Scene6
「奇襲部隊、出動!」
「負のエネルギー、異常な数値です!」
七夕の前日夜、廃校の地下にある組織のベース基地ではスクランブルがかけられていた。
「よし、お前達は現地で相良分隊長に合流して、テロリスト共を殲滅せよ!」
「「「イエッサー!」」」
小銃を持ち、黒ずくめに武装した兵士達が走り出す。しかし校門を出るとその姿は一瞬のうちにスーツ姿のサラリーマンに早変わりした。銃器はビジネスバッグに変わっている。腕時計をチラ見しながら小走りだ。だが、同じようなサラリーマンが何十人も連なっているので、結局異様な光景になっていた。
現場では恭一とケビンが、能力を駆使して攻撃してくる敵と交戦していた。二人が通っている高校の近く、ビルの建設工事現場だ。
物陰に隠れ、姿の見えない敵に二人は苦戦していた。自動追尾ミサイルのようなものを具現化して何発も撃ってくる敵に対して、正のエネルギーを駆使して1発ずつ削除していく。
正のエネルギー自体も多すぎると今度は現実に干渉し、崩壊させてしまうので大規模な迎撃はできなかった。同時に防音壁も張らないといけないので、負担が大きい。
「先輩! このままじゃ埒が明きません! 一気に攻勢を仕掛けましょう!」
「待て! 相手がどれくらいいるかわからん! 応援を待ったほうが良い!」
「そうですね……思っていたより能力を使いこなしています。部隊が到着してから、一気に決めてやりましょう!」
それを聞いた恭一は、背中に冷や汗が流れた。
***
「おい! このままじゃさすがの俺でもきついぞ!」
同日同時刻、工事現場の隣の棟の屋上で、そこでも恭一が悲痛な叫びを上げた。
恭一は明日空に浮かべるレンズの大きさ、高さの最終調整を行っていた。生じる負のエネルギーの増加を、テロ活動にカモフラージュさせて。
表で戦っているテロリストも恭一自身も、全て恭一が具現化させた幻だ。
「うーん、まだぼやけてるねぇ」
隣では南波がのほほんとした口調で報告する。
「うるせぇ! てめぇも手伝え!」
「引き受けたのは君だろう?」
「おい、ここまで来ておいてさすがにそれはないだろう? 組織から応援が来たらさすがにこの自作自演も保たない! 早いとここれを完成させて、撤収しないと。ああ! もう到着したみたいだ!」
恭一の顔が青ざめる。
「しょうがない。テロリスト役の方は僕がやってあげるよ」
それまでフェンスにもたれていた南波が、腰を上げた。
「お、おい……お前行くなら頼むから手加減してくれよ。お前が本気を出したら分身じゃあとてもじゃないが、相手にできん」
「分かってるって。うまいことやってくるよー」
南波はフェンスを乗り越え、建設現場の足場に飛び移って、中に消えていった。
「なんだか余計不安になったな……」
「ね、ねぇ恭一……」
今度は葵が口を開いた。
「何で私抱きつかれてるの……?」
恭一は、葵をずっとバックハグしていた。『あす○ろ白書』で有名な、あのバックハグである。二人の身体はぴったり密着し、葵の顔はかつてないほど真っ赤だ。
「しょうがないだろ……これだけの大仕事、俺だけの能力じゃ無理だ」
恭一が葵の耳元でささやく。葵はゾクゾクした。
実は葵の正負のエネルギーを操る能力は、凄まじいものがあった。だが見出されるのが遅かった葵は、それをうまく扱うことができない。恭一が媒介となることで、その真価を発揮するのだ。
エイプリルフールの事件の時、二人は手を繋いで危機を乗り越えた。だが、そこから三ヶ月の研究の末、より身体を密着させた方が強い力を発揮できることに気が付いた。
「どうだ……天の川は……よく見えるか?」
「み、見えません!」
正確には、あまりに照れすぎて上を向くことができなかったのだ。
「おいおい、そんな様子じゃ困るな……」
「ねぇ、なんでそんなに優しい声なの……?」
「え? だってこんなに近いんだ。叫ぶ必要もないだろう……?」
「う、うん。そうだけど……」
「さぁ、上を見て……」
その声に導かれ、葵はようやく夜空を見上げた。そこには満天の星空。その中に輝く大河が見えた。
「すごーーい!!」
「どうだ……満足か?」
「うん……すごい、こんなの見たことない……」
葵の目には、少し涙が滲んでいた。
「よし、これで完成だ」
「ありがとう!」
葵は恭一の手をはねのけて恭一の方を向いた。その瞬間、ごぽぉ っと恭一は血を吐いて倒れた。
「恭一!?」
葵が急いで駆け寄る。
「南波……あいつ容赦なさすぎ……」
その言葉を最後に、恭一は力尽きた。
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