第47話 なんだ、この生物
「それで……海水浴の件でしたよね?」
「う、うん。そう、だよ」
店の外に出た所で俺がそう尋ねると花凛さんは必死に首をブンブンと縦にふる。
どうやら本当の本当らしい。……マズイ、色々と焦りすぎて日本語すら怪しいぞ俺。
「他の友達とかとは行かないんですか?」
かなり仲良くなれたと俺自身認識出来ているとは言え、花凛さんと2人で海水浴へ行くのはあまりにハードルが高いと考えた俺はこう聞いてみることにする。
「……でも、そうしたら赤田くん来ないよね?」
「うっ」
しかし、ややジト目の花凛さんに冷静な指摘を受け俺は思わず言葉に詰まる。確かに他のクラスメイトとか来るなら行かないけどっ。
しかし、海水浴に関しては今までと比にならないくらいハードルが高いと考えている為、上手く逃げようと思ったのだが……流石に読まれていたか。
「そもそも、俺なんかとで本当に大丈夫ですか? 花凛さんならいっぱい誘ってくれる人もいるでしょうし、いい友人だって——」
「違うのッ」
俺がそこまで言いかけた所で珍しく花凛さんがやや声をあら上げる。
「それじゃ……意味がないの」
「?」
次に花凛さんが口にした言葉の意味もよく分からず俺は首をかしげる。
「私は……そのっ、赤田くんと行き、たいからそれじゃあ意味がない」
「ッ!?」
花凛さんが少し目を潤ませ、俺の服の袖をキュッと掴みながらそんなことを言うので俺は固まってしまう。
絶対に友達的な意味でしか言ってないのは分かっていると言うのに、花凛さんのその可愛らしさに声が出ない。
本当になんなんだ、この生物。
「あっ!? い、いや、そういう意味じゃないからね!?」
そして次の瞬間、なにかに気がついたように慌てて声を出す花凛さん。当然、そんなことは言われなくても分かっている……がそんなに耳を真っ赤にして言われると俺でも勘違いしてしまいそうだ。
相変わらずの破壊力。
「わ、分かりました。行きましょうか、海水浴」
これ以上続けると落ち着きが保てなくなると判断した俺はやや早口でそう口にする。
「本当っ!? えへへ、楽しみ……」
花凛さんは俺の言葉に本当に嬉しそうに跳ね上がると、口元を緩めそんなことを口にする。
「やっぱりやめておきましょう」
「なんで!?」
そして俺はと言えばダラダラと汗を掻きながら手を挙げそう告げる。
理由は至極簡単、まだ行ってもないのにこの喜びようと可愛さだと行った時に俺が倒れてしまうかもだからだ。
「や、やっぱり、ダメ?」
「じょ、冗談ですからっ。行きます、行きますからっ」
再び目を潤ませ、若干の上目遣いでそんなことを言われてしまった俺は慌ててそう口にする。
「よ、良かったぁ。と、とりあえず今日はそういうことでっ。日付とか詳しいことはまた後日」
「は、はい」
花凛さんのセリフに俺はやっと少し息をつく。色々と心臓に悪すぎる時間だった。
「……あっ! そういうわけだからもし水着とかなかったら買っといてね。じゃ、じゃあまた明日」
花凛さんはそんなことを言うと俺が声を出すより早く足早に去って行ってしまう。
明日はバイトはないのだが多分花凛さん焦って間違えちゃってたな、とか色々と思うところはあるが……。
「水着……?」
俺にとっての最優先事項はこれである。あの言い方だと花凛さんも水着で来ると言うことなのか!?
というか、よく考えたら海水浴って海じゃんっ! 水着じゃんっ! アホなのか俺っ。
だがその場合、どういったリアクションをとるのが正解なんだ!?
俺は動揺を隠しきれず頭を抱え、その場にうずくまるのだった。
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次回「レッツ、おされ」
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