第57話 視線が痛いです...色々と


「趣味とかってあるンですか?」

「チェスとかテレビゲームくらいですかね」

「ナルホド、ナルホド。好きな食べ物トカは?」

「うーん、納豆ですかね」

「ええっ!? アレ、って食べると口を溶かしてきマセン?」

「なんで、急に納豆に溶解作用が追加されてるんですか。匂いとかはアレですけど美味しいですからっ。...というか、距離近過ぎじゃありません?」


 話を終え、教室へと戻ってきた俺とアイリさんだったがアイリさんは俺の席の前で矢継ぎ早に質問を飛ばしてきていた。というか、さっきの件とアイリさんとの距離感が異様に近いせいもあってか視線がっ!

 これまで、感じたことのないほど猛烈な視線がっ!

 しかも、なんか気のせいか特に花凛さんがいる辺りから凄い圧を感じるんだけど。...気のせいだよね? いや、花凛さんの友達の柚木さんは俺に大分当たりキツイし、柚木さんの視線だろう。...多分。いや、きっと。


「でも、私...赤田くんと関わったコトで他に友人デキソうにありませんカラ。その責任はとって貰わないト」

「急に当たりキツっ!!」


 確かにそうだけどもっ! それを言われたらぐうの音もでないけど。...でも、一応俺忠告したしその上で関わってきてるんだから責任はアイリさんにもあると思うのは俺だけか?


「ふふ、冗談ですヨ。ただ、赤田くんと話すのは楽しいノデ」

「そ、そうですか」


 俺が色々と考え込んでいるとアイリさんはそれが面白かったのか、笑い声を漏らすとそんなことを言う。俺はやや照れながらもそう返した。...こういうこと、あっさり言われるとなにも言えなくなってしまう。


「はい、オモチャで無邪気に遊んでいた幼稚園時代を思い出すよウデ...」

「それ、俺オモチャ認定してますよねぇ!?」

「あぁ、懐かしいデス...」

「噛み締めないでくれます!?」


 とても愉悦感に浸った顔でそんなことを言うアイリさんに俺はツッコミを飛ばす。...さっきの考え撤回かもしれない。この人、案外悪魔かも。


「むぅぅぅ」


 と、俺とアイリさんがそんなやり取りを交わしていると花凛さんの席の方から少し唸るような声が聞こえてきた...気がした。うん、多分気のせい。


 結局、その後すぐに再び濱口はまぐち先生が現れアイリさんは自分の席に戻り、STが始まるのだった。



 *



「一緒に帰りマセン?」

「...それは構いませんけど、家の方角はどっちなんですか?」


 始業式を終え帰りのSTも終わって新学期1日目を無事(?)終えた、俺の元にアイリさんがそんなことを駆けてくる。...男子の嫉妬を集めながら。

 そして最早、今日1日でアイリさんが俺に近寄ってくるのを止めるのを諦めた俺は少しため息をつきながら、そう返した。


「うーんと、アッチ」

「おぉ...見事に同じ方角。...じゃあ、帰りますか?」

「はい! というか、なんで若干嫌そうナンデス?」

「いや、なんでと言われましても...」


 別にアイリさんと帰ることにはなんの不満もないよ? むしろ、こうして友達と帰ることなんてなかったから嬉しいんだけどさ、そういう問題じゃない! もう、さっきから視線だけで殺されそうなレベルの圧を(主に男子から)受けてるから。

 そりゃそうだ。転校してきた美少女が俺みたいなボッチにずっと構ってるんだからな。面白くない奴も多いだろう。アイリさんには少しどれだけ自分が目立つ存在か自覚して欲しいものだ。

 いや、最初から自覚していての行動なのかもしれないけど。


「まぁ、いいでス。帰りましょウカ。あっ、なんなラ町田さんも一緒ニ——」

「さっ、早く帰りましょうか。時間は有限です」

「モゴッーーーー!!!」


 突然、とんでもないことを言い始めたアイリさんの口を咄嗟に塞ぐと、俺はアイリを引きずるように教室から出るのだった。...あ、危ねぇ。



 *



「というか、なんでここまでして俺と関わろうとしてくるんですか?」


 俺はアイリさんとの帰宅中、少し気になっていたことを尋ねてみる。


「...赤田くんは私に希望をくれたンです」

「希望?」

「ハイ」


 すると全く心当たりのない言葉が飛び出してきたので、俺は思わず聞き返す。


「私は前の学校ガ本当に好きだッタんです。だから、正直親から転校の話を聞いた時絶望しまシタ。仲良い友達ト離れるのは当然嫌デスし、それに何より今まで通っタことのない共学の学校ニ行くことが怖かったンデす」

「...なるほど」


 アイリさんはその時のことを振り返るかのように寂しげな表情でそんなことを淡々と話す。


「でも、そんな時私は偶然にも私が通う予定の学校の生徒の赤田くんト出会いましタ。そして、そこで赤田くんは何の見返りも求めズ私を助けてクレタました。その時、私は赤田くんのような人ガいる学校ならやっていけるカモ。そう、思えたンデす。赤田くんは知らなカッたかもしれませんがあの日、私は勇気と希望を貰ったンデス。だから、私は赤田くんが1人でいるのを放っておけまセン。嫌なんでス。そんなノ!」

「アイリさん...」


 思った以上に真面目な理由に逆に俺は何も言えなくなってしまう。


「それでも、私が赤田くんと関わルことで友人が出来なくなるコトを気にすルんでしたら一つ、私に協力してくれマセンか?」

「協力?」


 アイリさんから漏れた言葉に俺は思わず首を傾げる。


「はイ、実は私...」


 アイリさんは頷くと俺が予想だにしていなかった秘密を打ち明けるのだった。




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 次回「複雑な思い(町田 花凛視点)」


 頂いた町田 花凛さんのファンアート! (自転車)

 https://kakuyomu.jp/users/KATAIESUOKUOK/news/16817330664283918675



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