第3話 うちの職場の上の階と下の階はどこ行った?
22階の窓の外は木々が生い茂っているのが見えた。
って、どんだけ長い木やねん!ここ22階やで!
怪しい関西弁で思わず自分にツッコミを入れてしまった。
しかし、この驚きをひとりで抱える事が出来ずに、そこら中に転がってる人を揺さぶって起こしまくった。
もはやテロリストの事は記憶のはるか彼方だった。
「ちょっと!起きてください!押尾さん!起きて」
「渡辺さん!寝てる場合じゃないって!」
「ふくぶちょおお!起きてくださいよお」
テロもガスもすっかり忘れて大騒ぎしていたら、さすがにひとりまたひとりと目を覚まし始めた。
「んん‥なんだ‥?」
「んー‥‥?」
転がっていた職場の人達が連鎖するように覚醒していく。
ブツブツ言いながら体を起こした人が窓を見た途端、息が止まったように窓の外を凝視している。
「え?」
「何だよ、これ」
「痛いなー…え?はぁ?」
「ええ?ええ?ええええええ」
「んん……何…騒いで……!」
倒れていた社員達が次から次へと目を覚まし始めた。
立ち上がってそのまま無言で窓を凝視する人、
起き上がり無言でヨロヨロと窓に近寄って行って窓ガラスに張り付く人、
誰も彼も皆無言で窓の外を凝視していた。
何が起こったのか、何が起こっているのか、誰かが説明してくれるのを待っているようにただただ皆んな窓に群がってポカンと口を開け外をガン見していた。
みんなより先に驚愕し終えた俺に冷静さが戻ってきた。
窓に向かってハニワ状態のみんなをよそに俺はひとり事務室から廊下へと向かう。
他の部署、他のフロアはどうなっているのかと瞬時に思い浮かんだからだ。
というのも、数年前の大震災のときもそうだったが、うちの部署は有事の際に頼りになりそうな人が少ない。
100人もいる部署にもかかわらず「働かずにいかに楽に毎日を過ごすか」に重きを置いている人が多すぎる。
人任せで自分は動かない、考えない、そんな人が…たぶん90人以上いる。
窓の外を凝視して動かないこの人達よりも、上下階の部署で頼りに出来そうな人がいたら、せめて何か情報でも貰いたいと思った。
俺はこのフロアの中央のエレベーターホールに向かった。
窓のある事務室と違い電気が消えた廊下は光が全くなく完全な暗闇だった。
廊下を壁伝いに触りながら進みエレベーターホールまで来たが、やはりエレベーターは全て止まっていた。
では、非常階段はどうだろうか?
このビルは正方形の40階建てのビルで、中央にエレベーター、東西南北の4角に非常階段がある。
今来た廊下をまた壁伝いに戻り事務室に入った。
事務室の一番右端が俺の席で、そのすぐ横に西の非常階段への扉があるのだ。
そのせいで俺の席は冬は凍えるように寒く夏は暑い、というのは今はどうでもいい話だが。
薄暗い事務室を通って西の非常階段への扉を開けた。
そこには、
23階へ上がる階段が途中で途切れて、木々(外)が見えていた。
21階へ降りる階段が途中で途切れて、土に埋まっていた。
は?
‥‥‥どゆこと?
えぇと、えと・・・上には行けない、下にも行けない?
・・・・・
ここ(西の非常階段)はダメだ。
他の非常階段を確認しようと思った俺は再び事務室に飛び込んだ。
薄暗い事務室を通り抜けて真っ暗な廊下に出る。
廊下を壁伝いに進み、とりあえず北の非常口へ行ってみた。
次に東へ。
最後に南へ。
4箇所の非常階段全てが、23階から上は無くなり、21階は土に埋もれていた。
つまり、
これって、
まさかと思うけど、
22階だけがビルからスッパリ切り取られて、ジャングルの中に落ちてる?
ふぁ?
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