王都編 部屋にて

 フェイトンが案内された部屋はかなり大きめの部屋だった。補足だが、冒険者育成学校の学生の部屋は一部屋六人が普通である。これは冒険者が大抵パーティーを組むため、それに慣れさせようという意図がある。また、やはり同部屋の人間にはアタリとハズレがあるため、部屋決めが新入生にとって一番重要な運試しと生徒の中では言われている。して、フェイトンの運はどうだったのだろうか。


 案内された部屋は複数人の人間が生活しているにしてはかなりキレイだった。換気もしっかりされているのか部屋は少々の汗臭さも感じない。冒険者育成学校の廊下にはところどころ色が剥げていたりとしていたのだが、この部屋は壁や床の痛みどころか僅かな傷、ホコリすらない。


 その光景に息を呑んでいると部屋の中の人間が部屋前で固まっている少年に気づいたらしい。


「君たちは新入生か? 頼むから部屋に入る前に靴に付いている土や服や装備のホコリを落としてくれないか」


「君たち…?」


 フェイトンは今気づいたが自身の後ろにもう一人新入生がいたらしい。彼の容姿は背が少々低めで幼さを感じる顔立ちで燃えるような赤髪を持っている。新入生二人は言われたように服のホコリを払い、靴の汚れを適当に落としてから入室する。


「やあ、よく来たね。君たち名前は?」


 先程の男とはまた別の男が親しげに二人に問いかける。黒髪で青目、スラリとした身体が特徴的だ。


「フェイトン・ハーマーです」


「アグーレ・ペルテスです」


 二人の名前を聞いた男は先程の男に声をかける。


「ねえロベイト、フェイトン君とアグーレ君だって。ちゃんと聞いてた?」


「聞いてた、念を押さなくても大丈夫だ」


 ロベイトと呼ばれた男は床を掃除しながら応える。どうやら彼がこの部屋を此処まで綺麗にしているらしい。


「ああ、疑問に思ってるだろうが俺らは二年生だ。三年生は諸用で今いないが明日にでもなれば帰ってくる。その窓辺の二段ベッドが三年、その隣がお前さんらのだ。自由に使いな」


 ロベイトが言ったベッドに二人が向かったのだが、ここである問題が起こる。


「僕が上を使うよ」


 フェイトンが上のベッドに乗ろうとすると、赤髪の少年アグーレに足を掴まれる。


「…俺が使う」


 寝床の取り合いである。二年生の二人は興味がないのか談笑している。

 フェイトンは地味にプライドが高いため譲ろうとしないし、アグーレも気の強そうな目つきをしており断固たる思いを感じる。これは話し合いでは解決しないと二人は思ったのか殴り合いに発展しそうだ。フェイトンは掴まれていない方の足でいつでも蹴れる状態にする。アグーレは足を掴む左手に更に力を込め右手の拳も固める。

 が、ふとアグーレが力を緩める。


「こんなことで争っても意味がないよな」


 アグーレが冷静になったらしい。フェイトンも話し合いに応じる姿勢を見せる。しかし…


「もらったぁッ」


 アグーレが突如ジャンプする。油断を誘い、その間に上を占拠するつもりだったらしい。だが、その目論見はベッドの手すりの出っ張った装飾に防がれる。すごい勢いで障害物に顔から突っ込んだアグーレは力無く倒れ伏す。すごい量の鼻血を出しており、もしかしたら生命に関わるかもしれない状態だがフェイトンや二年生の二人は少しの関心も向けずに眠りについた。もちろんフェイトンは上のベッドを使っている。


 余談だが明日の朝、アグーレは気絶したあとそのまま眠りについていたのだが叩き起こされ自身の血の跡を掃除させられることになる。また、それを指導していたロベイトには前日までの気怠そうな雰囲気は一切なく、まるで鬼のようだったそうな。


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