第52話 彼氏ですぅ!?


「あっ、花凛さん。かき氷なんてどうです?」

「はい! あっ、いえ食べたい..かもです」

「分かりました。じゃあ、ちょっと自分買って来ますね。味はなにがいいですか?」

「い、イチゴ」

「了解です!」


 あれから10数分が経ち、ようやく俺の方へと顔を向けてくれた花凛さんと俺は海の家にてひと休憩をしていた。...本当は最初は2人とも着替えたらすぐに泳ぐ気満々だったんだけど、思わぬ出来事に精神的に疲れてしまったからな。

 そして俺が休憩しているとたまたま花凛さんがかき氷へと視線を向けているのに気がついたので、こうして口にしてみると花凛さんは顔をパァと明るくする。

 本人は気づいてないのだろうか分かりやすい人だ。まぁ、それが可愛いんだけど。そんなことを考えながら俺は売店にてかき氷を2つ注文すると、支払いを終え花凛さんが待つテーブルへと戻る。


「なぁ、ちょっとぐらいいいじゃん」

「嫌です」


 すると花凛さんの前にはサングラスをかけた金髪のにいちゃんが立っていた。...これは俗に言うナンパという奴なのだろうか。しかし、花凛さんは心底不快そうな顔をしており男に取り合うつもりはないらしい。


「あ、あのー、花凛さん。かき氷買えましたよ」

「あ、赤田くん」

「っち、誰だよ、お前」


 しかし、こうした時にどうすればいいのかを知らない俺はとりあえず気にすることなく花凛さんの元へとそのまま駆け寄るとテーブルの上にかき氷を置く。

 なんか、男の方から舌打ちされたような気もするが気のせいだろう、うん。


「ほら、私は彼と今日ここに来てるので。邪魔しないで貰えますか?」

「はぁ!? 別にこいつ君の彼氏ってわけじゃないだろ? どう見ても君とじゃ釣り合ってないし。だったらさ、俺とどう? 自分で言うのもなんだけどさ俺なら君とタメはれると思うんだけど」


 花凛さんがそう言うが男はよほど花凛さんのことを誘いたいのか、しつこく食い下がってくる。

 俺が口出しするのは余計にややこしくなると思って黙っていたが、大分ギャラリーも集まってきてしまい花凛さんがやり辛そうにしているのを見て、俺は割って入ることを決心した。


「彼女の言う通り、今日は俺と彼女で来たんでやめてもらえますか?」

「あっ!? てめぇとは話してねぇよ。彼氏でもないくせに口出してくんな」


 しかし、男の方は更にイラついたようで俺の方へと向き直るとが語気を強めにそんなことを言ってくる。


「いや、確かに彼氏ではないですけど彼女は俺の大事な友人で彼女も嫌がってますから——」

「こ、この人は私の彼氏です」


 俺がそこまで言いかけた所で突如として花凛さんが立ち上がると俺を指差し周囲一帯に響き渡るような声で、そんなことを宣言した。


「そ、そうなのか!?」

「えっ——モゴッ」


 すると金髪のにいちゃんは酷い衝撃を受けた様子で俺の方へと詰め寄ってくる。が、それに対し俺が口を開こうとした瞬間、花凛さんの手によって俺の口が塞がれてしまいなにも言えなくなってしまう。い、一体花凛さんはなにを?


「そ、そうです。私と彼はこーんなにもら、ラブラブなんです。邪魔したら許しませんよ?」

「モゴッ、モゴーー!?」

「チッ、分かったよ。彼氏持ちには興味ねぇからな」

「はい。それは良かったです」


 花凛さんは手で俺の口を塞いだまま俺の方へと顔を寄せると、そのまま塞いでいた手で俺のほっぺをグニグニと弄り始めた。

 ほっぺが...ほっぺが伸びてしまう。

 しかし、金髪のにいちゃんはどこか諦めたような顔を見せるとどこかへと去って行ってしまった。た、助かったのか?


「プハッっと、それよりも花凛さん彼氏って...」

「あっ、まだかき氷代払ってなかったね! はいこれ」


 俺がようやく口を解放されまずは驚きの声をあげるが、続きを言う間もないほどの速さで花凛さんは早口で割り込んでくると俺の方へと紙を手渡した。


「...花凛さん」

「な、なにかな?」

「...黙らせるにしてもこういうのは違うと思います」

「...はい」


 だが、俺は花凛さんの元へとその紙を突き返した。というのも、俺が手渡されたものは5000円札だったのだ。

 いや、あくまでしつこいあの男の誘いを断る為に俺を彼氏と言ったのは分かっているので、花凛さんもこんなことしなくても普通にそう言えばいいはずなのだが...。


「というか、お代はいいですよ。これは俺がかき氷を食べてる花凛さんが見たくて買っただけなので」


 まぁだからと言って、そこまで深く考えることでもないなと思った俺は花凛さんにそう告げる。


「あ、あのー、さっきのはあくまで誘いを断る為の方便というかなんというか、という感じのアレで——」

「あぁっ、かき氷が溢れちゃいますから。ちゃんと集中して食べてください」


 が、花凛さんは俺はもうなにも言っていないというのに何故か口いっぱいにイチゴ味のかき氷を頬張りながら、そんな説明を始めるのだった。



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 次回「もう、夏も終わりかぁ」


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