第117回医師国家試験:試験会場が近くてもホテルに宿泊した方がよい理由

 2023年2月4~5日(土・日)に実施された第117回医師国家試験の当日の模様はこのエッセイの序盤で書いたので本項からは前日の過ごし方と国試当日に気づいたポイントについて書くことにしました。


 主として医学部4年生が受験するCBTは学生ごとに解く問題が全く異なり大学ごとに試験日程も異なる一方、医師国家試験は2023年時点では決められた日程と時間割で日本全国の受験生が一斉に問題を解く形式です。そのため当日の遅刻はもちろん厳禁ですし前日までの過ごし方も全ての受験生が考えておく必要があります。


 医師国家試験の会場は全ての都道府県に設置される訳ではなく、例えば近畿圏内の国試受験生は原則として大阪府内の一つの会場に集まって国試を受験します。私の母校は大阪府内にある某私立大学ですが会場には京都府立医科大学(公立)や滋賀医科大学(国立)といった他の府県の医学生たちも集まっていました。


 私自身は大阪府内の大学に通っている関係上国試の会場も自宅から朝に移動できる距離にありましたが、京阪神はともかく和歌山県や奈良県在住の国試受験生は朝起きてから大阪府内の国試会場に向かうのが物理的に難しいです。このような受験生は会場近くのホテルに前日から宿泊することがほとんどで、新卒受験生であれば国試対策委員(後輩の有志が務めることが多い)がホテルを手配してくれるのが一般的です。


 このエッセイの序盤でも述べたように私は会場が自宅から近いものの後輩の国試対策委員が手配してくれたホテルに前日から宿泊することにしました。その理由は複数ありますが、最も大きな理由は安心感です。


 私自身は寝起きが悪いタイプではないので国試当日の朝に寝坊するということはあまり心配していなかったのですが、国試の会場には原則として必ず公共交通機関で移動する必要があります。誠に残念なことに現在の日本は通勤通学時間帯の電車への飛び込み自殺(隠語で言われる所の「人身事故」)への対策が全く整っておらず、国試当日の朝に飛び込み自殺で電車が止まってしまう可能性は決して低くありませんでした。国試会場への車での乗り付けは禁止されており、タクシーで会場の近くまで移動するとしても当日の朝に慌ててタクシーを探すのは精神的な負担になります。


 2023年にもなって全ての駅へのホームドアの設置が完了しておらず電車への飛び込み自殺防止の啓発も十分に進んでいない現状には色々と思う所がありますが、国試当日の朝に飛び込み自殺で電車が止まって右往左往する事態は絶対に避けたいと考えました。宿泊するホテルから会場までは貸し切りのバスで移動すると事前に聞いていたため、私は後輩から案内が来た時点でホテルへの宿泊を決めました。


 また、国試前日はどんな受験生でもプレッシャーに襲われるため逃避的にスマホやゲームで遊んでしまう受験生も少なくないはずです。ここでホテルに宿泊しておけば勉強するしかない状況に自分を追い込めますし、ホテルの室内で勉強している時も「このホテルでは同級生たちが勉強しているんだ」と思えば孤独感にさいなまれずに済みました。


 地域にもよりますが大阪府内のホテルであれば周囲にコンビニが豊富のため食事の買い出しには困りませんし、国試1日目の終了後にホテル近くのラーメン屋で食べた豚骨ラーメンの美味しさは今でも忘れられません。そもそもホテルということで部屋の片付けやゴミ出しの必要もなく、前日の夜に国試対策委員の後輩たち(受験生と一緒に宿泊している)が私の部屋を訪れてささやかに激励してくれた時は心が温かくなりました。


 このように前日からのホテル宿泊は移動の面での安心感・直前のプレッシャーの軽減・生活の利便性といった点から間違いなくオススメできるもので、既卒の受験生であっても個人で会場近くのホテルを予約することをオススメします。


 とはいえホテル宿泊にもデメリットが全くない訳ではなかったのでそれについても付記します。大学にもよると思いますが私の大学で国試対策委員が手配してくれたのは格安のビジネスホテルで、宿泊費は2泊3日で3万円程度と安いものの部屋もそれなりでした。風呂場は昔ながらのユニットバスでしたし部屋の広さは目測で6帖もなかったように記憶しています。


 ホテルは会場からバスで30分ほどの距離にありましたが国試会場には1時間以上前に到着するスケジュールになっており、そのせいで起床時間は国試の1日目・2日目共に朝5時30分という早さでした。この起床時間の早さを敬遠してもっと会場から近いホテルを個人的に予約していた同級生もいたほどで、早起きがどうしても苦手だという人はあえて後輩からのホテル宿泊案内に申し込まず個人でホテルを予約するのも正しい選択肢だと思います。

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