第46話 結局、海水浴ってどうします?


「はー、緊張しました」

「……ですね」


 本城さんの元での初バイトを終えた花凛さんと俺はお互い軽く息を吐きながらそんなことを口にする。

 額には軽く汗が流れているがこの汗は夏だからなのか、それとも緊張故かは俺自身にも分からない。


「まぁ、順一くんが噛んだのはちょっと意外すぎたけど、ねっ」

「わっ!? 沙耶華先輩!? というかそれは忘れてくださいよっ」


 俺と花凛さんが話しているといつの間に後ろに来ていたのか、沙耶華先輩が俺の髪をわしゃわしゃと弄りながらそんなことを告げた。


「えっ!? 赤田くんが噛んでたんですか?」


 花凛さんには知られてなかったのに……最悪すぎる。平常心とか大層なことを考えてたら普通にあの後の挨拶で噛んだんだよな。

 やっぱり、平常心とか考えてない時が一番平常心なんだよな。自分が意識しすぎてるってことはそれが出来てないってことだから。

 つまり俺の努力がまだ足りてなかったということだ。


「そうなんだよね〜。いらっしゃいまちぇって感じで本当に相手のお客様も笑い堪えるの必死そうで、それを遠目からたまたま見ちゃった私も堪えるの大変だったんだから」

「お願いですからあまり言わないで下さい」


 とは言え何度もほじくり返されると死にそうになるのでここらで止めて貰おう。一体どんな顔して花凛さんの方を見ればいいんだ。


「……耳真っ赤」

「えっ、本当!? レアじゃん」

「ち、違います」


 俺がそんなことを考えていると俺のことを黙って見つめていた花凛さんがボソリと呟きを漏らし、沙耶華先輩がそれに大きく反応するので俺は慌てて誤魔化す。


「というかレアってなんですか!?」


 そして話題を変えるべく更なる追撃を食らう前に沙耶華先輩にそう切り出す。


「いやー、順一くん自覚ないかもだけど普段全然顔色変わらないというか、無表情というかだし。ね?」

「そ、そうですね」

「!?」


 俺としては話題を変えたいが為に発したセリフなのだが、沙耶華先輩と花凛さんから予想外の返事が返って来る。


「なんか本当に自覚なかったっぽいけど、まぁいいや。本城店長はまだ忙しいし、2人とも今日はお疲れ様。また、明日もよろしく!」

「「お疲れ様でした」」


 沙耶華先輩の言葉に俺と花凛さんは揃って頭を下げる。


「じゃあ、店の出口までですけど行きますか、花凛さ——」


 ここからは各々別れての帰宅となる為、俺はそう切り出したがどうにも花凛さんの様子が変だと言うことに気がついて言葉を止める。


「あ、あのーどうかしました?」

「えっ、あっいや……その」


 俺が少し気になって尋ねてみると花凛さんは慌てたように手足をばたつかせる。


「?」

「なんと言うかそのー今日言ってた海水浴ってどうするのかなぁと思わなかったり……」

「え?」


 そして何かを決意したかのような目をした花凛さんから出た言葉に俺は思わず固まる。

 あれって、話のネタにする為のものじゃなくて本当に行くという話だったのか!?

 えっ、というか本体に今更ながら考えると俺と花凛さんで海水浴行くって何!? どう言う状況!?


 あの時の俺は夏休みということもあって浮かれてたのと、話のネタとしか考えなかったから簡単に同意出来たが……よくよく考えると馬鹿みたいにハードル高くないか!?


「えぅ!? 2人で海水浴行くの?」


 俺が額にさきほどとは比にならないほど汗を掻き、考えを巡らせているとまだこの場に残っていた沙耶華先輩がそんな声を上げる。


「と、とりあえず店の外に出ましょうか」

「そ、そうですね。バイトも終わりましたし」

「ちょっ、それ詳しく教えてよっ」


 まずは落ち着いてからということで、沙耶華先輩の前では話せないと判断した俺が花凛さんにそう提案すると、ややいつもより固い動きで花凛さんも頷く。

 沙耶華先輩はとても聞きたそうにしていたが俺たちは急いで店の外へと向かうのだった。





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 次回「なんだ、この生物は……」



 投稿大分遅れてすいません。春休み明けに課題テストがあるということで親からスマホ禁止命令が出ておりました。

 自分も高2になりましたので模試の前とか同じようなことになるかもですが、どうぞよろしくお願いします。

 本当に申し訳ないです。


 では!






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