波乱の新学期編

第54話 夏休みも終わりかぁ——って、転校生!?


 去年とは違い、花凛さんと仲良くなったことで色々な思い出が生まれた今年の夏休み。

 去年なら家とバイトの往復で気がつけばいつのまにか終わっていたのだが、今年は名古屋の新店舗に駆り出されたり、海水浴に行ったり、時々花凛さんの家に行ったり。

 とまぁ、そんな怒涛の夏休みも終わりを告げ新学期を迎えた俺はと言えば...。


「(今日から新学期なのかぁ)」


 夏休みが終わったという実感が湧かず、やや気の抜けた状態で新学期の学校へと向かっていた。いや、このままじゃまずいのは分かってる。何事も切り替えが大事だ。特に受験期も近づいてくるこのタイミングでは。

 でも...。


「(楽しかった..よなぁ)」


 あまりに今年の夏は楽しすぎた。まぁ、その分これから再び始まるぼっちな学校生活が余計に辛く憂鬱なものに思えてしまうのだが。



 *



 とまぁ、そんなネガティブ全開なまま学校へと到着した俺であったが...特に話す相手もいないので結局、机に寝たフリをするくらいしかやることがなかった。

 どうせ、こうなることは分かってたんだから、もう少し来る時間を遅らせるべきだったのかもしれない。

 俺は俺自身の判断ミスを呪いながらも、机から体を起こすとなんとなしに周りを見渡してみる。

 そして、花凛さんがジッーと俺の方を見ていることに気がついた。すると花凛さんも俺が花凛さんの視線に気づいたことが分かったのか、少し嬉しそうに笑顔をこちらへと向けてくる。...可愛い。

 じゃなくって! 落ち着いて、冷静に考えろ俺。忘れたのか! ここは教室だ。もし、クラスメイトにバレたらかなり面倒くさいことになる。

 ただ純粋に俺に笑顔を向けてくれている花凛さんには悪いが、なんとか止めて貰わねばいけない。


「(お願いです。俺の方はなるべく見ないでください!!)」


 そこで俺はなんとか必死に花凛さんに目で訴えかける。すると花凛さんは予想通りやや不満げな顔をしながらも、俺の方から目を離してくれた。...なぜだろう、絶対に正しい行動をとったはずなのにこんなにも胸が痛むのは。

 でも、正直花凛さんに迷惑をかけない為にはこうしてもらうしかないからな。なにせ、最近は花凛さんと仲良くなって生活も充実して忘れがちだか、俺は嫌われ者なのだから。


「おーい、久しぶりだなぁ。お前ら。元気にしてたか〜?」


 俺がそんなことを考え少しネガティブな気分に浸っていると、我らが担任である濱田はまだ先生が教室内へと入って来ると教室の扉を閉めた。

 はて、確かに新学期の初日ということもあってかクラスの大半の席は埋まっているが、まだSTには早すぎる。...どうしたのだろうか?


「先生ー、何の用ですか?」


 俺を含めたクラスメイトもハテナマークを浮かべていると、1人の男子生徒がみんなの心の声を代弁してかそんな声をあげる。


「何の用って酷いだろ!? 先生が新学期にただ生徒の顔を早く見にきちゃ悪いのか?」

「いや、悪いってことはないんですが...」


 しかし、濱田はまだ先生の思わぬ返しに男子生徒もやや困惑したような表情を見せなる。当然、他のクラスメイトもポカーンとしていたが徐々に呑み込み始めたようだ。

 まぁ、濱田はまだ先生の行動理由に説明を求めすぎないほうがいいのかもな。


「さてと....ここで君らに大事な大事なお知らせがあります、と」

「「「結局、用事なんじゃないか(ですか)!!!」」」


 俺もそんなことを考え始めていた中、濱田はまだがそんなことを言うのでクラス中から一斉にそんなツッコミが飛び交った。


「まぁ、新学期初日ということで憂鬱な気分なものも多いと思う。だが、これからの話はそんなもの吹き飛ばしてしまうようなものだと先生は思う。というか、先生が君らなら大興奮間違いなしのものだ」


