第49話 海水浴の幕開け
「すぅぅ、はぁぁ」
「? ...どうしたの花凛姉。深呼吸なんかして」
私が自分の部屋で心を落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸を繰り返していると、たまたま部屋を覗いたらしい妹の奈々がそんな疑問を投げかけながら部屋へと入ってくる。
「なんでもないよ」
「なんでもないのに、そんなオシャレしてるの?」
「うぐっ」
相変わらずの奈々の鋭い指摘に私は何も言い返すことが出来ない。
「知ってる、お母さんから水着代出して貰ってたの見てるし。順兄と海にデートに行くんでしょ?」
「デートじゃないって! というか、知ってたのに「ついて行き来たい〜」って駄々こねなかったの? 珍しい」
それどころか奈々にあっさりとそんな風に言われてしまい慌てて訂正をする私。そして、それを誤魔化す為に別の話題を振ってみる。
「いや、話題逸らしたいのバレバレ。でも、まぁ乗ってあげる」
「奈々、もしかして私のこと舐めてたりする?」
「まぁ、多少は。まぁ、それはどうでもいい。それで、なんで今回は駄々をこねなかったのかと言うと」
「いや、どうでも良くはないよ!? 今、割と妹にとんでもないこと言われてるからね? お姉ちゃん」
さらっと奈々から衝撃的発言を受けてしまい、私も黙って聞くわけにはいかなくなってしまう。
「続き聞きたくないならいいけど」
「...口出ししないから続けて」
だが奈々にそんなことを言われてしまいまたしても何も言えなくなってしまう私。なんか私の妹めっちゃ悪魔みたいな笑み浮かべてない!? しかも、なんでそんな舌なめずりしてるの? なんか色々と怖いんだけど。
「まぁ色々と理由はある。でも、大きな理由は花凛姉と順兄が仲を深めるのは私にとって悪い話じゃない」
「? どうゆうこと?」
奈々の言葉の意味が分からず私は思わず聞き返す。
「だって、もし花凛姉と順兄が付き合ったら順兄ともっと会えるようになる。なんなら家族ぐるみのお付き合いが出来るから得しかない」
「つ、付き合うって..」
「それで、どうなの? 花凛姉は付き合う気あるの? 結婚はどう?」
「...奈々、なんか私をダシにして赤田くんの義妹にでもなろうとしてない?」
「き、気のせい。それは花凛姉の考えすぎ」
奈々は慌てて私から目を逸らして口笛を吹き始めた。怪しすぎる。
「...マジな話、花凛姉は順兄のこと好きなの?」
すると突然奈々が真剣な顔をしてそんなことを尋ねてきた。
「それはお姉ちゃん自身分からない、分からないんだ。でも...」
「でも..?」
「いや、なんでもない」
「なにそれ」
奈々は私の答えを聞いて不満そうに頰を膨らませた。でも、いくら奈々とはいえこれを言うわけにはいかないのだ。
今日、私は私自身の気持ちを確かめる。...そしてもし赤田のことが好きならすぐにでも...。
「本当にどうしたの? 花凛姉」
「ううん、なんでもない。じゃあ、私行ってくるから」
「い、行ってらっしゃい?」
私は私の中でとある決意を固めると勢い良く部屋の扉を開け、玄関へと向かうのだった。
「花凛姉、鞄忘れてるよ」
.....。
*
「すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ」
とある夏休みの水曜日の朝。今、俺は駅の前にて大きく深呼吸を行なっていた。というのも、
「いよいよ、か」
今日は花凛さんと海水浴に行く日なのだ。緊張しないわけがない。というか、しなかったらそれは最早俺じゃないような気がする。
もう一人の俺的ななにかみたいな? いや、自分でも俺がなに考えてるのか分からないけど、それほどまでに緊張してるということだ。
どこからか「や〜い、陰キャ。この程度で緊張とかw」などと聞こえてきそうだが、冷静に考えてみて欲しい。
海水浴だぞ? すなわち水着ってことなんだぞ!? そもそも、今日俺が逃げ出さずにここに来た時点で褒めてほしいものである。
というか、実際今すぐ逃げ出したいし。普通に考えて水着姿の花凛さんとか耐えられる気しないし、まともに目も合わせられなそうだし。
...でも、花凛さん本当に楽しみにしてるみたいだったからなぁ。まぁ、俺も楽しみなことには変わりないし。..ただ、心配ごとが多すぎるというだけで。
それでも花凛さんと行く以上は彼女に楽しんでもらいたい。
「いつまでも、ビビってないでいっちょ気合い入れるか」
「なににビビってるの?」
「花凛さん」
「あっ、私がビビられてるんだ」
「えぇ、本当に緊張しすぎて——って、花凛さん!?」
俺がそんなことをぶつぶつと呟いていると忍者のごとく突然現れた花凛さんにびっくりし、思わず大きな声を上げてしまう。
「いや、何度も手を振りながらこっち来たんだけど。というか、心の声漏れてたり気がつかなったり色々相変わらずだね赤田くん」
どこか懐かしさを覚えている様子の花凛さんはニコニコと笑みを浮かべている。...可愛い。じゃなくって!
