第10話 お見舞いの品

父はミストへ、預かっていた小さな紙袋を手渡す。

「これは……?」

「ああ、マナさんからお見舞いの品、だと聞いた」

「お見舞い……?」

ミストは紙袋を開ける。


そこには、水色のストーンが付いたネックレスが入っていた。

「キレイ……!」

「凄いな」

ミストは目を輝かせてみている。

父はそんなミストを微笑ましい気持ちで見ている。


「薬の配達を復帰したら、付けていこうかな……」

「ああ、良いと思うぞ」

ミストはふと良い香りに気付く。


「父さん……?」

「ああ、紅茶を淹れていたんだ。アールグレイで良かったか?」

「だから良い匂いがしたのね……」

「ああ、パン屋の親父も変わっていないな。あと、これはパン屋の親父からだ」

「え?」


ミストは父から小皿を受け取る。

そこには、コロンとしたマカロンが乗っている。

「サービスだって言っていたな」

「そうだったの……。美味しそう」

「少しお茶にしよう。それから今後の事を決めていく必要もあるだろう」

「うん……」


ミストと父は、紅茶を飲みながらマカロンやガレットサブレを口にした。

「やっぱりあそこのマカロン、美味しい」

「そうだな。あそこの親父はパンだけじゃなくて、甘いものを作るのも上手いから」

「父さんはパン屋のおじさんと知り合いだったっけ?」

「ああ、学校の先輩でもあるんだ」

「そうだったのね……」

「学生時代はやんちゃな先輩だったんだが……、今じゃ気の良い親父だから最初は驚いたよ」

父は笑って言う。

「ちょ……、ちょっと、意外……」

ミストは苦笑いして言う。


父は食器を下げる。

そして、ミストの足に塗る軟膏を出してきた。


ミストは軟膏を手に取りながら、少し嫌な顔をする。

「これって、もう少し何とかできないのかな……」

「何とかって?」

「特有のにおいに、文句を言ってくる人もいるの……。試行錯誤しても、なかなかうまくいかないし……」

「それは難しい問題だな」

父は苦笑いするほかない。


「だが、この成分にはこれが一番という物を組み合わせているからな……。下手に試行錯誤を繰り返すことが、却って良くないこともあるぞ」

「うん、それはそうなんだけど……」

「においだけは、もう諦めるしかない」

「父さんでもそう言うなら、そうなんだろうね……」

ミストは瓶のふたを開ける。

そして、ツンとくる特有のにおいに顔をしかめた。


「うぅー!」

ミストは声にならぬ声でにおいに対して抗議に近い表情をする。

「我慢しなさい」

父は苦笑いで言う。


「さてと、これで包帯を巻いて……、あとは寝る前だな」

「しばらく足から嫌な感じが……」

「早く治すためには仕方ないな」

「うん……」

ミストはげんなりとした顔で頷いた。


「とりあえず、今後の事だが……、しばらくは配達に向かえないことを知ってもらう必要もあるだろう」

「うん……」

「新聞のお知らせ欄に乗せてもらうか、チラシにするか……」

「チラシの方が良いかもね……」

ミストは一人考えていた時に、チラシはすぐに思いついていた。


「わかった。じゃあ、原稿を書いて新聞社にチラシとして出すよう頼んでこよう」

父はすぐに作業に取り掛かっていた。

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