Scene2

 あれから葵と南波が総力を挙げて治療した結果、ようやく夕方頃に恭一は元に戻った。


「大体、なんでそんなに天の川が見たいんだよ」

 帰り道、葵と二人で歩いているときに、恭一はようやくその疑問を口にした。

「私のお父さん、市役所で働いてるって言ったでしょ?」

「いや、初耳ですが」

 葵は構わず話を進める。

「勤続三十年。やっと市民イベントの企画を任せてもらえたんだけど、そこで立てた企画が、『皆で集まって天の川を見よう』なの」

「えーと、お父さんもしかして冷遇されてる?」

「それなのにいざ蓋を開けてみたら、大雨なんだって!! その日!」

「いや、だからそもそも晴れたってこの町じゃ大して綺麗には見えないじゃないか……」

「この企画が失敗したら、もう後はないっていうのに!!」

「やっぱパパ無能なんじゃないか!」

 再び葵のアッパーが炸裂した。


      ***


 翌日、葵は色々とアイデアを持ってきた。

「大雨だから、どこか屋内に人集めて。そこに小さい天の川をつくるとか?」

「それならプラネタリウムでいいだろ。ただ光る球作ったところでしょぼいだけだぞ」

 なんだかんだ優しい恭一は、今日も葵につきあっている。

「本物をつくるのよ!」

「できるか! 核融合起こさないといけないんだぞ!」

「じゃあさじゃあさ! 星の光を一個一個大きくするのは? ホンモノを直接じゃなくても、なんか手前でもっと明るくだけできないかな?」

「それを2000億個やるのか?」

「ダメか……」

 葵は目に見えてガッカリした。


「ちょっと先輩!」

 聞き慣れない声がした。葵が振り向くと、そこには見慣れない男子が。恭一や南波とはまたタイプの違う、金髪で背が少し低い小動物系のイケメンだった。ハーフだろうか。

「おー、どうしたケビン」

 恭一の知り合いのようだ。

「昨日全然電話出ないから! 会議ですよ昨日! 代わりにボクが怒られたんですから!」

「昨日? 昨日俺は集中治療室だよ?」

 二回目に砕かれた顎は、さすがに病院の力を借りる必要があったようだ。

「何を訳のわからないことを言ってるんですか!」

「どうせあれだろ? 七夕臨戦の話だろ? 大丈夫大丈夫。例年通りやるから」

「それだけじゃないですよ! "テロリスト"がまた出たんです!」

「テロリスト? あいつ?」

 恭一は、エイプリルフール時の騒動で、組織に指名手配されている南波を指した。南波は自席から、悠然とした様子でこちらに手を振る。

「違いますよ。また能力を悪用する輩が現れたんですよ。ウチの組織とは完全に無関係です」

「ほう」

「どうも世界征服を狙ってるみたいなんで、今年は例年以上に厳戒態勢を、とのことです」

「まぁー、この力の存在に気付いたら、世界を征服したくもなるわな」

「え、ケビンくん、南波くんのことは捕まえないの?」

 ケビンが葵の方に向き直った。

「あなたは齊藤葵さんですね。組織では私の方が先輩ですので、ケビン"さん"と呼ぶように」

「オッケー! ケビンくん」

「話聞けよ」

「ハハハ」

「まぁー、おめぇじゃ南波にゃー勝てねーよ」

 それを聞いたケビンは明らかにムッとした。

「南波さんには組織からも手を出すなと言われてるんです!」

「えー、なんで?」

 恭一が代わりに答えた。

「南波はもう目的を達した。思惑通りには行かなかったようだが……もう派手なことを起こそうとはしないだろう。そんなやつと、現在進行形で問題を起こしているやつの扱いは当然違う」

「もう南波くんを捕まえる気がないってこと?」

「まぁ組織からしたら知らない人間ではないしな。本気で逮捕するつもりはないんだろう。組織からの除名と指名手配だけで懲罰扱いだ」

「へぇー、良かったね! 南波くん!」

 南波は立ち上がってこっちに歩いてきた。

「別に捕まえに来てくれても良いよ。僕もただで捕まる気はないけど」

「ほらみろ。うかつに手を出したら、俺達も潰されかねん」


「とりあえず! 七日はよろしくお願いしますよ!」

 ケビンは無理矢理話を戻して、私達の教室を出て行った。

「一年何組なのかな? カワイイね」

 葵は今にも舌なめずりしそうな勢いだ。

「あいつ三年だぞ」

「え!? だって先輩って……」

「組織の歴は俺の方が長いからな。律儀なやつだよあいつも」

 えぇ……葵は少しだけ、血の気が引いた。

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