第5話
アクセサリー店 Animaは神獣の森奥深くにあるアクセサリー店だ。
店のドアを開けば、店員であるうさぎの女の子のぬいぐるみであるクゥが迎えてくれる。
そして店長は店の奥で一人アクセサリーを作っているラクリマという無表情な兎耳の女性だ。
彼女は神獣であり、かなり昔から生きている。
そのため、昔馴染みもいるようで…
ある日の午後、クゥはいつも通りレジカウンターでスリープモードになっていた。
今日はこのままお客さんこないかなぁと思っていると、外からドスンと大きな音が聞こえた。
何の音かと思い、入り口方面の窓へ近寄り外を見ると、大きなドラゴンがいた。
クゥは急いで窓から降りて、入り口のドアのへりを上り、ドアを開く
そしてドラゴンへと駆け寄り、両手をパタパタと動かす。
『クゥ久しぶり、あなたのご主人呼んでくれる?』
ドラゴンの頭がクゥに近づきそんなことを言った。
どうやら、ラクリマの知り合いのようだ。
クゥはこくんと頷き、店に戻ると店の入り口にラクリマがいた。
「必要ない、来ている。」
『まぁまぁ!めんどくさがりがよくでてきたわね』
「到着前から念話で来るよコールしてただろ、いやでも来るぞオリエ」
『それならやってよかったわ♪』
オリエと呼ばれたドラゴンとラクリマはそのまま楽しそうに会話をする。
オリエはラクリマの昔馴染みであり、やいとの育て親である。
神獣の森はいくつか縄張りがあり、オリエはその縄張りの一つの主で『赤の主』と呼ばれている。
温厚な性格であるため、人を襲うことはなく、人を驚かさないよう巣から出ることはない。
しかし何かしら用事があるときは自分から来るときがある。
2体が話始めると長い、でも店の前にドラゴンがいたらお客もこないだろう。
このまま待とうか、レジカウンターまで行こうかクゥが悩んでいると。
「というか人型でこい、営業迷惑だ」
『無理よ、ラクリマみたいに長く人型になんかなれないわ、それにお客もたいしてこないでしょう?』
クゥはそのワードを聞いてびっくりしたが、そういえば人型になるには魔力操作が必要。
オリエの人間の姿を見たことがないが、神獣の森の主の1体であり、ラクリマと昔馴染みということは魔力操作も上手いはずだ。
だから人間の姿にもなれるのだろう。
でも魔力操作は苦手だから人間の姿に長く出来ないのだろうか?と思いながら考える仕草をしていると。
『あら?クゥどうしたの?』
「お前が人の姿に長くできないのが不思議に思っているんだろ、人型になるには魔力操作が必要だとしか言っていないから」
『あらあら、それは勘違いよクゥ』
クゥは勘違い?元々かしげていた頭をさらにかしげる動作をする。
『人型になるにはね氣の魔法が必要なの、実態を作る必要がなければ水とか天でもいいんだけどね、実態を作るとなると氣魔法が必須だわ』
この世界には魔法があり、その属性は9つに分かれる。
まず四大属性の『火』『水』『地』『天』
四大属性を二つ魔力を合わせて発動する複合属性『雷』『植』『鉱』『氣』
四大属性を全て合わせて発動する『闇』『光』
そして、四大属性の反発する魔力を合わせて発動する『無』がある。
人間の姿になるのは魔力操作が必要だと言っていたが、それに加えて複合属性の『氣』が必要なのか。
複合属性は難しい部類に入るため、氣魔法を使うだけでも大変なのだろう。
『私たち神獣は魔法陣がなくてもいろんな魔法を使えるけど、属性の相性はあるのよ』
人間は魔法陣を使って魔法を発動する。
その魔法陣を杖などに保存して使うのが主流なのだそうだ。
もちろん人間にも使える属性の魔法の相性があり、対応していない属性は扱えないんだとか。
魔法陣無しでも魔法が使える神獣でもその理屈は一緒のようだ。
『普通の人間と比べると扱える属性は多いけどね…氣属性は一応使えるけど、上手くないのよ。ラクリマは氣属性が得意なの、クゥは知っているでしょう?』
そういえばそうだ。
なんとクゥをこうやって動かせているのも、あの看板も、ましてや店のアクセサリーに能力を付与しているのも全部氣魔法なのだというのだ。
なるほど、氣魔法のスペシャリストなはずだ、だから人間の姿になる時間も長いのだろう。
そうクゥは考えているとふと疑問が浮かんだ。
チーフーは元は子狐だ。
人間の姿になっているということは、氣魔法が得意ということになる。
少なくともあの日以降、チーフーの子狐姿を見ていない。
『あら?まだ首をひねったままね?』
「チーフーのこと考えてるようだな」
『…あの子狐ちゃんのことね、あの子氣魔法の相性は悪くはないけど良くもなかったはずだけど…』
オリエから見てもチーフーは異質のようだ。
「紋章が何かしら作用しているんだろ、なんせ自分が知る限りで初めての神獣の所有者だ」
その情報は初めて知った。
確かに神獣がなったという話はクゥも聞いたことがない。
「あの神様のことだ、ろくでもないこと考えているんだろう」
『あらあら変なこと言わないでよ…もしばれたら…』
「バレてるよ、あいつは記憶の神だ、人だろうが獣だろうが考えてることも言ってることも全て把握しているんだからな」
『ひねくれちゃって…』
ラクリマは長い時間生きているため、自然とこの世界の神様と知り合うことがあったようだ。
クゥもその1体と会ったことあるが、記憶の神様には会ったことがない。
ラクリマが酷評しているあたり、ろくでもない神様なんだなぁと推測はする。
「クゥ、今日はもう休んでおけ、このまま外でオリエと話す。長くなるしそのまま今日は店閉める…どうせ何かお願いだろう?」
『あら、勘がよろしいこと』
話が長くなるし、店も閉めるなら自分がここにいても意味がないか。
クゥに渡されてる仕事は店の店員だ。
オリエの話を聞いて、ラクリマの手伝いをしろなんてことは仕事の範囲外だ。
クゥはオリエの方を向き、一礼する。
『はい、お疲れ様。今度ゆっくり話しましょうね』
そうしてクゥは店に戻り、ベットに潜りスリープモードになった。
明日はどんな客がくるだろうか、そう思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます