第53話 もう、夏も終わりかぁ


「赤田くん、今日私たちって一応に来たはずだよね?」

「花凛さん...その話はもうやめませんか? 辛くなるだけですし」


 ついさっき海水浴に来たはずの俺たちなのだが、時間は気がつけば15時。そろそろ着替えて帰る準備を始めなければいけない時間なのだが、俺と花凛さんはといえば砂場にて揃って海に哀愁を漂わせながら座っていた。

 いや、海水浴に来ておいてなにしてるんだ? と言いたいそこのキミ!(どこのキミ?)

 そりゃ俺と花凛さんだってその気満々で来てたさ、でもさ、そういう問題じゃないんだ。単純に..。


「人が多すぎるよねぇ!?」

「...いやー、昼くらいになったら人が更に増えるのは分かってましたけど...正直ここまでとは」


 そう、花凛さんが言うように海は今人混みにつぐ人混みで、最早泳ぐ場所などありはしないのだ。その上、花凛さんが目立ちすぎるもんだからナンパが多発し、こうして砂場の目立たない場所へと逃げる羽目になったのである。


「むぅ、赤田くんは悔しくないの?」


 俺がそんなことを考えていると、隣の花凛さんが少し不満そうな様子で俺の方を覗き込みながら、そんなことを俺に問いかけてくる。


「そりゃあ、勿論自分も海水浴に来たんですからいっぱい泳ぎたかったですけど..こればっかりは正直どうしようもないというか」


 俺は内心少し動揺しつつも、なんとか冷静を装って素直に心情を吐露する。...ただでさえ花凛さんの格好いつもより刺激的なのに、こんな風に近づかれるとどうすればいいのか分からなくなるな。


「そっか。じゃあ、リベンジしようよ」

「リベンジ、ですか?」


 俺の答えを聞いた花凛さんはパッと顔を明るくすると、笑顔でそう続けた。しかし、俺はイマイチ意味を理解出来ず聞き返す。


「そっ、リベンジ。来年もさ、こうやって2人で海水浴に来て次はちゃんと泳ごう」

「ら、来年もですか?」


 すると花凛さんは当たり前のようにそんなことを口にした。そして俺はといえば思わぬ提案に少し固まっていた。


「どうしたの、赤田くん? も、もしかして嫌..だった?」


 そうしてしばらく何も言えず固まっていると、花凛さんが少し不安げな顔でそんなことを言い始めた。


「ち、違います。花凛さんが来年も、なんて当たり前に誘ってくれるのでそれが嬉しかったと言いますか」

「そっか.....そっかぁ。そう言ってくれると私も嬉しい...かも」


 俺が慌てて理由を説明すると花凛さんは心底嬉しそうにとろけてしまいそうな笑顔を俺へと向けてくる。...危ねぇ、意識トリップしかけたぞ今っ。


「じゃあ、絶対来年も行こうね!」

「...まぁ、来年は受験なので絶対とは言いきれませんけど」

「なんで急にそんなことを!?」


 一切の邪気のない純真無垢な笑顔を見せる花凛さんに対し、俺はなんとか冷静を保つ為目を合わせずそう口にすると花凛さんから驚きの声があがる。...だから、危ないんだって!

 こんなことされると恋愛耐性のない俺は色々と勘違いしそうになる。それだけは避けなければ。


「で、でも、その場合でも再来年も行くから問題ナッシング!」


 が、しかしそんな自分を冷静にする為に放った言葉によって再来年の夏の予定までもが決まっていた。いや、まぁ花凛さんが本当にそれでいいなら全然俺は構わないんだけどね?


「と、というか、もう帰る時間だね。どうせ泳げそうにないし、お互い着替えてこよっか」

「そうですね」


 そしてしばしの沈黙の後、花凛さんが設置された時計台を見ながらそんなことを口にしたので、俺もそれに頷き俺たちは更衣室へと向かうのだった。



 *



「ごめん。待たせちゃった?」

「いや、全然ですよ」


 更衣室の近くの海の家の前で花凛さんを待っていると、走って来たらしい花凛さんが俺の前で止まって少し申し訳なさそうな顔でそんなことを言う。

 さっきまで水着やべぇとばかり思ってたが私服姿を見ると、これはこれで可愛すぎるなと改めて思わされる。


「はー、これで後は帰るだけかぁ。別に海で泳いだわけでもないのにあっという間だったなぁ」


 しみじみといった様子でそんなことを口にする花凛さん。


「まぁ、色々となんというか...濃かったですからね。衝撃的な再会もありましたし」

「...そうだったね、流石にあれは驚いたよ。あっ、衝撃的と言えばね、なんか新学期転校生が来るって噂があるんだよね」

「えっ、それは本当ですか!?」


 結局、着替えた後も俺たちは話が止まることはなく危うく一本電車を逃しかけてしまうのだった。

 まぁ、色々とあったというかありすぎて当初の予定通りとは全く行かなかった1日だったが、それも含めて楽しい1日だったと思う。


 なにより花凛さんの嬉しそうな顔が沢山見れたからな。それだけで今日は行った価値があるというものだ。




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 次回「夏休みも終わって新学期かぁ——って転校生!?」


 これでこの章も終わりです。次回から「波乱の新学期編」が開幕です。これからもよろしくお願いします。あと、良ければ星や応援も。


 では!















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