第7話

アクセサリー店 Animaは神獣の森奥深くにあるアクセサリー店だ。

店のドアを開けば、店員であるうさぎの女の子のぬいぐるみであるクゥが迎えてくれる。

そして店長は店の奥で一人アクセサリーを作っているラクリマという無表情な兎耳の神獣だ。


「おい、起きろ」


クゥはラクリマのその声を聴いて目が覚めた。


「あれ?ご主人、ルフウさんの検診終わったんですか?」


「終わった。今日はもう店終いだ、神様探すぞ」


「了解ですよー」


クゥはベットから起き上がり、ラクリマの頭へ移動した。

ラクリマと外にいる時の定位置である。

ラクリマは両手を使いたいときが多いため、クゥを持つことなんてしない。

そして、肩にいると片方の索敵がおろそかになる。

クゥが歩くとラクリマと歩幅が合わないため、どんどんと置いていかれる。

そのため消去法で頭の上なのだ。

幸いぬいぐるみなので重さを感じることはない。


「それでご主人、どこに向かうんですか?」


「知り合いの神様がいそうなところまで」


この世界の神様は9体おり、神々の塔に住んでいる。

いや、最近4体増えて13体となったが基本は変わらないだろう。

しかし中には変わった神様もいるようで、街にいる神様もいる。

クゥとラクリマはその変わった神様に会いに来た。


「ということだ。教えてほしい」


「…唐突だね?」


ラクリマが神獣の森を進んでいくと、神獣が沢山集まる広場についた。

そこにはオレンジ色の髪にツーサイドアップの女性がいた。

ウサギの神獣を膝にのせ、頭を撫でているところに、ラクリマは話かけたのだ。


「そうですよ、事情を教えたほうがいいですよ~」


「…あれ?いつもつれてるぬいぐるみだよね?喋ってるの?」


「なぜかな」


「うーん、原因を知りたいようだけど、自分は分からないよ?破壊の神様だし…」


「自分を司る神様がどんなのかは知っている、誰か神様経由で知らないかと思ってな、できれば記憶の神以外で」


「なるほどね…ブルク以外でかぁ…あいつも嫌われているなぁ…」


この女性こそ13体いる神様の1人で、兎の間、破壊の神、フィアブイズである。

フィアブイズは破壊の神故に、自分ができることは破壊しかないとネガティブだが、人や動物は大好きな為、度々森にきてはこうやって神獣と戯れているのだ。

それが高じて1人の赤ん坊を拾って、命を救っている。


フィアブイズは目をつむり考え込む。


「知識の量なら、なみかちゃんだなぁ…でも、ぬいぐるみが喋るって今まで聞いたことないし、もしかしたら燐斗君の方が知ってるかも…」


「なみかはお前のところの番人だな、燐斗っていうのは…もしかして最近増えたという神様か?」


「あ、そうだよ。なんだ知ってたの?」


「最近な」


神々の塔では1体の神様につき1~2人の番人がいる。

なみかはその番人の1人だ。

かなりの知識を詰め込んでいるなみかなのだが、フィアブイズはその子ではなく別の名前を出してきた。


「そいつは物知りなのか?」


「訳アリな子でね…ここにはない事象とか知ってるから、もしかしたらって思って」


「知っていればいいがな」


「それは運だね…燐斗くんは確か近くの街にいたはずだよ、今日ここに来る前にそんなこと言ってたから」


「新しい神様も街降りるのか…変わったやつだなぁ」


フィアブイズから燐斗の容姿を聞き、ラクリマは街に向かう。

黒髪で、オレンジ色の目をした剣士の青年が燐斗なのだという。

それを聞いたとき、クゥはなんとなく見おぼえがあるような気がした。

しかし憶測なので、ラクリマに何も伝えなかった。


「さて、ついたわけだがこの中から燐斗を探すわけか」


近くに会った街につき、ラクリマはそうぼやく。

クゥはキョロキョロと見渡し、心当たりのある人物を探す。

しかしこの周りにはいないようで、しょんぼりとしている。


燐斗を探しながらラクリマとクゥが街中を歩いていると、急に後ろから話しかけられた。


「すみません、ラクリマさんですか?」


「そうだが、もしかして燐斗か」


「はい」


ラクリマが振り向くと黒髪でオレンジ目の青年がいた。

どうやらこの青年が燐斗であった。

クゥはその容姿をみて、看板がなかった日にきたお客さんだと理解した。

容姿の特徴からそうかなと思っていたがどうやらあっていたようだ。

