タナバタ★タナボタ
日向 満家
Scene1
「天の川を、つくるよ」
七夕を一週間後に控えた6月30日、机にダンッと両手をつき、葵はそう宣言した。
「は!?」
前の席にいた恭一は、耳を疑った。
「今なんて言った?」
「天の川を、つくるよ」
「綺麗にリピートしたな!! どういうことだよ」
「言葉の通りよ」
「天の川って、あれだよな? 七夕の……彦星と織姫がどうのこうのってやつだよな?」
「そうよ」
「つくるって何? ちょうどもうすぐ七夕だ。わざわざつくらなくたってちょうど見える頃合いだろうが」
「それじゃダーメーなーのー! 天気予報見た!? 超雨よ? 来週丸々」
「なぁ、それならその雨雲を消せば良いだろう? そんな天の川をつくるだなんて、そんな大それたこと……頼むから言わないでくれよぉ」
恭一はすがるように言った。もはや涙目にもなっている。
「だって仮に晴れたって、あんま見えないし……」
葵は頬を膨らませ、下を向く。確かにこの町は、大都会ではないとはいえ、田舎の大自然かと言われると、決してそうではない。
「遂に銀河に干渉するのか。ワクワクするね」
少し遠くの席で、読んでいた文庫本を閉じながら、南波がそう言った。
「おいそこ、だまれ。一週間くらい口を開くな」
恭一がビシィッと南波を指差す。
「なぁ、つくるは俺の聞き間違いだよな!? 天の川を"見えるようにする"んだよな? 頼むからそう言ってくれよーーー! 頼゛む゛がら゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!」
***
なぜ彼らが星や雲のような自然物を"つくる"や"消す"と、何の疑問も持たずに言えているのか。それは彼らが保有する能力ゆえである。
彼らは嘘を口にしたときに生じ、幻を現実に創り変える負のエネルギーと、それを唯一打ち消せる、真実を由来とする正のエネルギーを自由自在に操ることができた。
齊藤葵が初めて自分にその能力があることを知ったのは三ヶ月前。高校二年生になる直前の、エイプリルフールの日だった。
相良恭一によって適性を見出された葵はその時、南波快斗が引き起こした正と負のエネルギーの不均衡によって崩壊しかけた地球を救った。
その後、同じクラスだと判明した三人は、クラスメイトとして仲も深まり、楽しい楽しい学生生活を送ってきたのである。
***
「なー、頼むから考え直してくれよーー。2000億個も恒星つくるのはさすがに無理だってーー」
「もう! しつこいよ! つくるったらつくるの!」
葵ももう、意固地になっていた。
「七夕はホントによしてくれ……繁忙期だぞ。その日に面倒は起こせない」
「は!? 負のエネルギーが増大するエイプリルフールだけの年1稼働じゃなかったの? 聞いてた話と違うんだけど!」
葵は例の一件以降、恭一が所属する能力者達の組織に加入していた。
「問題が起こるのはエイプリルフールくらいだが、年に何回かエネルギーが不安定になる警戒日があるんだよ。契約書に書いてただろう?」
「あんな1ミクロンくらいの字見えるか!!」
葵は右手に鋼鉄のグローブを纏い、本気のアッパーを放った。
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