第7話

大輝は悠一の高笑いが少し気に入らなかった。


「悠一さぁ、遥ちゃんは今日初めてなんだからさぁ、悠一の高笑いの意味、分からないよ」


周りは悠一が高笑いする時はポジティブな時だと熟知していた。しかし、遥は今日が初めて。


瞬間、雫ママは遥の表情をチェックした。遥は悠一が自分に対して微妙な印象な為に、笑って誤魔化したのではないか、と思って少し不安気な面持ちになっていた。


雫ママはすかさず

「悠一さん、わーはっはっは、じゃ分かりませんよー!」にこっ。


「いいに決まってるじゃん。遥ちゃん、ごめんね。俺、笑う時は喜んでる時だからね」


続けて

「人が笑う時というのは、精神的なリラックス状態にしか本当の笑いは起きない。つまり、俺が大きな声で、、、即ち、、、」

悠一は相変わらずくどかったが、、、


メモリーズは優しい人たちが集う場所でもあった。


「遥ちゃん、歌は?大丈夫?いきなりだけどデュエットしない?」


悠一は遥ちゃんを気遣い誘ってみたが、遥ちゃんの入店を優子、大輝、悠一に目配せで確認していた雫ママが

「その前に、遥ちゃんの入店祝いに乾杯しましょう」

と、曖昧だった遥の入店をハッキリさせた。


働きたくて体験入店に来ている遥の気持ちを思ってのことだった。


「じゃー、お祝いにシャンパンでも入れようか」

「えぇー、本当!」

チィママの優子はタイミング良く相槌を打つ。


「みなさーん、このままカウターがいい?」

雫ママはフロアのテーブル席への移動を促した。


メモリーズは実は割と広めのフロアを持つお店で、店構えとしてはスナックというよりラウンジと言った方がいいスペースだった。


しかし、何故か?常連は皆最初はカウターに陣取るのが常だった。


気が効く優子は大輝と悠一の反応を確認した後、雫ママの言葉に呼応し、ボトルやグラスの移動を始めたのだった。


移動が終わると、雫ママは笑顔で

「遥ちゃんの入店祝いに、大輝さんからシャンパンのプレゼントでーす!」


雫ママは大輝がワインは好きだがシャンパンが苦手なのをよく知っていた。お祝いだからシャンパンをチョイスした大輝に感謝しながら、シャンパンを開けた。


感謝されたいからではないが、繊細な大輝は、そんな雫ママの気持ちを感じる瞬間がこの世の中であり得る至極の幸福の時だった。


「かんぱーい」


「あー、はっはっは」


遥も悠一の高笑いの意味が分かり、安心して心から微笑むことが出来た。


「あっ、遥ちゃんお腹空いてない?」

今度は悠一が心遣いをみせる。


「空いてないです、、、」


あれ?


また、みんな顔を見合わせて大爆笑。

メモリーズの夜は楽しく更けていく。




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