第12話 夕飯の時間

父がキッチンに立って、包丁を握っていた。

「これを炒めて……、うーん、料理って難しいな……」

ミストはその声に苦笑いする。


「そういえば、父さんって……、料理苦手だったよね」

ミストはベッドから起き上がって台所へ向かう。

「よいしょ……」

足の痛みで、歩くのはゆっくりだ。

「いたた……」


壁に寄りかかって伝い歩きする。

「父さん……、手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ」

「……ん? なんか……焦げてない?」

「え……? あ!」

父は慌てて火を止める。


「本当、お父さんのそういうところが変わってないよね」

ミストは笑って言う。

父は焦げた食材を見て、苦笑いする。

「薬の他は消し炭しか作れないな……」

「じゃあ、私が作るから……、父さんは野菜切ってサラダ作ってよ」

「ああ、わかった」

ミストに言われて、父はサラダを作る。


「さてと……」

ミストはてきぱきと料理を作る。

「手慣れている物だな」

「そりゃ、一人で暮らしているから……」

「そうだな」

ミストはお皿に料理を盛り付ける。


「はい、できたよ」

「ああ、ありがとう。美味しそうだ」

父の作ったサラダもテーブルに乗せて、二人は夕飯を食べることにした。


「今日はある物で作ったから、適当だけど……」

ミストは苦笑いして言う。


だが、テーブルには父の作ったサラダ以外には、野菜炒め、あんかけパスタ、煮つけ物がある。

食事としてはまあまあバランスが取れているだろう。


「明日はもっとうまく作るわ……。煮込み料理とか」

「いや、俺からしたらご馳走だよ」

その言葉に、ミストは疑問が浮かぶ。


「父さん、普段何食べて生活してるの?」

「ほとんど出来合い品だ」

「ああ、なるほど」

ミストはそれで納得した。


「さてと、いただこう」

「うん。いただきます」

二人は仲よく夕食をつついた。


「うん、美味い」

「そう……、良かった」

ミストはほんのりと頬を赤らめて言う。

面と向かって褒められるのは、気恥ずかしい。

「俺もこれを機に、少し料理を始めようかな」

「うん、良いんじゃない? 私も簡単な料理なら教えるから」

ミストの言葉に、父も頷く。


「後片付けは俺に任せてくれたらいいよ」

「そう? ありがとう」

父はいつもより嬉しそうだ。


「いつも、一人だからな」

「……私もだけど」

「そうか……、まあ、そうなるよな……」

「でも、今日から少しの間、父さんもいるから少し嬉しい……」

「そうか」

父の声は明るい。


「しばらくはいるつもりだからな」

「うん、それは嬉しいけど……、仕事は良いの?」

「ああ、大丈夫だ」

父の言葉に、ミストは不思議な気持ちになっていた。

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