王都編 チーム対抗戦に向けて
朝日が昇り、光が窓から差し込むとそれに刺激されたのかフェイトンが目を覚ます。よく寝たと、体を伸ばしているとほぼ同時に二年生の一人が起きたらしい。下からうめき声に近い奇声とともに何かをこするような音が聞こえてきたので下を見てみるとアグーレが床の掃除をやらされていた。まあどうでもいいことだが。
しばらくすると部屋に二年生のロベイトが帰ってきた。どうやらどこかに行っていたらしい。彼はアグーレの掃除の戦果を確認すると、どうやら合格だったようで「もういいぞ」と声をかけ自由にする。
「ロベイト先輩、僕達今日以降の予定を聞いていないんですが何か知りませんか?」
ロベイトが帰ってきたことでフェイトンが昨日からの疑問を聞く。本当に試験官や部屋に案内してくれた人たちはなにも教えてくれなかったのだ。本当ならもうひとりの二年生に聞きたかったのだが名前がわからず、聞くに聞けなかった。
「ん、ルークから聞いてなかったのか」
「ルーク?」
「ああ、言ってなかったか。そいつの名前だよ」
どうやらもうひとりはルークというらしい。
「えっと、今日の予定ねぇ。確か本来は交流会みたいなのを部屋ごとに開くんだとよ」
「交流会ですか?」
「新入生と俺らの親交深めろ、て言われてるからな。まあ、名前は言っといたしもう大丈夫だろ。ちなみに三年の二人はデュマット、フェクダだ、覚えとけ」
あまりに淡白な交流会だ。フェイトンたちは先輩の名前だけしかまだ情報を得ていない。が、どうやらそれ以上は会話する気はないらしい。何故かフェイトンたちは動ける服装に着替えさせられ、強制的にどこかへ連れて行かれる。道中どこへ行くのかと聞いても薄ら気味悪い笑みを浮かべられるだけだった。
そうして着いた場所は昨日試験を受けた広場とはまた別の運動場だった。そこには二人ほどが仁王立ちしており、こちらを待っていたようだ。すると突然二人が声をかけてくる。
「遅かったじゃないかロベイト、ルーク。筋肉バ…フェクダと一緒にいる俺のことも考えてほしいものだね」
「…デュマット。筋肉バカとは俺のことか? 俺の肉体に勝てないからって嫉妬するなよ」
一触即発の二人。どうやらこの二人が同部屋の三年生のデュマット、フェクダらしい。デュマットは青い髪の長身でスラリとした印象を受けるが肉がついていないわけではない。フェクダは同じく長身だが身体分厚い筋肉に覆われており髪は金に近い茶色で全体的に力強い印象を受ける。
「あ、あの、どうして僕らは此処に呼ばれたんですか? 何も聞かされていないんですけど」
「えーと君は…新入生だね。俺はデュマットだ、よろしく頼むよ。ついでにこの筋肉はフェクダって言うから。それで君たちの名前は?」
デュマットの問いに二人が答えると、フェクダがフェイトン達に近寄る。
「説明してなかったのかあの二人は…君等が知っているかは知らんが、育学では年に五回くらい部屋別のチーム対抗戦があるんだ。それで明日に今年度の最初の対抗戦があるからその最終調整みたいのすんだよ」
突然の重大発表に驚くフェイトンとアグーレ。二人は本当に何も聞いておらず、そんな重要な行事があることも初めて知ったのだ
「安心しろ、新入生は特例を除いて出んでもいいことになってるからよ。まさかお前らも右も左もわからんうちにこんな行事に参加するなんて思ってねえだろ」
そんな二人を見てロベイトが二人を安心させる。だが、更に疑問が浮かんでくる。
「え、じゃあなんで俺ら呼ばれたんですか?」
「そりゃあ、先輩たちが汗水たらして訓練に励む中、後輩を悠々と休ませるわけ無いだろ」
ロベイトがごく普通そうに答える。フェイトンたちは周囲を見回すも広場にいるのはニ、三年と思しき者たちだけだった。おそらく他の部屋の新入生たちは今頃悠々と部屋で過ごしているのだろう。そう思うと自分たちの部屋割りの不運さを呪いたくなる。
そんな二人の様子に一切の興味を向けずに同部屋の四人は準備運動を始める。全員が黙々と取り組んでおり、その大会に対する意思の重さが分かる。二人は彼らに倣って準備運動を行う。
皆が準備運動を終えると、四人はそれぞれの武器を取り出し早速ニ対ニの実戦形式の練習を始める。フェイトン等はいきなり過ぎないかと思ったが、明日に迫っているのに素振りとかやっても効果はないという考え方らしい。また、フェイトンは運動さえしていればいいと言われたので素振りなどを行った。意外だったのはアグーレが素振りというか、基礎の訓練を疎かにしていなかったことだ。偏見だが、基本をすっ飛ばして本能のままに戦う男だと思っていた。その動きは無駄がないわけではないが流麗で日々の積み重ねを感じさせる。ちなみに扱う武器は弓と短剣二つらしい。どちらもそれなりに値が張りそうだ。
そうこうしている間に四人の訓練はヒートアップしてきたらしい。ロベイトの槍とフェクダの大剣がぶつかり火花を散らす。ルークの魔法をまとった矢とデュマットの魔法が空中で激突する。全員の動きが素晴らしく、特に前衛のロベイトとフェクダの動きには眼を見張るものがある。ロベイトは軽快な足捌きと軽快さとは無縁の攻撃の重さがあり、フェクダは見た目に違わぬ力任せな一面と相手のミスを誘発する老獪な小技を扱う一面がある。
どうやら、育学の生徒のレベルは相当高いようだ。フェイトンらはそのことを改めて痛感して一日を終えた。ただ、上級生の性格面については難があるとも思ったのである。
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