第50話 夏と海と、水着と再会


 名古屋駅から移動すること約2時間。ようやく目的地である海へと到着した俺と花凛さん互いに汗を拭いながら顔を見合わせていた。


「なかなか、疲れましたね」

「やっぱり、最近の夏は暑すぎるよね。というか、割と人がいっぱいる」

「ですね」


 少しげんなりとした様子の花凛さんがそんなことを口にするがまさしくその通りで、夏休みとはいえ平日だと言うのに海は人で溢れていた。...もう少し少ないものだと思っていたのだが。

 やはり海水浴は人気なのだと改めて思い知らされる。


「にしてもさ、なんか今回さ赤田くんと初めて旅行した東京の時に色々似てるよね! 赤田くんが私が声かけても全然気づいてなかった所も含めて」

「...本当にお願いですから忘れてくれません?」


 思い出すだけで身が悶えるほどの恥ずかしさを覚えた俺は必死に花凛さん懇願する。

 とはいえ、確かに花凛さんの言う通り駅に集まっての移動だったり、目的地が人混みだったりと共通する部分が多く俺もどこはかとなく懐かしい気分を味わっていたのは事実だ。


 あれも、もう3ヶ月ぐらい前になるのか..時間が経つのは早いものだ。それに加えて花凛さんとここまで仲良くなれるとはな、あの頃は夢にも思っていなかったことだ。人生って言うのは本当に何が起こるか分からないものだな、と改めて実感する。


「まぁ、クラスメイトに遭遇することはなかったけどね」

「それはない方がいいので助かりましたよ」

「...私としてはむしろ遭遇して噂が広まった方が教室でも赤田くんと話せていいんだけどなぁ」

「いやいや、そう思ってくれるのは嬉しいですけど花凛さんにも自分のしわ寄せがいく可能性があるのでダメですよ」


 花凛さんが独り言のように小さく漏らした言葉に俺は慌ててそう言葉を伝える。いや、本当に嬉しいんだけどね? 光栄ではあるんだけど...。


「なんで聞こえてるの!? そういうのは聞こえないのがお約束でしょ?」

「いやいや、いくら小さな声とは言え普通に聞こえますし..」

「いや、そういう問題じゃないんだけどね。というかなんか懐かしい気分。..そう言えば赤田くんってそういうところあったよね」

「どういうところですか!?」


 何故、花凛さんのなかで俺は耳が遠い設定なんだ。特になにかそういう場面が花凛さんとあった気はしないのだが。


「いや、鈍感なのに耳はいいからなんか違和感というかね。うん」

「いや、鈍感でもないですから」

「...あっ、うん」


 花凛さんから聞き捨てならない言葉が聞こえてきたので、すぐに否定すると何故か花凛さんは半ば諦めたような顔で、俺の方を見ると頷いた。


「まっ、いいや。そろそろ私達も着替えて海に入ろうか。このままだと何しに来たのか分からないし」

「ちょっ、なんなんですか、さっきの反応!

 俺は鈍感じゃないですよねぇ!?」

「じゃあ、集合場所はあそこの海の家の前あたりで。ちょっと私は時間かかるかもだけどよろしく」


 しかし、花凛さんは俺の問いかけに対し一切触れることなくそれだけ言うとスタコラサッサと、海から少し離れたところに設置されている女性用の更衣室へと向かっていくのだった。

 そして俺も「早く海に入りたかったに違いない」と結論づけると、男性用の更衣室へと向かうのだった。まぁ、返事をしてくれなかったのは多少気がかりではあるけど大丈夫だろう。



 *


 更衣室でさっさと着替えを済ませた俺は花凛さんに言われた通り海の家の前へと来ていた。


「ふー、というか当たり前だけど俺今から花凛さんの水着姿を見ることになるのか。..普通に緊張するな」


 海水浴に行くとなった時から分かっていたことではあるが、いざ目の前にすると少しパニックに陥ってしまう。いや、勿論一人の男として嬉しいという感情があるのは事実だし楽しみなのも事実。

