待て待て待て待て!」

 恭一は身を乗り出して止めた。

「わかった……わかったから……」


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