第8話

荒川東高の野球部小柴監督は東京都下の公立高校で最も甲子園に近い監督と言われていた。


その小柴は上川のワンプレーで小躍りしたい気持ちになった。


上川の捕球とダイレクトの返球はその運動神経の良さとセンスを計り知るには十分なものだった。


荒川東高校は新設7年目だったが設備が良くスポーツが盛んなこともあり、進学校並みの難易度を誇っていた。


大輝は他校からのスポーツ推薦の誘いを全て断り、学費が安く甲子園が狙えるこの高校を受験すると決め、慣れない勉強を必死に3ヶ月間頑張った。


周囲からは絶対に無理だと揶揄されたが、大輝らしく、逆に受験はこの一つと覚悟を決めた。


普通ではなかなか出来ないことをやる?でもどうして複数受験しなかったのか?大輝の答えは一つ。ただ覚悟しただけ。


全く勉強してなかったのだから、割と伸びた?


いやいや急激に伸びて見事に合格した。


その荒川東高校のグランドに大輝は立っていた。


ノックの2巡目がやってきた。

バットを持つ小柴はわざと右中間に打ってみた。


先ほどとは違い、ボールが弾かれた瞬間から大輝は全力で走り、捕球地点のやや後ろから回り込むように、ボールをキャッチしバックホームへ再びダイレクトの返球をみせた。


このプレイの凄さは小柴にしか分からなかったはずだ。


見ていた先輩達はダイレクト返球に気を取られているが、打球の見極めから初動の正確さと、落下地点への移動の速さに加えてバックホーム体勢での捕球を可能にしたトータル的な俊敏性と判断力。。。


小柴は身震いせずにはいられなかった。


一方の大輝は、久しぶりに運動した気分だったが、待ち時間が長いことが不満で、あんまり待たせるなよ、と言ってやりたいそんな葛藤の中にいた。


先輩達の練習が終わる少し前に、体験入部の生徒はグランウンドの端に集められ、小柴監督の話を聞くことになっていた。


ところが、大輝はグラウンドに一礼したあと直ぐに帰路に就いた。アルバイトをする為だった。







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