第56話 話は分かりましタ

「さてと...赤田くン。ようやく、これでゆっくりと話せマスね?」

「そ、そうですね」


 一見すると笑顔で優しい声色のアイリさんだが俺を見るその目は一つも笑っておらず、俺は少し身震いしながらそう頷いた、...ヤバイな、これさっき俺が知らないフリしたので相当怒ってるっぽいぞ。


「まずは一つ聞きたいことガ」

「...なんでしょうか?」


 俺が額に汗をダラダラを掻きながらそんなことを考えていると、あいも変わらず貼りつけたような笑顔のままのアイリさんが口を開いた。


「私のこと無視しましたよネ?」

「..はい、ごめんなさい」


 デスヨネー。その件ですよね。


「いえ、謝らなくテも大丈夫デス。怒ってイル訳ではありませんカラ。ちょっと、堪忍袋の緒が切れただけでスカラ」


 怒ってるんじゃんっ。むしろブチギレしてるじゃんっ。

 しかし、心の中でそんなことを思っても、この空気の中そんかことを言う勇気のない俺は黙り込む。


「ただ、ちゃんと理由を説明して欲しいのデス。何かしらの事情があったのはさっきの男子生徒の様子から分かってますカラ」

「...分かりました」


 俺はアイリさんの言葉に頷くと素直に理由を説明した。



 *



「なるほド...。簡単にまとめるト赤田くんが過去にやらかしをしテ、それでその噂がクラス中に広まっていて嫌われてイルから私を関わらせたくナカった、ということですか?」

「...はい」


 説明を終えるとアイリさんはどこか納得したような表情で頷いていた。どうやら、無事に分かって貰えたらしい。


「と、いうことなので今からでも遅くないので俺とは極力関わらない方が——」

「アッ、その部分に関しては納得してナイので」

「えっ...」


 俺が少し安心して一呼吸ついて、そう切り出すとアイリさんは即座に首を横に振った。


「い、いや、でも俺なんかと一緒にいたら下手したらアイリさんも巻き添えで避けられて、友人が出来ないなんて可能性も—」

「大丈夫デス。そうなった場合でも、赤田くんといウ友人はいますカラ」

「アイリさん...」


 アイリさんがあまりに清々しい笑顔でそんなことを言うので、俺は嬉しさと苦しさで胸がいっぱいになる。

 これは花凛さんにも言えることだが、そんな風に思って貰えるのは単純に嬉しい。普通に考えて嬉しくない人間はそういない。

 ...だからこそ、俺に関わったことで迷惑がかかってしまうかもしれないことが酷く恐ろしい。


「それに人を噂でしか判断出来ない人を私は友人にしたくナイです」


 しかし、アイリさんにはそんな風に言い切られてしまう。


「だったら、花凛——町田さんに話しかければいいと思います。本当に学校で俺と関わるのは足枷にしか...」

「先程の男子生徒にモ言いましたが、私が関わる人は私が選びマス。それは、相手が赤田くんであっても同じコト。赤田くんに私が関わる人ヲ決める権利はありまセン。私は私の意思で赤田くんと関わりマス!!!」


 そんな中でも俺もなんとか言葉をひねり出すが、今度はそんな風に返されてしまい俺はついに何も言えなくなってしまう。


「さてと、まだなにか隠してイルことは色々ありそうなのデ、尋問したい——聞き出したい所ではありマスが、今日はやめておくとしましょうカ」


 なんか、今一瞬アイリさんからとんでもないことが聞こえた気がしたけど気のせいだろう。うん。


「じゃあ、これからの学校生活...よろしくお願い致しマスね?」

「...はい」


 そして完全に戦意を喪失した俺にアイリさんはそんなことを言い、手を差し出してくる。本来ならば絶対になんとしでも拒否をしなけらばならない所だが、アイリさんの目を見てそれを諦めた俺はゆっくりと手を握り返すのだった。...新学期早々ボッチかよ、って憂鬱こそ吹き飛んだものの、これはこれでsan値がごりごり削られそうだ。


 だが、ここまでアイリさんの話を聞いて俺はとある疑問を抱いていた。何故なにゆえに、アイリさんはここまで俺と関わろうとしてくるのだろうか? いずれ、どこかのタイミングで聞いておきたいところだ。





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 次回「視線が痛いです...色々と」


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