第55話 てんやわんや
「? どうしたノ?」
俺がどうリアクションすればいいのか分からず固まっていると、アイリさんはそんな俺を見て小首を傾げる。いや、本当にこれどうすんだ!?
ここから、特に関わりないですよ——は、流石に無理あるし。かといって素直に認めたら俺が色々言われるのはいいとして、アイリさんにまでそれが降りかかる可能性だってあり得なくはない。
だが、よくよく考えても見れば俺とアイリさんはそんなに深い関係ではない。ただ、偶然2回ほど旅行先で遭遇しただけの関係。だから友達と呼べるほどの関係でもない。
ここは変に隠す方がややこしくなるかもしれない、そんなことを俺が思案しているとポカーンと固まっていたクラスメイト達が一斉に声をあげた。
「「「えええぇぇぇ!??」」」
「? 皆さんもどうしタんですか?」
しかし、アイリさんは何に驚いているのか分からないようで首を傾げたままの状態で固まっていた。
「ほ、本当にそいつと知り合いなのか?」
「そいつ、という言い方とリアクションは気になりまスが一応はそうですネ。まぁ...友人という方が正しい気もしますガ。そうですヨネ? 赤田くん?」
「ゆ、友人!? こんな奴と?」
アイリさんに声をかけた男子生徒が信じられないといった表情のまま俺の方を二度見してくる。そしてそこには確かに死念もこもっているように感じられた。
いや、違うから! そこまでの関係じゃないから。本当に知り合い程度だから!
「な、なんで頷いてくれないんですカ!? も、もしかして、友人と思ってイタのは私ダケだったということですか?」
しかし、アイリさんが声を震わせ若干涙目でそんなことを言いはじめるので、さぁ大変。
その瞬間に恐ろしいほどの殺気と憎悪の視線が赤田を襲ったのです。そして赤田はもうお手上げ、と呟くとその場にへたり込んでしまうのでした。
〜日本赤田話 どうあがいても絶望〜
終。
いや、「終」じゃなくて本当にどうすんの、これ!? 頷いても頷かなくても詰んでるんですが?
「もう、これは町田さんにも聞いて確かめるシカ——モゴッ」
俺が脳内で格闘をしているとアイリさんがそんなことを言い始めたので、慌てて口を塞ぐ。あ、危ない。花凛さんまで巻き込まれたらいよいよ終わるところだった。ギリ耐え。いや、本人に悪気はないし事情も知らないから仕方ないことなんだけどね!?
...まぁ、とはいえそのせいでさっきより殺気が高まったような気がしなくもないけど、気のせいであることを祈ろう。
助けて! 神様、仏様、キリスト様! いや、俺仏教だけど。
「おい、転校生さん。あんまりソイツのこと知らないようだから言っておくがあんまり関わらない方がいいぞ。いつか裏切られる」
俺が必死にそんなことを祈っているとクラスメイトである
お願いだ、気づいてくれアイリさん。俺めっちゃ嫌われてるんだ。あんまり関わらない方が得策って奴だ。気持ちはすっごく嬉しいけれど、でもダメなんだよ。こんな俺を友人と呼んだら。
とは言え、これを口に出すわけにもいかないので伝わるように結局祈ることしかできない。
すると俺の必死の目線に気がついたのかアイリさん動きがピタリと止まった。も、もしかして、分かって貰えたんじゃないか!? そんなことを思った次の瞬間、アイリさんは普段の透き通るような綺麗な声からは想像出来ない少しドスの効いた声で海原へと迫っていた。
「さっきから聞いてれば「こんな奴」だったり「関わらない方がいい」だとか一体なんなんですか? あなた達は赤田くんのなにが分かっていると言うんですか?少なくとも私が見てきた赤田くんは、旅行先でなんのメリットもないのに困っている他人を助けちゃうただのお人好しです」
そしてアイリさんクラス中に響き渡る大きな声でそんなことを言う。一方、俺は嬉しさと困惑と動揺でぐちゃぐちゃになってしまい何も言えなくなってしまう。
「だからそれがまやかしなんだって。本当に碌なことにならないからやめとけって」
しかし、いつもなら「そーかよ」で済ます海原も引くに引けない状態に陥ってしまったのか、アイリさんに向けそう言い返した。
「私はッッ....私は、自分で見てその人を評価します。そこに他人からの評価は関係ありません。私は本当に私が関わりたい人と関わります。ので、あなたがどれだけ言おうと変わることはありません。赤田くんは私にとって...友人です」
しかし、アイリさんはそう言いきると俺の方へと向かって再度手を差し出してきた。
「行きましょう、赤田くん。こんな人のいる場所ではゆっくり話も出来ません」
そして俺もここまでしてもらっておいて、その手を取らないわけにはいかず結局そのまま俺とアイリさんは教室から抜け出すことになるのだった。
一体、どうしてこんなことに...。
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次回「話は分かりましタ」
...ちょっと、アイリさんパワフルすぎるかもしれない。
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