 しかし、濱田はまだ先生は自分から振らせておいたツッコミに全くリアクションをせず、淡々と言葉を続ける。


「えー、というわけで我がクラスに転校生が来まーす」

「「「!!!!!!?」」」


 そして次の瞬間、濱田先生が放った言葉にクラス中に激震が走った。...そういや、そんな噂があるって花凛さんが言ってたけど、どうせデマか他クラスだろうと考えていたのでこれは予想外すぎるな。


「おいおい、どうした? そこは誰か1人が「先生〜、女子ですか? 男子ですか?」とか聞いてワッと盛り上がるところだろ?」

「いや、正直驚きが大きいと言うか...高校で転校生ってなかなか聞かないスから」


 すると、先程の男子生徒はまた違う男子生徒がそんな声をあげる。


「ふぅーん、まぁ分からなくはないが...。はっ!? しまったこんな生徒の無駄話に付き合ってる時間はないんだった。おーい、入って来てくれ〜」


 クラス中の誰もが「いや、その無駄話投げ込んできたの濱田先生じゃん」という思いを抱きながらも、教室の扉の方へと視線を向けてゴクリと唾を飲んだ。こういうのって案外転校生を出迎える側も緊張するんだよなぁ。


「あっ、えっト、こんにちわ」


 するとどこかで聞いたような声が聞こえた後、教室の扉を開けて1人の女子生徒が入って来た。

「えっ!?」「おい」「これって」しかし、教室からは少し驚きの声があがっていた。まぁ、それも無理はないだろう。なにせ、転校生の髪がそれはそれは美しい銀髪なのだから。

 そして、それは俺も例外ではなく驚いていた。いや、最早そんな言葉では生温い。震えてすらいた。なにせ...この間海で再会を果たしたアイリさんその人なのだから。

 すると、転校生アイリさんは俺の方へとチラリと一瞬視線を寄越しつつも、壇上へと上がった。


「よし、じゃあ自己紹介を頼む」


 濱田先生のそんな声によって転校生アイリさんによる自己紹介が始まった。


「はい、えっト家の諸々でこちらに転校することになった桜野 アイリと言いまス。趣味は外で体を動かすコト。好きな食べ物はモンブラン。あ、あト母が日本人で父がロシア人のハーフでス。約7ヶ月ほどでスがよろしくお願いします」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 そしてアイリさんの自己紹介が終わった次の瞬間、クラス中から歓声が沸き起こっていた。いや、分かるよ。とんでもなく綺麗な声してるもんなアイリさん。それにあのスタイルに顔だ。

 特に一部の男子生徒達の喜びが天元突破しているのも納得できる容姿だ。


「あっ! あと、一応注意して欲しいことがあるんだった。アイリさん女学校から来たから男子にはあまり慣れてないみたいだからアイリさんがいくら可愛いからとはいえ、そんなガツガツ行くなよ、男子」

「「「なっ!?」」」


 しかし、次の瞬間に濱田先生から出た言葉に一部の男子達は分かりやすくテンションを下げていた。


「いやー、男子に慣れてないということはここは私らが話しかけてあげないとね〜」「嬉しそうな顔しながら言うな! 俺だって、俺だって話しかけたいのに」


 そして教室中で色んな声が飛び交う中。


「まっ、そう言うことで色々と頼んだぞお前ら。先生はまたこれからすぐに職員室に戻らねばならないからな。じゃっ」


 濱田先生はそんな言葉を言うと、次の瞬間には全力で職員室へと駆けていってしまった。


「えっ、これからどうすればいいの?」とクラスメイトが誰もが思う中、壇上にいるアイリさんがゆっくりと歩き始めた——何故か、俺のいる席に向かって。

 そして当然、クラス中の視線がアイリさんを追いかけ始める。

 焦ったのは勿論俺の方だ。俺も俺でなんとか目で合図を伝えようとする。しかし、俺の必死の抵抗も虚しく。


「いやぁ、まさか赤田くんとクラスが同じトは。本当にラッキーでしタ。改めてよろしくデス」


 アイリさんは俺の席の前でピタリと止まるとそんな声をかけ、俺のもとへと手を差し出してくるのだった。




 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「てんやわんや」


 良ければ星や応援お願いします。追伸 夜中書こうと思ってら寝落ちしたのでちょっと投稿遅れました。すいません。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る