第6話

アクセサリー店 Animaは神獣の森奥深くにあるアクセサリー店だ。

店のドアを開けば、店員であるうさぎの女の子のぬいぐるみであるクゥが迎えてくれる。

そして店長は店の奥で一人アクセサリーを作っているラクリマという無表情な兎耳の神獣だ。


その日クゥは作業部屋に来ていた。


「全くご主人は!まーた徹夜して無理してウサギの姿になったでしょう!?長く生きているんだから自分の限界ぐらい見極めてください」


「……」


どうやら先日、ラクリマが徹夜して本来の姿に戻ったらしくその説教をしているようだ。

両手をパタパタとさせて怒っている。

その姿をラクリマは片肘つけながら見ていた。


「ちょっと聞いてますか!?ご主人いなかったら私動けないんですよ!?そんなの嫌ですからね!?」


「……なぁ」


「…なんですか」


「お前喋ってないか?」


クゥは両手を動かすのをやめ、数秒固まったあと再び両手を動かす。


「まっさかぁー、寝ぼけているんですかご主人?私との会話は氣魔法でやってるから無意識に使ってるだけじゃないですかぁ?」


「うーん…そうか?」


ラクリマは氣魔法のスペシャリトであり、クゥがぬいぐるみでありながら店員として働いているのも氣魔法で動かしているからである。

また、ぬいぐるみ故に喋れないクゥのために、考えてることが文字に出る看板を用意し、それを用いてクゥは接客をしている。

氣魔法を使えて、クゥの波長と合えば看板無しでも意思疎通が可能であり、ラクリマはそうやって会話をしていた。


そう会話しているとドアが開く。

そこには深い蒼色の髪で青色の目をした少年がいた。


「ねぇ、何してるの?」


「あ、レイさん!」


「レイか、定期健診か?」


「そうだけど…」


レイと呼ばれた少年はオレンジ色の子狐を抱きながらドアのほうを指さし。


「お店開いたままなのに店員いないとかいいの?盗んでくださいって言ってるようなものじゃん」


「あぁ!お説教に夢中で忘れてました!看板も店のほうだからレイさんとルフウさんとおしゃべりできません!」


「お説教に夢中って…今度は何やらかしたのさ、ルフウの定期健診日改めたほうがよかった?…ってん?」


「ふぇ?どうしましたレイさん?」


クゥはそのままドアのほうへ向かおうとするが、レイが何かに気づき、クゥの方を振り向く。

何かに気づいた雰囲気を察し、クゥもレイのほうを向く。

すると


「…ねぇ、なんかクゥ喋ってない?」


「やっぱり喋ってるよな?」


「…えーまさかー、レイさんも氣魔法使えるだけじゃないですかー?」


「いや、自分天しか使えないし…」


「…え?でも私ぬいぐるみですよね?喋れませんよね?」


「そのはずなんだがなぁ」


ぬいぐるみだから意識はあっても喋れない。

それはラクリマがクゥを作ったときから分かっていたからこそ、看板を作ったのだ。

喋れることを知っていたら、看板ですら作らないだろう。


「ラクリマがその様子だと本当に知らないみたいだね、本当に日を改めた方がいい?」


「いや、定期健診はやるぞ、知り合いの子狐で心配だからな…クゥのことは…あとで知り合いの神様経由で調とこう」


「神様と知り合いなんて、とんだ人がいるもんだなぁ…神獣だから?」


「別に全員知り合いなわけじゃない、神によっては人里まで下りる酔狂な奴もいる、お前だって神と知り合ってるだろう?」


「そりゃまぁ…知り合ってるけどさ…」


この世界には9体の神様がおり、その神様は神々の塔にいる。

しかしその中には、街などに下りている神様もいるようだ。

ラクリマは長らく生きていること、またアクセサリーを作って人と関わってる中で神様と知り合いになったようで、レイも経緯は不明だが、知り合いの神様がいるようだ。


「神様っていえば、最近増えたらしいよ?」


「何、またか?神様が増えるとはなんともな…」


「『電気』『魔術』『武術』『契約』の神様だってさ」


「前半3つは分かるが最後の1つは?」


「所有者のための神様だって」


「人に嫌われた人達を救おうと神も本気になったか…」


「まぁ、『死にゆくものの証』だからね、願い叶う人のうわさ聞かないし」


所有者とは強者の証であり、所有者となると体のどこかに紋章が浮かびあがる。

所有者同士で殺し合いを行い、一定数の紋章を集めると願いが叶うと言われている。

しかし願いが叶った所有者の話を聞かないため、一般的には『死にゆくものの証』として恐れられている。


「でも…1つ気になっているんだよね」


「何がだ?」


「願いが叶う人のうわさも聞かないけど、所有者のまま死んだ人の話も聞かない。もしかしたら紋章は死んだとき消えてしまうのかもしれないけど、所有者同士が戦って片方が勝ったって話も聞かないんだよね」


そう所有者は願いが叶ったという噂を聞かないが、その中で所有者が死んだという噂も流れない。

そのため所有者の仕組みについて調べる人も多くいるとのこと。

ラクリマはその話聞いて少し考えた。

もしその噂が本当なら、所有者が死んだり、紋章を集めきると何かが起こっているだろう。

その何かというのは普通に考えると分からないが、ラクリマはあることを知っている。

この世界の神には『記憶の神』がいる。

その記憶の神は全ての生き物の記憶を管理しており、その人が考えたことも言ったことも全て把握しているらしい。

それが本当なら、きっとその何かは「記憶」をどうにかしているんだろうと考える。

そしてこれは当たっているのだろうと確信している。

しかしそのことをレイには伝えない。

レイが何の神を信仰しているか分からないが、余計な不神感を与えない方がいいだろう。

神は信仰が無くなると消える。そのせいで起きた悲劇もあるのだ。

たとえどんな神であろうとも、確定するまで何も言わないのが吉だろう。


「なるほどな…とりあえず、ルフウの検診からするか、クゥは店に戻れ、でも喋らないで看板で話せよ」


「動くぬいぐるみだけでも希少なのに、喋ったらさらに狙われるからね」


「了解です!」


クゥは店のほうへ戻り、レジカウンターへ向かう。

ベットに潜りながら、なんで喋れるように考えた。

考えても考えても分からないため、そのままクゥは眠りについた。


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次回、最終話です。

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