Scene4

「一体何なんだよ! あんな悪目立ちして……」

 帰り道の途中、恭一が頭を抱えた。

 授業中あれだけ騒いだせいもあってか、今日は南波も一緒だった。うっすらとした笑みを浮かべながら、二人の話を聞いている。

「虫眼鏡よ虫眼鏡!」

 あれから数時間経っているのに、葵はまだ興奮していた。

「は? 何!?」

「だから虫眼鏡よ、七夕に天の川をよく見えるようにする方法!」

 恭一はまだ首を傾げている。

「授業中ヒマだったから、虫眼鏡と画用紙出して黒以外の紙何色が一番焦げやすいか選手権をやってたんだけど」

「ヒマだな! あと教室で能力を使うんじゃねぇよ!」

「空にデッカイ虫眼鏡を浮かべたら、天の川も大きく見えるんじゃないかって」

「はぁ? なんだよその夢みたいな話」

「でも、できるでしょう? 私達なら」

 逆に不思議そうな顔で葵がそう言うと、恭一はウグっと言葉に詰まった。

「そりゃ、まぁ、それくらいなら」

「できるだろうけど難しいだろうね。レンズの焦点距離を考えて全体を綺麗に見えるようにするには、大きさとか距離とか相当の調整がいる」

 それまではただ聞いていた南波が、ようやく口を開いた。恭一は腕を組んで少し考え込む。

「あー、そうか。マジかぁ。しんどいな」

「そんなの事前に準備すればいいだけじゃない!」

「こんな派手なこと長時間できるわけないだろう……何回も言ってるが"臨戦期間"だぞ!」

「じゃあ突貫でやるのよ! 当日気付かれないうちに一気に! 私達ならできるって!」

「結局そんなこと言って俺に頼るんだろうが。意識的にこれだけ緻密なコントロールをするのは、まだ無理だろう?」

「そりゃあ……そこは天才恭一サマに頑張っていただいてぇ……」

 モジモジしながら上目遣いで恭一を見つめ、肩をツンツン。 

「……まぁ天才だからな〜〜俺ぇ」

「あ、乗るんだそこ」

 しっかりニヤけている恭一に、南波が冷静にツッコむ。

「しょうがねぇ、まあそこまで言うんなら……この俺がある程度時間かけたらまぁできるだろ」

「さっすが〜〜」


「あと気をつけないといけないことは、これは昼にはできないってことだね」

「「へ? なんで?」」

 二人の調子の良いやり取りをぶった切った南波の何気ない指摘に、葵と恭一の間抜け声とポカン顔が揃う。お互い恥ずかしそうにモジモジした。南波は構わず話を進める。

「虫眼鏡で太陽を覗き込んだら、下手したら失明でしょ? それこそ何かに着火できるくらいの光量。もし昼間からそんな大きい虫眼鏡を作ったら、それこそ地表を焼き尽くすレーザー兵器みたいになるだろうね」

「ええ……」

 二人はドン引き。少し経って葵がおそるおそる尋ねる。

「えーと、とりあえず夜間しか作業できないってこと?」

「そうだね。準備するにしろ日が昇る頃には一回消して、当日はぶっつけ本番かな」

「あー、ダメだダメだ。そんなリスク冒してまで深夜稼働なんかしてたまるか。この話は、なかったことに」

 それまでのイチャイチャが嘘のように冷淡に吐き捨て、恭一はおじさんのように手刀を切って、そそくさと去って行く。

「ねぇー。ちょっと待ってよーー」

 葵は、急いでそれを追いかけた。

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