第10話

グランドを出た大輝は急いでバイト先であるコンビニへ向かった。


大輝は自立心が強く、好きな野球をするのにかかる費用を稼ぐ為、夕方6時からよる11時まで週に3回働いていた。


素早く着替えてレジに立つ大輝。今日もいつものように夜の11時を迎えるはずだった。


「やめてください」

同じくバイトをしている小雪という女子大生の声だった。


小雪は身体つきも良く可愛いためによく男性客から話しかけられるような女子だった。


その小雪はちょうど死角になる雑誌コーナーの整理をしていたのだが、そこに酔っ払いの中年が何やらちょっかいを出している様だった。


「お客さん、何してるんですか!」

慌ててカウンターを飛び出して駆け寄りながら大輝は酔っ払いに向かって注意した。


酔っ払いは大輝の声を無視して、小雪の手を握り強引に引き寄せようとした。


大輝は瞬間、酔っ払いのその手を掴んだ。


酔っ払いはその握力の強さに

「痛いじゃないかぁ、坊主、ガキが」

と、悪態をついてきた。


不運なことに他に客はおらず、店の中は3人だけだった。


酔っ払いはそれを確認すると大きな声で、

「貴様、今、俺様に暴力を振るったな!俺が誰だか知ってやったのか?俺はなぁ、この界隈を仕切ってる矢部っていう者だ。貴様が先に手を出した。だからな、俺がこれからやることは正当防衛だ」


「キャー」

小雪が怖さのら余り叫び声を上げると同時に矢部は大輝の顔面めがけて、殴りかかった。


大輝は、ヒラリとかわし

「おい、オッさん、やめんかい」


ドスの効いた凄みのある声に矢部は一瞬後退りした。


酒の勢いがなければ完全に怯んでいたに違いなかったが、しかし、矢部はいい具合に酔っ払っていた。


「てめぇー、クソガキが、矢部様になんだと」

虚勢を張りながらなおも殴りかかってきた。


大輝にとって酔っ払いのパンチなどは止まって見えるほどだったのだが、わざと殴られてやった。


そして、派手に倒れてみせた。


それを見て少し正気に戻ったのだろう。

「クソガキ、わかったか」


と、言い残しコンビニを出て行った。


「大輝くん、大丈夫ぅぅ」

小雪は倒れ込んだ大輝に寄り添うようにして大輝の顔を覗き込んだ。


「うぅぅ、、、」

「大輝くぅぅん」


「わっはっは、全く大丈夫」

大輝はスクっと立ち上がって笑った。


「大輝くん、ったら、もぅー、心配しちやったじゃない」


「それより、小雪さん、掴まれた手大丈夫ですか?」


「うん」 

「綺麗に洗っておきましょうか」

「えっ、あ、うん」


小雪は大輝の繊細さに触れ完全にダウンしてしまった。














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