第42話 ん〜、おかしくない?
「まっ、こんなもんかな? 家とかでも出来たら練習してくれると嬉しいけど……というか、教えやすいね花凛ちゃん」
「あ、ありがとうございます! 頑張りますっ」
花凛さんがいつもとはまた違った挨拶を教えて貰ってから少し経ち、沙耶華先輩からオッケーが出た。
まぁ、とは言え10数分くらいだし早い方か。花凛さんは本当に真剣にやるし雰囲気も明るくしてくれるから、教える側からやりやすいってのは良く分かる。
特に俺みたいな隠キャからすると有り難いけど沙耶華先輩でもかなり有り難く感じるらしい。
「ってことは次は順一くんの指導ターンか」
「お願いします」
「んー、どうしようかな?」
「なんでちょっとやるか迷ってる感じだすんですか!?」
沙耶華先輩の言葉に俺が思わずツッコミを入れると、沙耶華先輩は今日何度見たか分からない悪戯っ子めいた笑みを浮かべる。
「順一くんだしなぁ」
「酷くないですか!?」
「冗談、冗談。まー、お姉さんに任せなさいって。だからそんなに緊張してなくて大丈夫よ?」
俺の僅かに震えていた腕を指差した後、沙耶華先輩は俺の肩を軽く叩くと更に笑いながらそう続けた。……この人、いつから気がついてたんだ?
「あ、ありがとうございます」
沙耶華先輩のボケが緊張していた俺をほぐす為に行われていたことに気がついた俺は忘れずに感謝を伝える。
「いいって、いいって。そんなの気持ちという名のチア衣装で踊るってことをするだけでいいんだから」
「絶対にやりませんよっ」
確かに感謝はしたいがそこまでするとは言ってない。と言うか、この人どんだけ俺にチアやらせたいんだ。
「順一くんがなんでもやるって言ったんだよ?」
「とんでもない曲解されてる!?」
俺この人に「ありがとうございます」って言っただけだと思うんだが……恐ろしい人だ。
「年上のお姉さん騙してなにが楽しいって言うの?」
「まず騙してないですから」
「まっ、いいや。とりあえず着いて来て」
沙耶華先輩は先程までの話などなかったかのような態度で手招きをする。俺も少し疲れたので敢えてツッコミを入れず大人しくそれに従うのだった。
*
「なるほど、この機械はそういう……ありがとうございます」
「あとで紙も渡すしよく読んでおいて。割と重要な奴だから」
「勿論です」
「なんか固いなぁ。もっとフランクにいこ。順ぴぃ」
「誰が順ぴぃですか!? 沙耶華先輩はフランクすぎますよ」
「あはは、そりゃそうだ。それでさ、とこでだよ?」
「はい」
あれからしばらくし説明も殆ど終わったらしいので、俺が軽く沙耶華先輩と談笑していると突然沙耶華先輩が言葉を区切る。
「本当に今更なんだけど……花凛ちゃんはさっきからなにしてるの?」
「……」
沙耶華先輩が先程から俺の背中に隠れ、俺の服の裾を少し手を震わせながら掴んでいる花凛さんを指差しそう口にした。
俺自身全く分からないので沈黙しか出来ないが、花凛さんも答える様子はなくただ俺の背中に隠れるだけである。
「多分花凛さんも色々と見たかったんじゃないですか?」
この空気感はマズイと思った俺は可能性のありそうなことを上げてみる。
「いや、さっきから順一くんの後ろで顔隠してるだけだしなにも見えてないと思うんだけど?」
しかし沙耶華先輩から冷静な指摘を受け俺は何も返せない。……正直、それを言われたら終わりである。というか、俺自身かなり困惑中だから冷静な思考になれてない説はある。
「あのー花凛さん?」
「な、なんですか?」
「な、なんですかというか……そのーどうしたんですか?」
「な、なんでもないですよ?」
俺は未だに後ろで俺の服を裾を掴み顔を伏せている花凛さんに尋ねてみるがそう言われしまう。いや、なにもないことはないと思うんだけど……。
「なんでもないなら、そのーちょっと手を離して貰っていいですか?」
「……それはダメです」
「なんでですか!?」
俺としてはちょっと恥ずかしいのと色々とで手を離して貰いたいのだが、花凛さんは静かながらも頑として手を離してくれない。
一体、これはどういうことなんだ。誰か教えて! ヘルプっ! スーパーヘルプっ!
「えっ、というか私は本当になにを見させられてるの? でも、とりあえずご馳走さまでーす」
目の前では沙耶華先輩がなにやら言っていた気がしなくもないが……俺はそれどころではなく、あまり頭に入って来ないのだった。
ちなみに今日、この店を出るまで花凛さんが手を離してくれることはなかった。
顔も見えないので推理のしようもない為、とりあえず俺は考えることをやめた。
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次回「夏だ! 休みだ! ???だーっ!!」
良かった星や応援お願いします。(春休みの宿題舐めてたら冬休み以上に出て、新学期早々1年のまとめテストがあるらしいので泣きながら机に向かう者より)
では! (まーた、勉強かぁ)
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