拓児、帰宅

「只今~!」


「た……拓児さぁ~ん……!」


会社から、シェアハウスに帰るなり、ぐったりと疲れ果てた瞳ちゃんが、倒れ込んで来た。


「もー! この子ったら、


 泣くし、漏らすし、お腹減らすし!


 オムツと粉ミルク代、出して下さいよ?」


テーブルの上に、ドラッグストアの袋が置いてある。


「悪い、悪い。 お疲れさん」


「今先刻さっき、やっと寝付いてくれたとこですよ……」


瞳ちゃんは、唇に人差し指を当てて、しーっ、と小声で言う。


赤ちゃんは、彼が敷いたであろう、布団の上で、スゥスゥと寝息を立てている。


「しかも、女の子でしたよ」


「えっ」


「オムツ替えてて、犯罪臭と、罪悪感が、半端無いです……」


「ひ、瞳ちゃん……よく、頑張ったよ」


「うぅっ……。


 で! どうするんですか?」


「う~ん……」


まぁ、順当に行けば、警察に連絡するのが、筋、なんだろうけど……。


「……訳あり、なんだろうなぁ」


「……流石さすがに、理由も無く、新生児を置き去りになんて、しないでしょうけど」


チラッと、横目で、赤ちゃんを見る。


「……俺達で、母親を、捜せないかな?」


「えぇっ!?」


「産まれたばかりの赤ちゃんを手放すなんて、余っ程の事だと思うんだ。


 だから、面倒を見ながら、お母さんを捜して……「いやいやいやいやいや!」


瞳ちゃんが、食い気味に制して来た。


「冷静に考えて下さい! 見ず知らずの他人の赤ちゃんを!」


「でも……困った上での、決断なんだろうし」


「それ! それですよ! その性格!


 頼られたら、何でも、受け入れちゃう!


 それが、自分の首も、周りの首も、絞めるんです!」


「ぐぅっ」


心当たりが、学生時代から有り過ぎて、ぐぅの音も出ない。 ぐぅ。


「大体、星夜せいやさんには、どう説明するんです?」


「うっ……」


もう一人の同居人、流 星夜ながれせいや


確かに、アイツが、喜んで子育てにいそしむイクメンだとは、到底、思えない。


「星夜……には……」


「おう、帰ったぞー」


「! やばっ、帰って来た!」


「どっ、どうしましょう!?」

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