会社

「ねぇ、子安」


「ん?」


会社の、昼休み。


出掛けにコンビニで買った弁当を、デスクで食べていると、


同僚のバリキャリ女、多賀 かなえが話し掛けて来た。


「アンタ、近頃、見るからにやつれてない?」


「え……?」


「その、目の下のデカいくま。 ボッサボサの髪。


 『生活に疲れてる』感、丸出し」


えっ。 今の俺、そんなに酷い?


多賀がスッと差し出した手鏡を覗き込むと、


鏡の中から、20代前半だとは、到底、思えない男が、俺を見返していた。


「うわ……」


「どうしたの? 何かあったんなら、相談に乗るわよ」


「いやぁ……。


 実は、新しく出来た彼女が、色々と手の掛かる子でさ……。


 ハハッ」


「へぇ?」


「その辺、フラフラ、ほっつき歩くから、目が離せないし、


 所構わず、泣き出すし、わめくし、


 夜中も、叩き起こされて、寝られないし……」


「……何ソレ。 完璧、地雷女じゃない。


 とっとと、別れなさいよ」


「そうも行かないんだよ……。


 あの子には、俺が付いててやらなきゃ、駄目なんだ」


「……アンタ、その性格、本っ当、どうにかしないと、


 いつか、デッカい貧乏クジ、引かされるわよ」


もう、引いてる。


……とも言えず、的を射た同僚の言葉に、俺は、力無く笑うしか無かった。


「多賀の方こそ、こないだこぼしてた、妹さんは?」


「え? あぁ、心配で、たまに様子見に行ってるわ」


「へぇ、一人暮らしなんだ?」


「東京の大学に行く、って、家、飛び出しちゃってね。


 だから、近場のアタシが、ちょくちょく、覗きに行ってんの。


 親は、和歌山の実家だから」


「何、多賀って、関西弁、矯正して、標準語喋ってる系?」


「せやで」


「いきなりw」


あぁ……昔、俺の近くにも、そんな女の子、居たっけ。

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