あの時は青髪に赤いバンダナをつけた青年、赤髪でイスに座った女の子、緑髪で青色の目をしたシスターがいたが、今日は1人のようだ。


「フィアブイズさんから、なんか俺に聞きたいことあるって聞いたんですけど…」


「あぁ、知っていたらでいいんだがな、私の上にいるぬいぐるみが喋るようになったんだ」


「え?あ、ん?もしかしてあの森の奥のアクセサリー屋のぬいぐるみ?」


「なんだ、店にきたことがあるのか?私はあの店の店主だよ」


「あの時はアクセサリーのお買い上げありがとうございました!」


「本当に喋ってる…」


燐斗が来たときは確かシスター用のアクセサリーを買っていってくれたのだ。

燐斗と赤髪の子は看板の方がすごい気になって、色々質問された記憶がある。


「魔法で出してるわけじゃないんですよね?」


「意志はつけたがな、ぬいぐるみは声帯がないから喋れない、だから看板で意思疎通できるようにしていたんだ」


「ってなると…多分ですけど付喪神化したんではないですかね」


「付喪神?」


聞いたことない単語にラクリマはクゥを落とさないように首をかしげる。


「長い年月得た道具に霊魂が宿るって言われていて、そうやって霊魂が宿った道具のことを付喪神って呼んでるんです、諸説あるんですけど」


「神って言うには神様になるのか?クゥも偉くなったな」


「神って言っても、場合によっては妖怪とかに含まれたりするんですけどね…実際に神だったりもするけど」


「なるほどな…そんなこと始めて知ったんだがお前の生まれた所特有か?」


「うーんまぁ特有って言われると違うかもですけど、俺の生まれた国は八百万の国って言われてるから、付喪神が実際に神様だとしても驚きはしないかなって」


「八百万は多いだろう」


「多いですね」


聞きたいことを聞けたラクリマは帰ろうかと思っていた。

燐斗が新しい神様ということは知っているため、この場でどの神様なのか聞いてもいいが、

彼にも用事はあるだろう、1番聞きたいことが聞けたのだ、帰っても問題ないだろう。

クゥによれば一度お客にきているということは、またいつか店にくることもあるのかもしれない。

その時にでも聞けばいいし、やいとは神々の塔の番人の1人だ。

やいと経由でお願いしてもいいだろう。


「なるほどな…まぁ理由は分かったよ付喪神化してなんで喋れるかは分からんが」


「そこはちょっと…」


「だろうな、質問に答えてくれてありがとう。また店に来てくれるとうれしいよ」


「えぇ、仲間と一緒にまた来ますよ…。そうだラクリマさん」


「なんだ?」


帰ろうとラクリマは街の入り口に向かおうとすると燐斗に呼び止められた。


「付喪神って99年使うと宿ることから九十九神って言われることもあるんです、きっとその子を作ってから99年なんかたってないと思いますけど、そういとう大事にされてたんですね。だから…今後も大事にしてあげてください」


「…分かった」


そうしてラクリマは街から森に向かい、自分の店へと帰っていった。


「意志が宿るね…ということはお前、もう私の魔力なしに動くということだな」


「前にもらったのいつでしたっけね…切れてみないと分からないです」


「まぁ、動かなかったら魔力あげればいいしな」


「そうですね」


ラクリマは作業場のイスに座り膝にクゥをのせた。


「いつも店番ありがとうな」


「…えっご主人どうしたんですか?」


「たまには感謝しないとって思ってな」


クゥの頭を撫でながらラクリマは答える。


「そんな急な褒め方しなくても、自分はここの店番やめませんよ?ここは作ってくれたのはご主人ですし、店番楽しいですからね!」


「…本当、マニュアル対応するぬいぐるみ作っただけなのにな」


「予想外ですね」


ラクリマとクゥはお互いの顔を見ながら。


「これからもよろしくな、クゥ」


「はいラクリマご主人様」



とある森の奥深くにアクセサリー店がある。

そのアクセサリー屋は人の能力をあげてくれる不思議なアクセサリーを売っているのだという。

欲しい方はどうぞ、『アクセサリー店 Anima』へお越しください。

看板で会話するぬいぐるみのクゥと無表情ウサギのラクリマがあなたをお出迎えしてくれるでしょう。

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