 が、実際その姿を見てどのようなリアクションをとればいいのか、今まで当然女子と海水浴に行ったことなどない隠なる俺には分からないのだ。

 あと普通に直視できるかも怪しい。

 とはいえ、花凛さんはあくまで俺を友達として今回誘ってくれたはずなのだからそこで平常心を保てなければ失礼にあたるだろう。

 とは言え女子の水着姿を見てなにも言わないのはそれはそれで失礼なような気もする。

 つまるところなにが正解なのかは分からないのだ。

 こういう時は空気を読んで発言するのが1番なのだろうが..ご生憎様、普段学校でコミュニケーションを取らない俺にとってそれは至難の技。


 あまりボッチを舐めるなよ? 陽キャ認定するぞ?


「あ、赤田くん! わ、私も着替え終わったよ」

「ッ!? 花凛さん?」


 俺がそんなことを考えていると後ろからそんな声が聞こえて俺は慌てて振り返る。

 そこには、周囲の視線を死ぬほど集めながらこちらへと歩いてくる花凛さんの姿があった。

 そしてその視線の数々は俺を見るなり「マジか!?」と言わんばかりに目を見開いていた。...流石に失礼すぎないか?


 とは言え彼らの気持ちが分からないわけではなかった。

 花凛さんは白く綺麗な肌を際立たせるような上下共に白のフリルのついた水着を見に纏い、最早神秘的なオーラさえ感じさせる美しい髪を花柄のゴムでポニーテルにまとめ、そして少し恥ずかしそうに水色の薄いタオルを上に羽織っていたのだ。

 学校の制服を着た花凛さんも私服姿の花凛さんもとても可愛いのはよく分かっている。

 分かっているのだが、最早今の花凛さんには比べ物にならないほどの可愛さがあった。


「....可愛すぎる」


 俺がセクハラとはどうとか考える間もなく自然とそんな言葉を漏らしてしまうぐらいには...。


「ひゃっ、そ、そうですか? それはその...はい、嬉しい...です」


 そして花凛さんは俺の言葉に対しやや恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、どうやら本当に嬉しかったようで口元で軽い笑みを浮かべいた。...いや、最早可愛いという言葉すら生温いくらいだけど。


「....可愛い。..可愛いかぁ」

「? どうしました花凛さん?」


 その直後、花凛さんが空を見上げながらそんなことを呟き始めたので、俺は不思議に思って尋ねてみる。


「あっ、いや、あ、赤田くんの方もいいと、思う。に似合ってるよ」


 すると花凛さんはまだほんのり顔を赤く染めたまま、話題を変えるように俺に対してそんなことを言ってくれる。


「いや、自分はそんなには..」


 とはいえ、花凛さんを目の前にして似合っているなどとは口が裂けても言えやしない。


「とっ、というか、赤田くんはラッシュガードを着る派なんだ」

「あっ、はい」


 花凛さんが俺の格好を見ながらそんなことを言ってくるので俺は咄嗟にそんな返事をする。...まぁ、本当は花凛さんが俺の上裸を見て嫌な思いになるかもと思ってつけただけなので一人で行く場合は多分着けないのだが。

 ...まぁ、そもそも一人で海行くことないけど。寂しすぎて流石のぼっちマスターな俺でも耐えれる気しないし。


「!!!? おーイ、久しぶリです」

「「えっ!?」」


 俺と花凛さんがそんなやり取りを交わしていると突然、どこかで聞いたような声が聞こえ更に俺たちの元へと走ってくる人物が見え、俺と花凛さんは思わず2人揃ってそんな声をあげる。

 しかし、俺たちに声を上げながらこちらへと走ってくる人物はそんなことお構いなしと言わんばかりにドンドンとこちらへと近づいてくる。やがて、俺たちも誰なのかに気がついた。


「....ねぇ、なんか本当に東京の旅行の時みたいになってない?若干、怖さすら覚えてきたんだけど」

「奇遇ですね。俺も同じこと考えてました」


 そう、それはいつぞやの東京スカイツリーで出会った銀髪の美少女だった。




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 次回「膨らむほっぺと銀髪美少女」


 もはや、誰も覚えてないかもですけど18、19話で登場した人ですね。まさかの再会。一体どうなることやら。


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