第61話 話を聞かせてください?(ニコッ)


「さっ、午前の授業も終わりましたシ私達も弁当を食べましョウ」

「そうしますか」


 昨日とは違い午後までしっかりと日程が詰まっている今日の昼。アイリさんは当然かのように自分の椅子を持って俺の席の前へとやってくる。

 そして俺はと言えば敢えてもう何も言わないことにした。どうせ、言っても聞いてくれそうにないからな。なら言うだけ無駄だというものだろう。


「いやー、髪が短くナルって最初は凄い変な感じでしたケド、意外と心地よいものですネ〜」

「...さいですか」

「な、なんでちょっと不機嫌なんでスカ!? もしかして似合ってなかったりするンデスカ?」


 いや、別に似合っていないわけではない。勿論、長い髪も似合っていたが短い髪は別ベクトルの良さがあるように思う。短い髪のアイリさんは可愛さを前面に押し出している感じだ。

 結論を言えばめちゃくちゃ似合っているっと言うわけなんだが...アイリさんがクラスの人達が誤解しか生まない発言をした為、俺としては素直に頷けないわけだ。

 いや、昨日にも増して凄いからね? 俺への視線(死線)。全ての憎しみと恨みのダブルセットが俺に向いてるんじゃないかってくらい来てるからっ。


「...いや、なんでもないですよ。さっ、早く食べましょうか」

「今の間なんでスカ!? ...もしかして本当に似合ってないンデスか?」


 俺が少し仕返しの意味を込めてやや冷たい態度をとっていると、アイリさんの瞳が不安げに揺れ少し目尻に涙を浮かべながらそんなことを言い始めた。

 ...やっぱり、可愛いってズルいよなぁ。そういう意味でもアイリさんが短い髪になったのは色々と障害が生じている。


「...ちゃんと似合ってますよ」

「そうですカ! それは良かったデスっ。...赤田くんにそう言って貰えるト嬉しいデス」


 仕方ないので俺がそう伝えるとアイリさんは途端に顔をパアッと輝かせると、俺の手を握ると目を合わせながらニコッと満面の笑みを見せる。そしてその瞬間、クラス中から俺に向いていた殺意のボルテージが一段上がったような気がした。

 ほらね? なんとなくこうなるの分かってたから言いたくなかったんだよっ。

 別にこのアイリさんの態度は好意を含んだものではない。いや、ある種友達としての好意はあるのかもしれないけど。


 だが、側からみたら別だ。朝のアイリさんの発言や今の態度を見ればアイリさんは俺に好意を抱いているんじゃないか、と疑っても不思議はない。

 俺だって昨日のアイリさんの話を聞いてなきゃ特に今の態度は多少勘違いしてたかもだし。


「さっ、弁当を食べましょウ。私、アレやってみたかったんデす。友達同士でおかずを交換するアレ!」


 そしてアイリさんはと言えば髪の件に関しては満足したのか、既に次の話題に入っているようでそんなことを言っていた。


「はいはい、分かりましたよ」


 そして俺はといえば断る方が面倒くさくなることを知っているので素直にそれに従う。


「私からはこれでス」

「じゃあ俺からはタコさんウインナーってこれトマトのへたじゃないですか!?」


 従えなかった。なんで、トマトのへた!? アイリさんは俺をなんだと思っているのだろうか。


「私、トマトのへたが食べれないモノで..」

「いや、そもそも食べるものじゃないですからっ。というか、自分が食べれないものを渡してこないでください」

「くっ」

「くっ、じゃないですよ。くっ、じゃ」

「けっ」

「そういうことじゃないんですよっー」


 とそんなやり取りをしている間に昼休みはあっという間に過ぎていくのだった。

 休みって感じはあんまりしなかったな。



 *



「今日で最後かぁ...」


 色々とあった新学期2日目の学校も終わり、家へと帰った俺はそんなことを呟きながら身支度を整えると外へと出た。今日は名古屋での出張バイトの最終日である。

 元々夏休みの間の約束だったので少し長引いたが、どうやら本城さん曰くようやくいいバイトが見つかったらしい。

 ちなみに今日のシフトには花凛さんもいるので俺は新学期始めて花凛さんと話すことになる。

 初日に少し不満げな顔をしていたので少し懸念点はあるが大丈夫だと信じよう。

 まぁ、花凛さんだし分かってくれてるとは思うんだけど...。



 *



「ここも今日で見納めか...」


 店へと到着した俺はバックヤードを眺めながらそんなことを呟いていた。大変な思い出も沢山あったけどこうしてみると感慨深いものだ。


「...どうしたの?」

「いや、ちょっと懐かしんで—って、花凛さん!?」


 後ろから声をかけられたので俺が慌てて振り返るとそこには花凛さんが立っていた。まだ、俺と花凛さんのシフトまで40分ほどあるはずだが、もしかすると花凛さんも最終日だから我慢しきれず来ちゃった感じだろうか?


「なんかちょっと久しぶりみたいな感じしますね。学校で一応会ってるのになんか変な感じ—」

「...赤田くんっ」

「は、はい」


 急なことでびっくりした俺がなんとか話題を作り出そうとしていると、黙り込んでいた花凛さんが突然俺の名前を呼んだ。


「ちょっと、まだ時間あるよね?」

「そうですね、結構まだまだありますね」


 そして花凛さんがそんなことを言うので俺は頷く。どうしたのだろうか?


「じゃあ、ちょーっとだけアイリさんとの関係についえ話を聞かせてくれませんか?」

「えっ」


 そう言った花凛さんはにこやかに笑っていた。えっ、本当になに!? どうゆうこと!?



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 次回「ダメです」


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