バイキンを殺害しに行った日の話
湧音砂音
約1400文字だそう
その歯医者は小さい頃は白い歯が自慢だったのに、いつの間にか銀歯が目立つ様になっていた友人が教えてくれた歯医者だった
白き歯の輝きはもう昔 にっこりと笑えば
不自然に歯輝くキミか
予約日が今日で合っているか確かめるために
診察券を見ると、日付の欄が次の予約で埋まる事に気がついた。ここに通い始めて二枚目の診察券、私頑張ったのかな?
いつの間に 二枚目になりし診察券 気づけば
次で日付欄埋まる
呼ばれるまで女性誌を読む。トップはいつも通り政治不信について、その次が芸能人の不倫、しばらくページを進めると美味しそうな料理の特集、私は次のページも美味しそうな料理を期待した、だが次のページはまた不倫だった
ふと女性誌を読む
政治不信 不倫 美味し料理 また不倫……
しばらくして、診察室に向かう廊下から一人の制服を着た男が歩いてきた。男はてくてくと歩き、待合室の椅子に座るとスクールバッグをぎゅっと抱いて会計を待った。顔は平気そうだったが、そのスクールバッグをぎゅっと抱いた様は今日の治療を物語っていた
待合の椅子にちょこんと座る患者さんに
強く抱かれて
そうして、診察になったわけだが歯科衛生士がやたらと鼻をすすっていた。もうそんな季節か春だし仕方ないのかなぁと思いながら、同じ病気を持つ者として心の中で私は衛生士に同情した
衛生士 異様に鼻すすりて 春という病を
心中にて同情す
私が入った診察室は壁を一枚隔てて、また
診察室がある。よく聞くとタービンの音と
歯科医、衛生士の声がした。だけど患者さんは我慢強いのか大人だから当たり前なのか全然声を出さない様だ。だけど削られてる音がとても痛そうで思わず「頑張れ」って呟いてしまった
壁一枚隔てれば 無言で象牙質を削られし
人いて 頑張れと呟いてしまい
そうして、治療も会計も済み、待合室でぺこりと頭を下げて、次は削るのか嫌だなぁと思いながらスリッパを脱ごうとしたら、手を繋いだ親子が入って来た。思わず表情を大人らしい顔(?)に改め、背筋をしゃきんと伸ばしたら子供は不思議そうにこちらを見た
すれ違いざま 母親と手を繋ぐ子に気付き
しゃきんと背を伸ばす
帰りに寄ったスーパーの歯ブラシコーナーで歯周病対策にピッタリと書かれた青色の歯ブラシを選んだ。歯ブラシコーナーには色んな歯ブラシがあった。しゅっとしたオシャレな歯ブラシ、持ち手が広くて使いやすそうな歯ブラシ、丸くてふわふわした先っぽの歯ブラシ、小さい子供用の歯ブラシ、子供用の歯ブラシには「バイキンをやっつけようね」的なメッセージが書かれていた。それを見て、私も「そうだ、負けないぞ!」と拳を握った
帰路にて 青色の歯ブラシを買いて
バイキンに負けじと拳を握り
寝る前に久しぶりに染め出しをした。鏡に
「いー」のお口と「あー」のお口をして見たら、真っ赤になった口が写り思わず笑ってしまった。私はこれって鏡とにらめっこみたいだねと思いながら一生懸命バイキンとかくれんぼしたのだった
就寝前 染め出しで真っ赤になるほほえみと
にらめっこせよ にんまり
こうやって無理やりにでも一日を文字に起こしてみると、思った以上に人に頼っている事を実感する。頼らなければ生きていけないと言う事は私も誰かに頼られているのだが、どうにも頼りなくてこれからもごめんなさいを
抱えたまま生きていくだろう。
おしまい
バイキンを殺害しに行った日の話 湧音砂音 @mtmmumet555
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