「えっ、あっ、いやさっきの花凛さんにビビってるっていうのは意味がちょっと違くてですね—」
「分かってる。分かってるから、大体想像はついてるから。弁明しなくても大丈夫だから」
「あっ、はい」
俺がさっきとてつもなく失礼な発言をしていたことに気がつき、なんとかそれを嫌な意味ではないことを伝えようとすると花凛さんからそんな冷静な言葉が飛んできて俺も一旦落ち着く。
そして落ち着いた俺は現れた花凛さんの姿をしっかりと見てみるとことにした。
長く綺麗な髪を今日はストレートに伸ばしていてその上には暑さ対策の為か麦わら帽子を被っている。
そして、どこか夏を感じさせる青のブラウスに白のパーカーを羽織っていて、下は長い丈の黒のスカートだ。
花凛さんにとても似合っているのだが..当の本人はよく見てみると少し恥ずかしようで、鞄をキュッと強く持って目を瞑っていた。
「そ、そのー、どうかな?」
するとおずおずといった様子で花凛さんがそんなことを尋ねてきた。
そして、当然そんなことを聞かれるなどと思っていなかった俺は慌てていた。
えっ、これなんて返すのが正解なんだ? なんか、下手に返すとセクハラになったりしない? というか、そもそも花凛さんはどういう意図でこんなことを...。俺はあれこれ考えながらもなんとか言葉をひねり出した。
「い、いいんじゃないですかね。めちゃめちゃ似合ってて普段より可愛さが目立ってると言いますか。あの、はい。良いと思います」
いいじゃないですかね、とか最早お前何様なんだよと自分でも言いたくなるが当の花凛さんは一切気にした様子はなく、それどころか俺の右手を勢いよく両手で掴むと、パァァァァと今日1番の笑みを浮かべ..。
「本当!? 本当!?」
「ほ、本当ですけど..それより手を」
嬉しそうにそんな声をあげる花凛さんに俺は動揺し、耳までも赤くなっていくのが自分でもわかった。
「えっ、あっ、ご、ごめん。勝手に握っちゃって..」
そしてそんな俺の様子を見てか自分が俺の手を握っていることに気がついた花凛さんも、俺と同様に酷く慌てた様子で俺から手を放してくれた。...助かった、もう少しで俺がぶっ倒れる所だった。でも、何故だろう。何故だか少し惜しいと思ってしまった。
「じ、じゃあ、行きますか。電車に乗り遅れても嫌ですし」
「あ。あっ、うん」
まぁ、そんなこんなで俺と花凛さんの海水浴旅行が幕を開けるのだった。
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次回「夏と海と、水着と再会と」
次回はいよいよ、町田さんの水着お披露目回。良かったら星や応援お願いします。では! ...ちなみに割と先は長いです。まだ全然終われねぇ、
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