第48話 れっつ、オサレ
「ふぅ」
私こと町田 花凛は今日、普段は絶対に来ることのないとある場所に訪れていた。
そう...服屋である。
私は基本的に服に興味がない。私服のほとんどはお母さんが買って来たものであり、自分で選んだものは数着程度。
そんな私が何故服屋なんかに訪れているのか...その理由はただ一つだけだ。
「ええっと、水着コーナーはどこなんだろう」
赤田くんと行く海水浴に来ていく水着がないからだ。
*
と意気揚々と服屋に入り水着コーナーを見つけたのはいいものの、今私は完全に思考が停止していた。
というのも、スク水以外の水着を買うことは初めての経験でありどの水着がいいのか全く分からないということだ。
別に普通のものでいいのだがその基準すら分からないので選べない。
そして結局何も分からないままその場をぐるぐるすること数分。
「あのー、如何なさいましたでしょうか? 迷惑でなければお手伝いさせてくださいませんか?」
すると店員さんであろう髪の長い美人なお姉さんが私にそんな声をかけてくれるのだった。
「あっ、はい。是非よろしく、お願いします!」
まさに渡りに船というわけで私は素直にお願いすることにするのだった。た、助かった。
*
「はぁ、それで海水浴に行くことになったから水着を買いに来たというわけですね?」
「はい、そうです」
私が水着を買いたいがなににすればいいか迷っているという旨を店員さんに伝えると、「どういうシュチュエーションで行くのか」と尋ねられたので私は少し恥ずかしい思いをしながらもなんとか話しきった。
「そうですが、あと差し出がましいようですがお相手の方は女性ですか? それとも男性ですか?」
だが終わったと思っていた私に店員さんから思わぬ追撃が飛んでくる。
「....だ、男性..です」
「ええっと、デートになりますとコチラの水着の方が...」
「デートじゃありませんからっ」
私の答えを聞くなりそんなことを言い始めた店員さんに、私は慌てて訂正を加える。
「いやいやいや、どう考えても紛うことなきデートじゃないですか」
「違いますって!」
しかし、店員さんは納得がいかないとばかりに全力で首を振ってデートを主張してくるので、つい私も全力で首を横に振って応戦してしまう。冷静に考えるとなにやってるんだろう、私。
「そうですか...まぁ、それならそういうことにしておきます」
「なんでそんな含みのある言い方するんですか!? 本当にデートじゃありませんから」
「...でも、お客様はお相手にデートだと思って欲しいと思ってますよね?」
「....ち、違います」
店員さんの鋭い切り返しに私は動揺し少し言葉に詰まってしまう。
「今の若干の間はなんなんでしょうか?」
「うぐっ」
しかし、その隙を見逃してもらえず更なる追撃を受け、何も言えなくなってしまう私。
「なーんて、冗談です。つい、からかいすぎてしまったみたいですいません。でも、お客様は確か高校2年生でしたよね?」
「はい、そうですが」
軽くペロっと舌を出して頭を下げる店員さんだが次の瞬間に真面目な顔になると、私にそんなことを尋ねてきた。
「もし、お客様がお相手の方を好きなのでしたらここは最大のチャンスだと思いますよ。生かさない手はないと思います」
そして続けざまにそう言い放つ。そこには先程までの笑みはなく真剣な眼差しがあるのみだ。
「...分からないんですよ」
「分からない..?」
店員さんは私の答えに困惑したような顔を見せる。
「私、今まで誰にも恋をしたことがないんです」
「はい」
「でも、彼を見ていると心がどこか温かくなって、彼がほかの女の人と話していると胸が締め付けられるように苦しくなって、彼に名前を呼んで貰えるとどうしようもなく嬉しいんです。でも、今まで恋をしたことなんてないから、私は彼を友人として好きなのか、それとも異性として好きなのか自分でも分からなくて...でも、彼に会う時に恥ずかしくない水着を着ていたくて」
「....」
そして気がつけば私はそんなことを目の前の店員さんに話していた。冷静に考えれば私はおかしい行動をしている。出会ったばかりの...それもただの服屋の店員さんにこんな話。
ただそれほどまでに、今の私はどうしていいのか分からなくなっていた。
「でしたら、私にも力の限りお手伝いさせて頂きます。一緒に色々と試しましょう! お客様が最高の格好で当日に臨めるように」
すると私の話を聞き終わった店員さんがドンと自分の胸を叩き、そんなことを言ってくれた。
「お願い、できますか?」
「えぇ、任せてください。私は恋愛のスペシャリスト神崎ですから」
服屋の店員さんのはずでは、と思わなくもない私は思ったがそれを言うのは少し野暮っぽく感じたので口にはしなかった。
*
「お買い上げありがとうございましたー」
結局、あれから1時間弱神崎さんと悩みに悩みぬいた末に決めた水着を、私はレジで神崎さんに袋に入れてもらい代金を払って受け取る。どこか神崎さんも満足げな表情だ。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、私も楽しかったですから」
私が改めてお礼を伝えると神崎さんはそんな風に返してくれる。...本当にいい人だ。
「彼との進展があった時には夜の事もちゃーんと私に報告してくださればなんの文句もありませんよ。
「それじゃ、本当にお世話になりました。また来世」
「ちょっ、待ってよ。なんでそんな全力で逃げてくの!? おーい」
うん、いい人なのには変わりないけど出来ればもう関わりたくはないかもしれない。
と、そんなこんなでなんとか水着を買うことが出来た私であった。
あとはただ当日を待つのみである。
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次回「海水浴の幕開け」
次回は海水浴へ。レッツ、オーシャン!
はい、というわけで大変お待たせして申し訳ありませんでした。ようやく昔の自分が書きたかったことを思い出せたので少しずつですが再開していこうかなと思います。もし、よろしければご覧ください。本当に申し訳ありませんでした。
なんとか完結まで頑張ります。
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