第41話 花凛さん?
「っと、もうこんな時間か。……なぁ、本当に私は行かないといけないのか?」
腕時計を見ながら少し不満げな声を上げる本城さん。どうやらもう出かける時間みたいだ。
「店長なんですからしっかりしてください」
そこへ飛ぶ沙耶華先輩のど正論。だが、本城さんはまだ不満の様子で口を開く。
「でもな、こんな面白い所を自分から離れるなんて馬鹿な真似——」
「今度、梅さんに言って説教して貰いますか?」
「じょ、冗談だから絶対ヤメてっ! あの人が怒るとヤバイからっ。私、落ち込んじゃうから」
しかし、沙耶華先輩の言葉に本城さんは慌てて態度をひるがえすと準備をしていたらしい荷物を持って、店を出る扉へと向かう。
というか沙耶華先輩さっきから強いな。
あの本城さんをここまでコントロール出来るとは……。やはり普段から接しているだけあって慣れてるということか。
「さっ、うるさ——本城店長も出かけたし早速始めようか? 2人とも」
「「はい」」
絶対にうるさい人って言いかけましたよね? そう思ったが口には出せない俺と花凛さんなのであった。
まぁ、そんなこんなで沙耶華先輩による指導が始まるのだった。
*
「こ、これならどうですか?」
「うーん、全然かな?」
「き、厳しいです」
沙耶華先輩から中々にまた辛口の意見を貰いガックリと肩を落とす花凛さん。
ちなみに今は沙耶華先輩による、花凛さんのお客様への挨拶指導中である。
挨拶や声かけなどに関しては店の雰囲気などによって最適解が異なる為、現在普段とは違う声の出し方を要求され花凛さんは珍しく苦戦していた。
まぁ、こういうのはぶっちゃけ経験が大きいからな……花凛さんは真面目だしセンスもいいけどこればっかりは時間がかかるだろう。
たかが挨拶と思うかもしれないが、ここはオシャレで高い値段のカフェなわけだからな。
接客でも少しでも良いパフォーマンスが必要というわけだ。
「いや、お客様への気持ちは伝わって来るし声も出てるんだけどね。若干、落ち着きが足りないというか。声が上ずってるんだよね。やっぱりこういう雰囲気の所はクールな方が似合うし、落ち着いたトーンで言ってみよう」
「は、はいっ!」
「そして順一くんはボーとしてないでボンボンを持って花凛ちゃんを応援してあげて」
「なんでですか!?」
花凛さんに真面目に指導を行っている沙耶華先輩は振り返ると、何故か手に持っているボンボンを渡しながらそんなことを言う。
絶対に必要ない役割だよね、これ?
「いやー、割と順一くんには言うことないからさ。でも、何もしてないと暇だろうと思ってさ……あっ、チア服も着る?」
「着ませんよっ」
梅バァと言い、本城さんと言い、沙耶華先輩と言い何故か俺をイジる人が多い気がする。そんな俺はいじられやすい奴なのだろうか?
……ちなみに花凛さんがなにかを期待しているような目でコチラを見ているのが少し気になった。
いや、着ないからね? というか、多分そういう視線じゃないよね? 信じていいんだよね、花凛さん?
「というか、沙耶華先輩は大分お若く見えるというか下手したら同年代に見えるんですけど何歳なんですか?」
まぁ、多少暇をしているのは確かなので俺は軽く気になったことを沙耶華先輩に尋ねてみる。
「えー、女性に歳聞いちゃうの? 教えないよ?」
「あっ……いや、すいません——」
「まっ、順一くんだしいっか。21歳だよ」
「どっちなんですか!?」
教えないよ? からの一瞬の手のひら返しに俺は思わず声を上げる。完全にこの人からかってるだろ。
「今日、可愛い後輩がでけた」
「さりげなく髪の毛弄ろうとしないでくださいよっ」
「ちぇ、バレたか」
舌を可愛らしくチロっと出して笑う沙耶華先輩。……なんか、本城さんムーブを感じて来たな。
「髪の毛くらい触ったていいじゃん」
「よくないですよっ」
「あははっ、そりゃそうだね」
「な、なんでそんなに仲よさそうなんですか!?」
「「えっ?」」
俺と沙耶華先輩がそんな会話をしていると今まで黙り込んでいた、花凛さんがそんな声を上げる。どういう意味なのだろうか?
「ふ、2人って本当に今日会ったばかりですよね?」
花凛さんが自分の服の裾を掴み少しいじけた様子で、そんなことを尋ねくる。本当にどうしたのだろうか?
「実は幼馴染なんだよね〜」
「一瞬でバレる嘘つくのやめてくださいっ」
「一瞬騙せれば充分なんだよね」
「最低だ、この人っ」
「あはは」
「それですよっ!」
「「えっ?」」
また、沙耶華先輩に弄ばれ俺がツッコミを入れていると花凛さんが指差しながらそんなことを言う。
「そ、そのなんというか仲の良さそうな感じがどこはかとなくこ、恋人みたいでっ」
「?」
「あー、はいはい。なるほどなるほど」
俺はイマイチ理解出来ないが沙耶華先輩は分かったようで首をしきりに縦に動かしていた。これに関しては俺の国語力がないのか?
「なんか嫌……なんです」
「おっ」
「?」
花凛さんの嫌という言葉に沙耶華先輩はなにかを期待するような目でこちらを見るが、さっぱりである。分からない。
「マジか、君」
そして俺が疑問符を浮かべていると少し引いたような目でそんなことを言う沙耶華先輩。
「こりゃあ重症だね」
そしてなにかをまとめるように言う沙耶華先輩。……なにが? どういうこと?
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次回「ん〜、おかしくない?」
次は可愛い花凛ちゃんを見れるかも……-?
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では!
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