第11話 チラシ広告の依頼

一時間もしないうちに、父は原稿を書き終えていた。

「こんな感じでどうだ?」

「うーん?」

ミストは原稿をもらって読む。


「ここはもう少し強調した方が良くない?」

「なるほどな……」

「後は特に気になるような部分はないかな……」

「そっか」


父はそこを訂正し、大急ぎで新聞社に持って行く。

「すみません」

「おや、ミストの親父さん」

「ちょっとこいつをチラシとして新聞に入れといてくれないか?」

「ああ、はいはい……」


新聞社の若い男はすんなりと原稿を受け取った。

「え? ミストケガしてるの?」

「ああ、ちょっとな……。足をひどく捻挫してしまって……」

「そいつは大変だな! んじゃ、これ印刷して明日の新聞に入れとくよ」

「ああ、じゃあよろしく」

「はいよー」


父は安堵して歩いて帰る。

「夕方か……、良い空の色だ」

青空から夕焼けに代わるコントラスト。

ミストの父はそう言った色合いが好きだった。

「と、言っている場合ではなかったな」

父は少し急いで家へと戻っていた。


「ただいま」

「あ……、お帰りなさい」

「久しぶりだな、親父」

いつもやってくる子どもだった。

どうやら、ミストの父とも顔見知りのようだ。

「ああ、また来ていたのかい……。久しいね。というか、変わっていないな」

「そりゃそうでしょ」

子どもは笑って言う。


「ミスト、広告は明日の新聞に挟んでくれるそうだ」

「そう……、良かった」

「親父―、ミストのケガはいつ治るんだよ?」

「そうだな、薬も塗っているし、二~三週間もすれば治るだろう」

「えー、そんなにかかるのか……」

子どもは口をとがらせる。


「靭帯や健が切れていなかっただけ良かったんだ」

「じんたい? けん?」

子どもは怪訝そう顔をする。

「この辺りだな」

ミストの父は子どもの膝を触って教える。


「ふーん、ここのすじがじんたい、それを繋ぐのが健か……」

「ああ。靭帯や健が切れると大変なんだ」

「じゃあ、早く治るようになんかいい薬草探しとく」

「ああ、ありがとう」

「じゃあ、そろそろ帰るぜ」

「ああ、またな」

「じゃあね」

子どもはミストの家を出て行った。


「そう言えば父さん……」

「あの子の事か?」

「ええ……」

「まだ話す時期ではないかな」

「……そう」

「一つだけ言えるのは、彼らとの付き合いは代々のものだ」

「代々……? っていうことは、お爺ちゃんたちも……?」

「ああ、そうだ」


ミストはそれを聞いて、考える。

いつから彼らとのかかわりがあるのだろう?

正体は何だろう?

そして、何故誰かに知られてはいけないのだろう?


「とりあえず、今日は夕飯を食べたら早く休んでおきなさい」

「え? でも、薬は……」

「それは俺でもできるからな」

父はそう言って、キッチンに向かった。

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