第60話 そりゃあ、突っ込まれるよねぇ...


 俺とアイリさんはあの後、ややギリギリの時間帯で学校へ到着すると教室へと向かって足を進めていた。


「幸せは歩いてこない〜♪」


 尚、アイリさんは朝だと言うのに依然上機嫌なようで、懐かしい歌を横で口ずさんでいた。


「だーかラ、壊していくんだヨ〜♪」

「まさかの選択肢!?」


 ちょっとだけ変だけど。


「いや、歩ける人だけが幸せを享受できるのは不平等に感じタので...世の中には歩きたくても歩けない人もいっぱいいまスシ」

「いや、確かに歌詞通りならそうかもしれないですけど、あくまで精神論的な——」

「だから、歩く人も歩かない人も等しく不幸せを享受すれば平等なんじゃないかト」

「確かに平等ですけど、多分誰もそんな世界望んでないと思いますっ」


 頼むから普通に幸せを享受させてあげて欲しい。というか、やはりアイリさんはやや俺を玩具として見ている節がある気がする。今だって、なんかニヤニヤしてるし。


「あっ、着きましタ」


 と、そんなやり取りをしているといつの間にやら俺とアイリさんは教室の前へとやってきていた。

 正直に心の旨を吐き出すとするなら...入りたくないっ!!

 だって、そうだろ? ただでさえ、アイリさんは転校してきて2日目ということや海原と初日から言い争いをしていたり、とその容姿もあいまって目立つ存在だ。

 加えて言ってしまえば、今の俺も少し目立つ存在であると言える。ただ、別にこれは自意識過剰とかではない。

 冷静に考えて見てほしい。


 転校してきた美少女が隠キャでボッチな男にばかり構っています。...どう考えてもその男の方も目立つだろ、これ。まぁ、主に嫉妬しかないだろうけどさ。

 嫌だよ? 男子からの熱い視線受けるの、俺。しかも、全然いいものじゃないというかなんなら殺意こもってそうだし。


「おはようございまスー!!!」


 しかし、そんな俺の心の中の葛藤など知るはずもないアイリさんは、一切の躊躇なくそれはそれは元気な声で挨拶をしながら教室の扉を勢いよく開けるのだった。


「「「はぁぁぁぁ!???」」」


 そしてまぁ、当然のごとくアイリさんの昨日からの変貌っぷりに、クラスメイト達は鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くすると一呼吸置いた後に、驚きの声を上げるのだった。

 ...すいません、ここから俺が何事もなかったようにこっそり教室に入るすべってあったりします?


「赤田くん、なにを突っ立ているでスカ? 早く教室入っテ準備しないト」

「わ、分かってます」


 ないですよね、はい。分かってます。というか、分かってました。

 アイリさんにそんな風に声をかけられた俺に、入らない選択肢などあるはずもなく案の定クラス中の視線を浴びながら教室へと入ることになる。


 そして、何故か俺が席に着いた後アイリさんは素早く自分の持ち物を自分の机に置くと俺の席の元へと近寄ってきた。そして、そうなれば教室の視線は一点へと集まることになる。

 くそっ、俺に石ころ帽子さえあれば...。


「いえ、今の赤田くんに必要なのはきっと、脳内思考無意識放出遮断装置心の声デナクナールだと思いマスよ」

「埋めてください」


 俺は気がつけばそんなことを言い、頭を下げていた。いや、冷静に考えたらヤベェ奴にしか映らないのは分かるんだけど今そんな冷静な思考持ち合わせてないからっ。恥ずかしさで、溶けてしまいそうだから。


「そうしてあげたいノハ山々なんですが、残念ナガラここは二階ですので掘ってしまえば一階にある教室に開通してしまってデスネ...」

「いや、真面目に考えないでください。その方が俺恥ずかしいです」


 しかし、冷静じゃない俺の言葉に対しアイリさんが真顔でそんなことを口にし始めるので、居た堪れなくなった俺は慌てて止める。


「...あのー、ちょっと良い?」

「「はい?」」


 と、そんなことをしているとあの声以降静まり返っていたクラスの中、1人の女子生徒がおずおずといった様子で俺とアイリさんの元へとやってくると声をかけてきた。

 確かこの人は..神崎さんだったけ? 見た目は若干ギャルっぽいのだが花凛さんと俺が一緒にいるところを見ても、変に詮索したり誰かに話したりもしないといった真面目で優しい人だった気がする。


「完全に私が気になっただけなんだけどさ、アイリさん髪切ったよね? なんか理由とかあるの?」


 俺が少し神崎さんについて思い出していると神崎さんがアイリさんに対し、そんな問いを投げかけた。いや、そりゃ聞かれるか。というか、アレか。クラスの声を神崎さんが代弁したって感じなのか。


「それはですネ...赤田くんがショートの方がイイって言ってくれたからですネ」

「「「ええぇぇぇぇ!!?」」」

「ちょっと、待ってぇぇぇぇ」


 するとアイリさんはお茶目けたっぷりに軽く笑うとそんな風に答えた。当然、クラス中から困惑したような声が上がった——が待って欲しい。

 その言い方にはあまりに語弊がありすぎる。いや、確かにアイリさんが言っていることは間違っていない。でも、なんか凄い誤解を生みそうな言い方だ。なんとか解かねば。


「おーい、お前らST始めんぞー」

「先生、ちょっとだけ待ってください。まだ弁明が弁明が出来てないですっ」

「今日も問題なしっと。さっ、始めるか」

「ちょぉぉぉ!?」


 結局、先生が入ってきたかと思えばその後すぐにSTを始められてしまい弁明は叶わぬ夢とついえるのだった。

 いや、この誤解はアイリさんの目的の首を絞めることにもなりかねないけど果たしていいのだろうか?



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 次回「話を聞かせてください?(ニコッ)」


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