留守

「たでーま、っと」


る日。


アルバイトと、所属する劇団の稽古けいこを終えた星夜は、シェアハウスに帰宅した。


ガチャ、ガチャ


「鍵、掛かってんな。 て事は、二人共、外、出てんのか」


カチャリ


三つある鍵の内の一つで、星夜が、玄関のドアを開けると――。


「うぅ……おあ~!」


「は? おい、何で……?


 ちょっ、瞳!? 拓児!?」


シーン……


「うっ、ひぐっ」


「マジかよ……うわ、メンドクセ」


「あー、うー」


「何だよ、分かんねぇよ……腹、減ってんのか?」


「あう、あうっ」


「あー……ミルクは、っと……」


台所で、朧気おぼろげな記憶を頼りに、哺乳瓶ほにゅうびんと、粉ミルクを探す。


「あった、これだ。


 何々、これを、沸騰ふっとうさして、冷ます……?」


「うっ、うえっ」


「あー、もう、まだ熱いから、待てって……ほら」


「んく、んくっ」


「ふぅ」


「けぷっ」


「ん……」


「キャッ、キャッ」


満足したのか、赤ん坊は、スゥスゥと寝息を立てて、眠り出した。


「……………………」



『ねぇねぇ、お父さん!


 文化祭で、おれのクラス、劇やるんだ!


 おれ、主役に決まったから、見に来てよ!』


『私には、毎日、仕事がある。


 お前のお遊戯ゆうぎ会なんぞ、見に行く暇があるか』


『え……又……?』


『君。 息子の世話は、秘書の君に、一任してあるだろう?


 私の手を、一々、煩わせるな』


『申し訳ございません、社長』


『じゃあな』


『あ……お父、さん……!』


『星夜様。


 お父上は、貴方や、ご家族の為に、お仕事をなさっているのですよ』


『……はぁい』



「……あーあ。 だから、ガキは、嫌いなんだよ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る