第58話 複雑な思い(町田 花凛)


「むぅぅぅぅ」


 私こと町田 花凛は今、唸っていた。いや、別に私は獲物を捕らえられず空腹からそうなっているのではない。...いや、そもそも私は肉食動物とかではないし。

 などと、普段の私ならならないような思考にさえ陥っていた。

 そもそも事の発端は、私が赤田くんの席の方をなにげなく眺めていたところからだ。

 正直、私はこの夏休み赤田くんとかなり仲良くなれたという自負がある。だって、2人で海水浴行ってるからね!?

 2人で海水浴行ってるんだからね!?(重要)


 コホンっ。と、そんなわけでそろそろ周囲のこととか気にせず教室でも赤田くんと話したいな、と考えていたのだ。だって、赤田くんと私は友達なはずなのだから。...いや、今は友達以上に深い関係かもしれない。

 ま、まぁ、それは今は置いておくことにしよう。

 ともかく、私は赤田くんのことを眺めていたのだ。しかし、赤田くんは私の視線に気がついたと思ったら、懇願するかのように「俺の方は見ないでください」と目で訴えかけてきたのだ。


 いくら、赤田くんと教室でも話したいなと考える私でも赤田くん本人から拒否られてしまえば、それ以上踏み込むことは出来ずその場は本当にしぶしぶではあったが引き下がったのだ。

 しかし、問題はその後だ。まさかのアイリさんが転校生としてクラスにやってきたのだ。

 これには私は言葉が何も出なくなるほど驚いた。

 そして、そんな状態の私を横目にアイリさんは堂々と赤田くんに話しかけにいったのだ。

 いや、考えてみれば当然である。アイリさんにとっては私と赤田くん以外知り合いのいない転校先。

 それに私はアイリさんと知り合いとはいえ、赤田くんほど私はアイリさんと接していない。

 なにもかも不安なはずの転校先で自分を助けてくれた知り合いがいたら、それは真っ先に話しかけに行くだろう。というか、私もその立場になったら同じ行動をとると思う。

 それにアイリさんは赤田くんの事情は知らないだろうから私みたいに躊躇する理由もない。


 つまり、アイリさんが転校生として来た時点でこうなることは必然であったのだ。

 そして、その後1人の男子生徒が赤田くんに噛み付いた。この時、私は怒りで我を忘れて席から立ち上がって一言言ってやりたくなったが、最近仲良くなった唯一私と赤田くんの関係を知る横の席の神崎さんに止められてしまっていた。


 そして、アイリさんはといえばそれに対し見た目からは想像も出来ないほど、恐ろしい声で男子生徒に対し反論を繰り出すと赤田くんの手をひいて教室から抜け出して行ってしまったのだ。


 その時の私の胸には確かにズキリと鈍い痛みが走った...。そして、始業式も帰りのSTも終わり今に至るというわけである。


「花凛〜、どうしたの?」

「...なんでもない」


 そしてそんな私の気持ちなど知る由もない柚木は、私を心配してかそんなことを声かけてくる。当然、本当のことを言えば赤田くんに迷惑がかかるので言うわけにはいかない私は嘘をついた。


「絶対、嘘」

「嘘じゃないって」


 しかし、柚木さんは何故かジト目でそう断定してくる。柚木...妙に鋭い時あるから怖いんだよね。まぁ、流石にバレようにないから大丈夫だろうけど。


「...はぁ、分からないからまぁいいや」


 結局、嘘とはなんらか感じ取ったもののなにかは分からなかったようで、柚木はお手上げと言わんばかりにバンザイするとそれ以上は追求してくることはなかった。


 私はホッと安心しつつも、自分が抱える感情について整理していた。

 そもそも、私は前述したように赤田くんと仲良くなれていっているという自負があった。だからこそ、油断していたんだ。


 私以上に赤田くんと関わりのある人はいない。そんな風にさえ思っていた。いや、妹の奈々とか梅さんは私より関わり深いかもしれないけど。

 少なくとも赤田くんと歳が近い人達の中では私以上に仲の良い人はいないだろうとは考えていた。

 だが、そこに今日アイリさんが現れた。恐らく、私は恐れているのだ。...アイリさんが私以上に赤田くんと仲良くなることを。

 実際、今日赤田くんはアイリさんと話している時心底楽しそうに笑みを浮かべていた。

 その時、私は心の底から焦りを感じた。このまま赤田くんとアイリさんは私が割り込む余裕もないほど仲良くなってしまうのではないか、と。

 そして今もその不安はなくなっていない。

 勿論、私だって周囲なんて気にせず赤田くんに話しかけに行きたい気持ちは山々だ。というか、

 今までだってそれが出来ればどれだけいいか、楽しそうか考えていた。


 でも、私はそれで赤田くんに迷惑がかかるのが嫌だった。私が私の望むままにそう行動すれば恐らく柚木は赤田くんに噛みつくだろう。それは今までの柚木の態度からも分かっていた。だから、赤田くんに止められばそれ以上は踏み込む気はなかった。迷惑をかけるのは目に見えていたから。

 でも、今の私には赤田くんにどうしてでも話しかけたいという気持ちが渦巻いていた。というより、アイリさんにとられてしまいそうで怖かった。


 そんなわけで私の中には今、「迷惑をかけたくない」という思いと「なんとしでも話しかけたい」という矛盾めいた二つの感情があり、私自身どうすればいいのか分からなくなっていた。


 とりあえずは明日のバイトで赤田くんから話を聞くしかないだろう。...その前に私が予想している以上に赤田くんとアイリさんが仲良くなっていたらと思うと不安ではあるが。




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 次回「波乱だらけのアイリさんとの登校」


 明日から自分が修学旅行に二泊三日で行ってくるのでコメントは返信出来ないかも..。帰ってきたら絶対に返信します。

 後、投稿に関しては予約しておくので多分大丈夫です。...もし、ミスあって投稿出来てなかったらすいません。


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