第9話 継続か休止か

翌朝。

ミストは一番に診察を受けることになった。

「足の骨は折れていませんが、ひどい捻挫ですね……。しばらくは安静が必要です」

「そうですか……」

ミストは困ったように言う。

「配達をしたい気持ちなのはわかりますが、取りに来ていただくという形にしては?」

医者はそう言って提案をする。


ミストは悩んで黙り込んだ。

「良いんじゃないか?」

口を出したのは、ミストの父だった。

「さすがにそこまで無理をさせるわけにもいかないだろう?」

「そうですね、その方が治りも早いでしょう」

「……もう少し、考えたい」

「わかりました」

医者はそう言って頷くだけだった。


「とりあえず、今日の分の配達は……」

「それは俺が行こう。その時に説明をしておくから」

「ありがとう、父さん……」

ミストはまだ悩んでいるようだ。

やはり、というべきか。

元気がないことは、父でも医者でもすぐに分かった。


医者が帰ると、父はミストに珈琲を淹れる。

「どうする?」

「……やっぱり、来てもらう形にしないといけないよね。父さんが帰った後も、まだ安静にしておくべきだったら、配達に行けないし……」

「そうだな」

父は力なく言うミストの肩に手を置く。

「一生治らない、というわけじゃない。少しの間だけ、配達をお休みさせてもらうと言うだけだ。そんなに落ち込むことじゃない」

「うん……」

ミストは小さく頷いた。


「さてと、じゃあ、配達に行ってくる。ついでに状況もしっかり説明しておくから」

「お願い……」

ミストは父を見送った。


その間、ミストは本を読んで過ごしていた。

薬草についての本や、木の実についての本である。

どうすれば、より良い薬ができるか。

常に試行錯誤の連続でもある。


ところ変わって街の中。

「さてと……」

父はあるドアをノックする。

「はい」

ドアが開き、若い女が顔を出す。

「マナさんのお宅ですか?」

「そうです。あれ? ミストちゃんは……」

マナは心配そうな顔をする。

「実は、昨夜娘が足をケガしてしまいましてね……。しばらく、配達をお休みする必要が出てしまいまして」

「ケガを……! それは大変……。早く治ると良いけど……」

「安静が一番の薬、と医者からも診察を受けています。それと、娘から預かってきた薬です。薬草のエグみを中和するよう、柑橘類も少し混ぜ合わせています。それでもどうしても口の中が、と言われるなら、オブラートを使ってみると良いでしょう」

「ありがとうございます」

マナは薬を受け取った。

「次はどうします?」

「ええ、じゃあ同じものを……。お医者さんにも確認しましたが、恐らく次が最後で良いと思う、と言われました……」

「わかりました。お受けしましょう」


「あ、そうだ。これを……。ミストちゃんへのお見舞いです」

マナは小さな紙袋を渡してきた。

「ありがとうございます、娘に渡しておきましょう」

「それと、お薬代です」


父は薬代を確認する。

「少し多いようですよ。こちらの分はお返ししておきます」

「ミストちゃんも同じことを言ってくれるんです。本当に良いんでしょうか?」

「ええ、もちろん。お大事になさってください」

父は笑顔で帰る。


父はミストへと、パンを買って帰る。

「ただいま」

「お帰りなさい、父さん。ありがとう」

父は笑って来ていたコートを脱ぎ、ハンガーにかけた。

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